第7話 世界中が見てる


 地球人類との初交渉を、ひとまず良い形で終える事ができた。

 まあ、商売として形にするのはまだこれからだけど。


「ふう……」


 大統領が見えなくなると、私は深く息をつく。

 もう、へとへとだ。

 地球のお偉いさんに囲まれて、しかも私が話の中心とか。

 何なのこの仕事。

 ともかく、今日のスケジュールはこれで終わりらしい。


「マルデリタ様。こちらへどうぞ」


 案内の人が招いてくれたのは、豪華なベッドルームだった。

 高級ホテルのスイートな感じだ。

 私は恐る恐る中に入って、ベッドに腰かける。ふわっふわだ。


「明日は大統領と共に会見に出て頂く予定になっております。

ご不便がありましたら、何なりとお申し付け下さい」


 案内の人が丁寧に頭を下げるので、私は開き直ってお願いをする事にした。


「あの、インターネットとかってあります?」


 前世で死んだ1995年の時点では、インターネットはあまり普及していなかった。

 友達の家にFN-7やwindowzがあって、PC用のゲームをやらせてもらっていたのを覚えている。

 当時は最新のOSがwindowz95だったと思う。



 さて、少し待つと準備が整ったようだ。


「こちらが最新のPCになります。インターネットにもお繋ぎ頂けますが、書き込みなどはお控えください」


 パソコンの画面に表示されたのは、Windowz10という文字。

 ああ、会社は変わってないんだね。

 そんな感想を抱きながら、私は手探りでパソコンを触っていく。


 基本の操作は変わっていないようで、マウスを操作してブラウザを開いてみる。


 すると、ニュースの画像とタイトルが表示された。


『アメリカ政府が緊急記者会見を予定。人類の歴史を塗り替える発表か!?』


 気になる見出しをクリックしてみると、どうやら明日の会見についてらしい。


『アメリカ政府は明日、世界に向けて重大な発表を行うと発表した。

詳細はまだ発表されていないが、「人類の歴史を塗り替える記念すべき日となる」という。

よほど重大な発表のようだが、ポジティブなものである事は間違いないらしい』


 そんな内容だった。

 うん、私の事だよねこれ。

 まだ今は秘密にしておいて、明日の会見で一気に説明するつもりらしい。

 うわあ、世界中に発表するってこんな感じなんだ。


 今頃日本でもニュースになってるのかな。

 そんなことを考えながら、ブラウザで検索していく。

 このあたりはマルデアの魔術通信ネットと似ているので、すぐに使い方はわかった。

 と、コミュニティサイトみたいなものが出てきた。



 ツイットーというサイトらしい。


『アメリカ 記者会見』で検索すると、大量に人々のコメントが表示される。

 

xxxxxx@xxxxx

『アメリカの記者会見。この予告はよっぽど自信のある内容らしい』

xxxxxx@xxxxx

『新しい資源でも発見したのか?』

xxxxxx@xxxxx

『見当もつかないわ。でも、良い事であってほしいわね』

xxxxxx@xxxxx

『宇宙開発系なら宇宙における生命体の発見かもしれない』

xxxxxx@xxxxx

『政府の自慢なんてどうせ大した事はないだろう』

xxxxxx@xxxxx

『今の苦しい時代に、光明となるような何かであってほしい所だ』


 各々が予想や希望を語り合っている。

 物凄い量の書き込みだ。言語も多種多様。やっぱり、世界が注目しているんだ。

 こんなの胃が持たないよ……、なんか頭も痛くなってきた。

 私はパソコンを消し、ベッドに潜る。

 どうってことはない。

 ただ会見に出て、ちょっと話すだけなんだ。

 自分にそう言い聞かせながら、私は何とか眠りについた。



 そして、朝。

 うん、あまり寝れなかった。

 ベッドから出ると、なんか家政婦さんっぽい人が身支度を手伝おうとしてくる。

 私は丁重にお断りして自分で着替えた。



 それから私はスーツの男性に案内され、早速会見場へと向かう事になった。

 私は、とんでもなく緊張していた。

 アメリカ全土、いや世界に向けた記者会見だ。

 場所は、ホワイトハウス内にある会見場らしい。

 広い場所ではなかったが、席にはメディア関係者らしき人たちが集まっている。

 カメラを持った人間も、壁際にずらりと並んでいた。

 控室で待っていると、時間がやってきた。


 まずガーデン大統領が壇上に向かい、メディアに向かって挨拶をする。

 そして場が温まった所で、彼のスピーチが始まった。


「アメリカがNASAを発足したのは、1957年のことだ。

我々は宇宙開発に本腰を入れ、1969年には史上初の月面着陸を成功させた。

それからも、我々は宇宙への探求心を絶やさず燃やし続け、研究を続けた。

その結果、なんと我々はついに知的生命体の住む星を発見したのだ」


 その言葉に、メディアが「おおっ」と反応した。

 大統領は満足げに笑みを浮かべながら続ける。


「NASAはそんな彼らとの交信を試み、ついに交流を成功させた。

相手は予想以上の存在だった。異星の人々は我々の信号を解析し、すぐに返事を送ってくれたのだ」


 ガーデン氏の説明は、情熱的でとてもドラマチックだ。

 ただマルデアに完全に無視された部分はカットしたらしい。


「そして、今日この日。我らが友好星マルデアから、親善大使が地球に訪れた。

このアメリカに、素晴らしい文明を届けてくれたのだ」


 大統領の言葉に、会場が今度は大きくざわめく。

 さあ、私の出番だ。どうしよう、震えてきた。


「紹介しよう。マルデアに住む我が友人、リナ・マルデリタ嬢だ」


 大統領の声に、私はカチカチになりながら舞台へ出て行く。

 シャッター音が会場に響く。

 逆に、誰も声は上げていなかった。

 みな、私という宇宙人を観察しているのだろう。

 さて、ご挨拶しなきゃいけない。

 私は一礼してから客席を見やる。


「は、はじめまして。私はマルデア星から来た、リナ・マルデリタです。

地球という素晴らしい星に来れた事を嬉しく思います。よろしくお願いします」


 マイクを前に挨拶すると、大統領は微笑んだ。


「彼女はとても流暢に英語を使う。どうやら、こちらの文明について熱心に勉強してくれたようだ。

耳の長さを除けば、まるで普通のアメリカ人にも見えてしまうね。だが、そうではないことを証明しよう。

マルデリタ嬢。お願いできるかな」


 芝居じみた大統領のフリに、私は頷く。


「風の力よ」


 魔力を込めて念じると、私の服が大きく揺らめく。

 すると体がフワリと宙に浮き、魔法の輝きを放ち始める。


 会場の注目が、さらにこちらに集まるのがわかる。


「マルデア星が持つ魅力。それは、我々が娯楽世界で夢見てきた魔法文明だ。

彼女はその力を、我々にも分けてくれたのだ」


 大統領の言葉に合わせるようにして、今度は右手から男性が現れる。

 スーツの彼は、手に魔石を持っていた。

 どうやら魔法のパフォーマンスをするらしい。


「飛べ」


 そう念じるだけで、男性の足が床を離れて浮かび上がる。

 彼は髪を揺らしながら、ぎこちなくも宙に漂っていた。


 政府は収縮ボックスではなく魔石をこの会見の見世物に選んだらしい。見栄えが良いからだろう。

 それを眺めながら、大統領は話を進める。


「これは魔石と言って、魔力のない人間でも魔法が扱えるようになる道具だ。

彼女は、これを交易品として持ってきてくれた。他にも、便利な魔法の品を頂いた。

これを見たみなさんは、何かのトリックと思うかもしれない。

大統領がマジックショーを始めたぞ、などという冗談も聞こえてきそうだ。

だが、これはトリックでもなんでもない。上から紐で釣りあげているわけでもない。

疑うなら、この映像を記録して十分に解析してみるといい。

これは完全に本物の魔法であり、科学技術によって生み出された現象ではないのだ」


 そんな説明に、場内はシンと静まり返る。

 まだみんな半信半疑なのかもしれない。

 だが大統領は力強く拳を握り、熱を入れて語り出す。


「私はアメリカ大統領として、責任ある発言をしているつもりだ。

大勢のメディアを前に、バカげた嘘をつくような事はない。

アメリカ政府の代表として、ここに堂々と宣言する。

我々人類は、魔法との邂逅に成功したのだ」


 すると会場が徐々に沸き上がり、拍手に包まれ始める。

 どうやら盛り上がっているようだ。

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