第3話 地球とのやり取り


 私は一度実家に戻って、両親にこれからの事を話しておく事にした。

 居間でゆっくりと報告すると、二人はとても驚いていた。 


「はあ!? 地球へ行く? リナあなた、正気なの?」


 母は目を見開いて、信じられないといった様子だ。


「本部を蹴って遠くの星へ行くとは、何かあったのかい」


 父は、ただ心配そうに問いかけてきた。


「私、地球にどうしても行ってみたいんだ。その、母さんにはいつか言ったでしょ。私には前世の記憶があるって」

「……。あれ、冗談じゃなかったの?」


 母は、私の告白をジョークだと思っていたらしい。


「ほんとのことだよ。私は、地球の日本という国で暮らしてた。そのころの私は男で、若いころに死んじゃったんだ」

「……。嘘では、ないようだな」


 父は診療師で、魔術で相手のウソを見分けられる。私が本当のことしか言っていないのを、すぐにわかったんだろう。


「私は、いつか故郷の国にも行ってみたい。前世の父さんと母さんがもしいたら、会って謝りたいんだ」


 私はうつむきながら、絞り出すように言った。

 母は少し沈黙した後、頷いてくれた。


「……。そう。そういう事なら、いいわ。行ってあげなさい。それで、お母さんとお父さんに会ってあげてね」

「うむ。きっとご両親も、喜ぶだろうな……、僕がその親なら、きっと涙が出るほど嬉しいだろうさ。だから、止めはしない。だが、気を付けるんだぞ」

「うん。ありがとうお母さん。お父さん」


 私は出立の日まで、両親と一緒に過ごす事にした。




 本部は、私の仕事について一応のお膳立てはしてくれたようだった。

 その日から、地球からの交信が本部を経由して全て私の魔術デバイス宛てに届くようになった。

 二時間ごとに魔術通信(メール)が来る。

 そりゃもう、うるさいうるさい。

 アメリカの政府から、定期的に英語やモールス信号など、色んな形で言葉が届くのだ。

 あっちも言語が通じないのを予想してか、こちらが解析しやすそうな信号を送ってくる。


 これをどう処理するかは、すべて私に任されている。返事するもしないも私の自由である。

 だが、相手はなんというか、アメリカだ。三億人以上の代表が送ってきているのだ。

 責任は重大である。


 私はまず文章をデバイスで解析して翻訳し、文字を読み取る。

 内容は大体こんな感じだ。


『親愛なる遠き星の人々よ。我々は地球という星の代表であるアメリカ政府だ。

我々にはそちらと交流をする用意がある。ぜひとも返事をもらいたい。できる限り、そちらの意見を尊重したい』


 割と下手に出て、友好的に話し合おうとしている感じがある。

 とはいえ「地球のリーダーです」というアピールを忘れないのがアメリカらしい所だろうか。


 さて、まずはこれに返事をして、交渉の第一歩を踏み出さねばならない。

 これが私の仕事の始まりである。

 やっぱり英語だし、最初はDearをつけた方がいいかなあ。

 そんな風に悩みながら、私は文字を書き込んでいった。


『拝啓、地球の皆様。

リナ・マルデリタと申します。私が地球とマルデア星の交渉を任されました。

マルデアの上層部は交流を嫌がっていますが、私だけが交流するなら問題はないそうです。

私が地球に行きますので、受け入れてくれると嬉しいです。

地球の皆さんが喜びそうな品をお持ちしますので、どうぞよろしくお願いします』


 随分と一方的で上から目線な返事になったが、事実は書いておかねばならないと思った。


 この文章を送る先は、もちろんアメリカだ。

 個人的には故郷のある日本と連絡したかったが、地球側でマルデアを発見したのがアメリカだからね。

 他の国はまだマルデアを発見すらしていないのか、全く通信してこない。

 ならまずは、アメリカとやり取りするべきなのだろう。

 魔術通信(メール)を送って待っていると、二時間後に地球から返事が来た。


『親愛なるリナ・マルデリタよ。我々地球人はあなたを歓迎したい。

いつどこにどういう方法で来るのか、教えて欲しい。アメリカで迎えを用意させてもらう。

歓迎会を開き、地球とマルデアの今後や、貿易について語り合いたい。できればメディアに向けて会見なども開きたい。

スケジュールについて話し合いたいので、返事を頂きたい』


 そう書いてあった。私が送った文章は自分で見てもちょっと嫌な感じだったのに、あっちはかなり好意的である。

 まあ、文明レベルの差はあちらも何となくわかっているのだろう。

 こっちは地球に一瞬で行ける。でもあっちはマルデアに来れない。

 それだけでも、技術力の差は明らかだ。

 得体のしれない技術を持っている未知の相手に対しては、アメリカも強くは出れないのだろう。


 その後、私は普通に仕事の予定を立てる感じで魔術通信(メール)を送って、スケジュールを決めて行った。

 あっちは、こちらの指定に極力合わせてくれる感じだった。

 でもこのやり取り、今のアメリカ大統領とかが真顔で見てるんだろうなあ。

 あっちからしたら初の地球外知的生命体、いわゆる宇宙人との交流だもんなあ。

 この通信も、あっちでは歴史的瞬間みたいな感じなんだろうなあ。

 私は空を見ながら、アメリカのNASAとか政策本部の現状をイメージする。


「かの星から返事が来ました!」

「本当か! で、言語や信号は通じたのか?」

「は! あちらは英語を理解しているようで、英語で返事がきました!」

「既に英語が解析されたのか。やはり文明レベルは向こうが一枚も二枚も上手か……」

「星の名前はマルデアだそうです。これもまた、偉大なる発見と言えるでしょう」

「メディアへの発表はどうします?」

「伏せておけ。通信が成功した事を、まだ他国には知らせるな」


 みたいなさ。

 のちにハリウッド映画になったりして。

 マジやばいなぁ……。


 こっちは実家で十五歳の女子が一人、ぽちぽちデバイスに文字を打ち込んでるだけなんだけど。

 緊張感がないよね。誤字っちゃいそうで怖いなあ。

 歴史的瞬間で誤字とか、恥ずかしいよ。そのまま映画化されそう。


 そんなしょうもない事を考えながらも、私は開き直って通信を続けた。


 途中で母がデバイスを奪い取って、アメリカ政府に『リナの母です。私の娘を傷つけたら許しませんからね!』と送り付けていた。

 大統領はそれをどんな顔で見たんだろう……。

 わからないけど、二時間後に返事は来た。


『親愛なるマルデリタの母よ。あなたの娘を傷つけない事をお約束しよう。アメリカの総力を挙げた警備を用意させてもらう』


 どうも、暑苦しい歓迎会になりそうだった。

 あ、そうだ。英語も覚えとかないと恥をかきそうだ。



 それから、私は来るアメリカ行きを控え、勉強したり悩んだりしながら忙しく過ごした。


 そして、ついに出発の日がやってきたのである。


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