第119話 見学

 〜 ギルド レザムールズ 会議室 〜


 ミシェルから緊急で会議を開いて欲しいと連絡があった。

 

 とても慌てた様子で会議室へ入って来た。メンバーは既に揃っているよ。


「大変です!」


「オルフレッドなら来ないと言ってきたわよ?」


「違います! 王都からSランクの鍛治師が来ます。それ以外にも他の都市からAランクの裁縫師、同じくAランクの革細工師が移住したいと書簡が届いています」


 これにはさすがにみんな驚いた。でも何で急にそんな凄そうな人達が来る事になったんだろう?


「お父様が、ザリウスのお父様が要請してくれたそうです」


 ダークエルフ族の高ランク技術者にザリウスの父から直接依頼があったそうだ。


「ほう……全く動かないと聞いていたが動いたか」


「ザリウス。よく頑張って説得してくれたわね」


「俺は何も……父上には移住を勧めたがそこまでの事は頼んでいない」


「では族長のお父様のご判断という事ね」


「ああ。母上から話を聞いて決断したのだろうな」


「あのお父様が……良かった。本当に良かった……」


 ミシェルさんが涙を流して喜んでいる。


「これに呼応して同胞達がさらに集まるかもしれないな」


「ではみんな受け入れの準備を。それと当たり前だけど差別や偏見の無い様にね」


 話はまとまった。これで生産ギルドの課題も解決だね。


「じゃあ、ザリウスのご両親も来るんだよね?」


「ああ……移住はしてくれる。ただ都市内は嫌だそうだ。恐らく母上の方だろう。静かな生活を好まれるのだ」


 ザリウスは少し悲しそうだ。


「ホクトさん。適した場所を選定してあげて」


「承知しました。一定数いると思われますので村の設置を検討します」


「ティアナ。万全の防衛態勢を整えて」


「了解です。都市と同レベルの防衛を施します」


 次々にミンフィーが指示出していく。


「モッシュ。技術者を送り出してくれた領地に御礼の品を届けて貰うわ。農作物とキャンプグッズね」


「分かったよ。でもそんな物でいいのかい?」


「ウチの特産品よ。今はこれしかないわ」


 確かにそうだね。エドワード領みたいにお金を送る訳にはいかないよ。


「王都には私が出迎えに行くわ。他はアイリスを外交官として派遣ね。ザリウスはご家族を頼むわよ。ミッションを発令。移住の際に護衛を頼むわ」


「「「 了解です!! 」」」


 アイリスとザリウス、ミシェルにも指示が出た。


「クルミ。エドワード領の偵察をお願い」


「分かりました〜」


 エドワード領も何かあるの? 僕には分からない。


「フェン、スノウ。南砦の警戒に当たって」


「了解です」


 東砦ではなく南か……またまた分からない指示だ。


「ニャンタと栞さんは東砦へお願い。無理はしないでね」


「ニャ!」


「はい!」


「要人を迎え入れるまで万全の警戒態勢で臨むわよ!」


 今までにない警戒態勢だね。


 あれ? シャバニさんには指示が出てないよ?


 シャバニさんは黙ってみんなの様子を見ている。


「ミンフィー。シャバニさんは?」


「この人に指示は必要無いのよ。言われなくても勝手に動いているわ」


「モッシュ。工房に各領主が喜びそうな物を準備してある。一緒に持って行け」


 え!? 本当に?? こうなると思っていたって事?


 それとも……裏でシャバニさんが動いていたのか?



 〜 レザムールズ領 南砦 〜


 レザムールズ領 南砦は今日も多くの人々が行き交っていた。東砦に比べるとその数はかなり多い。


 スノウの耳がピクリと動いてフェンの方を見た。


 来たか……フェンに緊張が走る!


 その目は1人の商人を捉えていた。フェンには普通の商人にしか見えないがスノウには違うと分かる。

 スノウはシャバニからプロの見分け方を教え込まれていた。


 フェンが衛兵を呼び寄せた。


「Sよ。シャバニさんに連絡を」


「は、はい!」


「落ち着いて! 訓練通りにやればいいのよ」


 あくまで小さな声で。目立たない様に指示を出した。



 〜 レザムールズ領 小都市シャングリラ 〜


 1人の商人がシャングリラに到着した。


「なんだここは……辺境地の都市では無いな」


 大規模な農園、高い城壁、整備された町。どれも想像していた風景とは全く違う物だった。

 宿屋に行き部屋を借りた。清潔感のある部屋だ。調度品の質もいい。価格も良心的だった。


「これはいい部屋だな……。ゆっくり寝れるぜ」


 宿屋の1階は食堂兼酒場になっていた。酒場があるのは好都度だ。情報を簡単に集められる。


「ダンナ。ワインは要りませんか? 上物ですよ」


 仕事中に酒は飲まない事にしていた。だが、今回は仕事とも呼べない任務だな……


 ただ男を見てくるだけだ。


 キャンプグッズの購入もあったか。


 店主のオヤジが差し出したグラスからフワッと森の香りがして気が少し変わった。


「良い酒だな……グリーンフォレストか?」


「そこまでの銘酒では無いですね。よく似てはいるんですが」


 オヤジからグラスを受け取り味を確かめる。良い酒だけは我慢出来ない。悪い癖だな……どうでもいい任務だとつい酒を飲んでしまう。


「確かに似ているが……何か足りないな……混ぜ物か?」


「客人用の余り物って話です。密造酒ですかね」


「いいのか? そんな事を言って」


「辺境地では当たり前ですよ? 誰も捕まりません」


 そんなものかもしれないな……密造酒にしては良く出来ているがな。確かダークエルフ族が来ていたらしいな。ヤツらの好きそうな味のワインだ。


 おかしな形をした樽から次々と店主が客にワインを提供している。コップみたいな形の樽なんて初めて見たな。


「いくら密造酒でも高い物だろう? みんなこんな物を飲むのか?」


「これは振る舞い酒でタダなんですよ。買いすぎたらしいです。客人がほとんど飲まなかったらしいので。ドンドン飲んで下さい」


「いや。もう十分だ」


 グラス1杯。それだけなら仕事に影響は無い。少しいい気分になるだけだ。

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