第86話 やってみれば面白い

 〜 レザムールズ 総合店 〜


 夕方の開店前にクルミとレジスタッフに事情を説明して、衣料店に服を着替えに行ってもらった。フェンには話を通してあるから、お勧めの服を選んでくれるはずだ。

 クルミには店で売っている可愛らしい服を、レジスタッフには清潔感のある服を頼んでおいた。


 カラン! カラン! テントの修理依頼のお客さんだ。


「修理は仕上がってますよ」


 テントを手渡して……


「工房に直接持っていっても修理しますので、都合のいい方を利用して下さいね」


 お客さんが貼り紙を見ているよ。


「へぇ〜 装備品の修理もやっているんですね」


 しっかりアピール出来てるね! 


 焦らずコツコツやっていく。夜になるとほとんど冒険者は店には来ない。みんな酒盛りだからね! 店を閉めて今日の売り上げを確認した。クルミには掃除と商品補充をやってもらった。


 ハウスに戻ってホクトさんの事務所へ行く。各店舗の統括本部はここだ。


「ホクトさん、僕の店で今まで何がどれだけ売れたかって分かりますか?」


「はい。全て頭に入っています」


 す、凄いな! 覚えているって事か!


 スラスラっとリストを作ってくれた。


 うーむ……やっぱりキャンプ用品はよく売れている。しかし、レッグホルダーとアームホルダーはもっと売れてもいいような気がするな。アレは使いやすくて良い商品だ。


「装備品をもうちょっと売らないと駄目だな……」


「……よろしければ倉庫の処分品を売ってみませんか?」


「あれですか……あれでは工房の仕事にならないです」


「ほう……では、掘り出し物の目玉商品として客寄せに使うと考えるのはどうでしょうか?」


「それならいいですね。Cランク以上の人向けの商品は無いですしね」


「現在の工房の技術力ではDランク向けが限界ですね」


 ホクトさんがまたスラスラっとリストを作ってくれた。


 リストを見ると……


 どんな頭してるんだ……この人……


 処分品の名前、性能、希望販売価格がギッシリと書かれている。


「掘り出し物は1日1個のみ展示して下さい。値段は書かなくていいです」


「どうしてですか?」


 値段を書いた方がお客さんにとって分かりやすいよ?


「気になる人はモッシュさんに値段を聞きますよね?」


「それはそうですよ」


「お客様とコミュニケーションが取れます」


 そうか! 話す機会が増えるって事か!


「掘り出し物が1個だとレア感が増します。たまにわざと無しの時があってもいいかもしれません」


「な、なるほど」


「シャバニさんは欠品を嫌がりますが、私は欠品はいいと考えています」


 シャバニさんは店の信用を高めたいから欠品は絶対にさせないって考え方だ。


「例えばテントを品切れと表示するとどうなりますか?」


「次回入荷した時はみんな競って買うと思います」


 ウチのテントはそれくらい人気のある商品だ。丈夫で長持ち、更に組み立てもしやすい。ドンドン良い評判が広まって遠方からも買いにくるくらいだ。


「わざと品切れさせてレア物にしてしまうんです。そうすると値段を上げる事も可能です」


「考えもしませんでした」


「そんな売り方もある事を知っていればいいです。やる必要はありません。店の最高責任者はシャバニさんですので彼の考えに合わない事はすべきではありません」


「掘り出し物程度ならやってもいいと思います。ちょっとした客寄せになりそうなので」


 ホクトさんのアイデア「掘り出し物販売」を採用する事にした。ホクトさんのアドバイスで掘り出し物はレジカウンターの後ろの壁に飾って展示する事にした。


 最初の掘り出し物は「プラチナランス」だ。いい物なんだけど誰も使わない。最近は倉庫で眠っている。


「もし値引きをして欲しいと言われても拒否して下さい。その代わりにオススメの商品をオマケで付けて下さい」


「そうすればウチの商品も使って貰えますね!」


「常連さんには多くサービスして差をつけるのもいいです」


「通常なら1個サービスのところを更にもう1個サービスって感じですかね」


「そうです。話術も大事ですよ。なるべく気持ち良く買ってもらうんです。そうすると次に繋がります」

 

 何だか楽しくなってきたよ! 


 もっと色々考えてやってみようっと!


 ホクトさんが店の帳簿や参考になる資料を貸してくれた。店長なら知ってて当然の事だ。

 資料が面白いので夢中に呼んでいると……


「モッシュ、温泉を出してくれるかしら?」


「あ! ごめんよ! すぐにやるよ」


 温泉を出す時間だった! 今日はミンフィーが農場に行く日だったよ。畑から帰ったらすぐにお風呂に入るから、いつもより早めにお風呂の準備をしないといけないんだった。


「何をそんなに真剣に読んでいたの?」


「店の資料だよ。面白いんだよ結構」


「店もいいけど訓練もしないとダメよ?」


「両方キッチリやるよ。ミンフィーもそうでしょ?」


 ミンフィーは引き受けた事は完璧にこなす。僕だって努力しないといけない。ミンフィーみたいに完璧には出来ないかもしれないけどさ。


「最近はちょっと疲れぎみよ……」


「そうなんだ……お風呂から出たらマッサージしようか?」


「お願いするわ……」


 本当に疲れているみたいだね。僕には難しい事なんだろうな。区長の仕事かな……


 お風呂から戻ったミンフィーの肩、背中、腰とマッサージしてあげたらスヤスヤ寝ちゃったよ。


 食事の時間まで寝かせてあげよう。

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