第85話 小さな事

 〜 ギルド『レザムールズ』ハウス ロビー 〜


 シャバニさんからクルミに新たな課題が出された。


「もう卒業かと思ってました」


「まだ初心者だろう。これからだ」


 新たな課題は情報収集だ。ピアノを作りたいそうで、作り方の情報を得るのが課題だってさ。当然ウチが探っているって事は秘密にしないといけない。

 まあバレて困る事ではないので練習にぴったりだね。


「楽器には私も興味があるので協力します」


 アイリスとクルミでピアノの情報収集だね。


「あの店、お得なランチをやってるって言ってたよ。味の良さを知ってもらう為に頑張ってるんだってさ。デザートも付いてるらしいよ」


「お昼は夜とは違ってカジュアルな雰囲気だと言ってたわ。若い女性がターゲットみたいね」


 早速、アイリスとクルミがランチに行く約束をしている。

そこにフェンも加わって楽しそうだよ。



 〜 レザムールズ 総合店舗 〜


 今日は店長をやる日だよ。僕はお客さんに物を勧める専門になった。レジは区民の計算が得意な人を雇っている。


 はっきり言うと計算が苦手なんだよね!


 クルミは店のマスコットガールっぽくなっている。チョコチョコ動き回って上手にお客さんを連れて来てくれる。


 カラン! カラン! 朝一番のお客さんが来たね。


「すみません。モンスターに襲われてテントが破れてしまって。修理は出来ますか?」


「張り替えですね。夕方までには仕上げますよ」


「早いですね」


「ウチは工房がありますからね。ウチの売り物はほとんど修理出来ますよ」


 外でダベっているクルミを捕まえる。クルミはほとんど店の中に居ないで外で呼び込みをしているからね。


「クルミ! 修理依頼だよ!」


「は〜い」


 クルミがテントを台車に乗せて走っていく。シャバニさんからの指示だよ。修理品を預かったらすぐに工房に持ち込む事になっている。


 1番売れるのはポーションだね。安定した品質が評価を得ているみたい。次は骨の矢だ。ニャンタが矢尻に付与しているのもあるけど、矢尻自体の品質も抜群だからね!


 骨の矢 +4  聖属性 +3


 最低品質のなら僕も鑑定出来るよ。シャバニさんによるとほとんど矢が普通の鉄の矢より威力があるらしい。

 品質を揃える様に言われているけど無理なんだよね。仕方がないのでノーマル品質の矢として売ってるんだ。


 超お買い得品だね!!


 消耗品を常連さんがよく買いに来てくれる様になった。常連さんは装備もウチで買ってくれるから嬉しいね。


 カラン! カラン! パーティーぽい人達が来た。


 Dランク。Cランクに近いくらいだな。店の装備を見て何だか悩んでいる。


「どうしました?」


「今よりちょっといい装備にしたいんですが、コレっていうのが無くって」


「それならオーダーメードはどうですか? ウチの工房で相談出来ますよ」


「オーダーメード……高いですよね?」


「ウチのオーダーメードは安いですよ。皆さんみたいにワンランク上を目指す人達の手助けになると思います」


 ここに無い商品でも工房に行けば何とかなっちゃうんだよね! クルミはっと……またダベってるな。シャバニさんからクルミをもっと動かす様に言われてるんだよね。


 ダイエットだね!!


「クルミ! この方達を工房にご案内して!」


「は〜い」


 僕の店にはDランクくらいまでの商品しかないからね。都市の北側にはEとDクラスのギルドが多いからさ。

 

 僕もそろそろ装備を新しくしようかな……


 さっきの人達、Dランクって装備を見れば分かるけど、僕はEランクって言われそうな装備だな……

 でも、フルプレートアーマーなんて装備したらリュックサックが背負えないしね。ハーフプレートが限界なんだよね。

 オーダーメードにしよう! Cクラスのギルドに相応しい装備にしないと駄目だ!

 上から下までフルオーダーメードにしちゃおっと。


 冒険者達がダンジョンに出払ったね。店を閉めよっと。台車に急ぎじゃない修理品を載せてシャバニさんの工房に行く。いつもこのパターンだね。受け取りが明日以降でいい品は僕が運んでいるよ。


「修理品を持って来ました」


 工房では多くのレザムールズ区民が働いている。ここで働いている人はみんな区民の人だ。もうみんな顔見知りだよ。

 シャバニさんは難しい修理以外はやらない。ほとんど作業員の人達でやっちゃうんだってさ。


 そういえばここの作業員はみんな同じ服を着ているな。


 結構、いい服だ……清潔感があるよ。


 ふと頭に何かがよぎった……


 オーダーメードはやめよう……


 ハウスに戻ってお財布を持って出かける事にした。

 まず向かったのは床屋さんだ。さっぱりと清潔感のある髪型にしてもらった。

 次はフェンの店に行く。こっちの店は営業時間が僕の店とは違う。清潔感のある白いワイシャツを3枚とスラっとした黒い長ズボンと黒い皮ベルトを買った。

 それから靴屋に行って黒い革靴を買った。


 ハウスに戻って買った服に着替えた。


 鏡を見て全身をしっかりとチェックする。


 それから自分の店に行った。


 『レザムールズ 総合店』と大きな看板が出ている。


 店の扉を開けて空気を入れ替える。掃除道具を持って来て店の前を掃除した。それから店の中を掃除して、商品を綺麗に並べ直した。売れた商品の補充もしっかりしておく。

 在庫をチェックして少ない物をメモしておいた。


 改めて店の中を見渡した。


 装備品、薬品、キャンプ用品……物は揃っているけど。


 レジカウンターの目立つ所に貼り紙を2枚貼った。


『装備品、キャンプ用品の修理、各種オーダーメード承ります』 


『衣料品ならレザムールズ 衣料店へどうぞ』


 僕も『レザムールズ』の看板を背負っている事を忘れていたよ。やるからにはCクラスのギルドの、いやSクラスのギルドを目指しているギルドとしてやらないと駄目だ!


 大事なのはこれからだよ! 


 僕が頑張って仕事を得れば、工房の人達の生活も良くなる


 工房で働いている人達も『レザムールズ』のメンバーと一緒だよ。『ファミリー』なんだ。


 みんなの生活を僕は背負ってこの店をやっているんだ。


 背伸びはしないけど、出来る事は全力でやらないとトップレベルまでは行けないよ!


 がむしゃらに頑張っていた初心者の頃を思い出した。


 やれる事をやっていなかった自分に腹が立ってきた。


 やってやるぞ! 最高のギルド目指すんだ!

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