第19話 出会いは大切

 〜 聖心教会 〜


 町の近くの森に薬草採取へ行く前に教会に寄る。栞さんに冒険者ギルド協会に行くよう伝えないとね。


 町の外れにある小さな教会が見えてきた。ウチのギルドハウスも町の外れなので結構近い。ランクの高いギルドは町の中心にあって冒険者ギルド協会も近いけど、ランクが低いとどんどん中心部から遠ざかっていく。


 聖心教会は中心部にあったけど信者数が減少して力を失い、町の外れに移転させられたそうだ。


 ちょうど栞さんは教会の外で掃除をしていた。


「栞さん、お仕事中すみません」


「あら? モッシュさん、お祈りですか?」


 僕は別に聖心教徒でも何でもない。事情を説明して冒険者ギルドに早めに行くように伝えた。


「何だか怖くなってきたので今すぐ行きます!」


「え!? 仕事はいいんですか?」


「はい、誰も私の事なんて気にしてませんので」


 ニコッと微笑んでホウキを持ったまま行ってしまった。


 思ったより自由な人みたいだね。




 〜小さな森〜


 僕達の住んでいる町は木の壁で囲まれている。ちゃんとした門もある。そこを通り外に出る事が出来る。一応、門番はいるけど朝から夜まで門が開放されているので簡単に通れる。


 町のすぐ外には小さな森があり、いろんな草花がいくらでも採取できる。


 超初心者向けのクエスト『薬草採取』はこの森で行う人がほとんどだ。何と言ってもモンスターが出現しないから安全なんだよね。


 1日中採取して食事1回分程度の報酬額しかもらえないなので、訳ありの人しか『薬草採取』なんてしない。


 まず、すぐに使えそうな良く育った草をリュックサック一杯に採取して、畑に植える為の草は小さい草を土ごと掘り起こした。なるべく根っこを傷つけない方がいいみたい。

 平らなカゴを持ってきたのでそれにぎっしり並べたら、ギルドハウスに戻る。


 今日は何往復か出来そうだね


 ミンフィーはまだ蒸留水作りをしていたので、軽く声を掛けてまた出発した。


 森に戻って採取を再開しようとしたら先客がいた。黒い魔法使いのローブを着た女性がいた。採取目的にはちょっと見えないな。


「すみません、薬草採取してもいいですか?」


 先客がいる場合は声を掛けて確認をするのがマナーだ。


「あ、私は猫にエサをあげているだけなのでご自由にどうぞです」


 魔法使いっぽいひとは幼い女の子だった。この森はモンスターが出なくて安全だから子供の遊び場にもなっている。


 でも猫にエサ? 


 周りを探してみると小さな黒猫が草むらで何か食べていた。


「猫は草を食べるのか……」


「フフフ、違いますよ。野苺を食べているんです」


 確かにこの辺りには野苺が沢山あるみたいだね。


 猫ちゃんの食事を邪魔しないように注意しながら、またリュックサックとカゴが一杯になるまで採取をした。


 猫ちゃんはまだ食事をしている。よく食べるな〜


 ちょっと喉が渇いたので水分を補給する。


「ミャー ミャー ミャー」


 いつの間にか猫ちゃんが隣にいて、僕に向かって鳴いている。


「飲みたいのかな?」


 黒いローブを着た女の子が近くに来て意外そうな顔をしている。中々、可愛い女の子だね。


「滅多に人には近寄らないのに珍しいです」


「飲みたければあげるけど? あげていいのかな?」


「うーん、私に飲むのを勧めているようです」


「へぇ〜 猫の言っている事が分かるんだね」


「この猫は私の『使い魔』なんです」


 やっぱり魔法使いだったんだね。


「よかったらどうぞ? 良い人に出会える『おまじない』の緑茶だよ」


 今日は暑いのでさっぱり苦目の緑茶味にしてみたんだ。


「なるほどです……だから飲むのを勧めたのね」


 猫ちゃんはジッとこちらを見ている。不思議な感じがする猫ちゃんだね。仔猫なのに何だかしっかりしている。使い魔だからかな。


 綺麗なコップに緑茶を入れて女の子に渡した。


 女の子は美味しいそうに緑茶を飲んでいる。


「あら? 良い苦みの緑茶ですね! 美味しいです」


「じゃあ僕は町に戻るからね」


「ありがとうございました」


 とてもしっかり者の女の子だね。僕より年下の幼い感じの子なのにちゃんとお礼も出来る。



 〜 ギルドハウス 〜


 ギルドハウスに戻るとミンフィーは庭で僕が持ってきた小さな草を畑に植えていた。カゴから小さな草を取って植えるのを手伝う。


「最近やけに暑いわね……残りの作業は夕方にしましょう」


「畑仕事用に麦わら帽子を買ってくるよ」


「そうね、ちょっと日焼け対策した方がいいわ」


 作業をやめてランチを食べに行く事にした。ミンフィー、オススメのお店に連れて行ってくれるんだって。


 カラン! カラン!


 ギルドハウスの玄関にある呼び鐘が鳴った。誰か来たみたいだね。


「こんにちは、部屋は空いてるでしょうか?」


 扉を開けると黒いローブを着た女の子が立っていた。


「あれ? さっきの子だよね?」


「あら? 宿屋の方でしたか」


 ここは宿屋だったから勘違いして宿泊しに来たみたい。


「宿屋はもう無くて、僕達のギルドハウスなんです。ここ」


「そうなのですか……町で1番安いお宿でペットもOKだったので、来た時は必ず利用していたんです」


「そんな所で話していないで入ってもらったら?」


 ミンフィーに事情を説明してあげる。ギルドの名前が決まってなかったから表には看板もない。これからも宿屋と勘違いする人が居るかもしれないのでちゃんと看板を作る事にした。


「今から食事に出てしまうけど、後ほどで良ければ部屋を貸しますわよ?」


 空き部屋は沢山あるからね。


「ミャー ミャー ミャー」


 女の子が肩から下げているポシェットから猫の鳴き声が聞こえる。


「……ここのギルドに入れて欲しいそうです」


 猫がギルドに入りたがっているのか!


「冒険者ギルド協会に募集が出してあるから、確認してからの方がよろしくてよ」


 そうだよね。どんなギルドかも知らずにいきなり入会するのは無謀だよ。


「ニャーゴ……」


 何だか猫ちゃんは不満なようだ……


「ギルド協会に行ってきますので、また後ほど来ます」


 オススメのお店は辛いカレーのお店だった。暑い日にとても辛いカレーを食べるのがミンフィーは好きなんだって。

 僕は辛いのがちょっと苦手なので中辛にしといた。


「ここのチャイはとても美味しくて評判よ」


 はいはい。覚えていきますよ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る