第17話 水はタダだよ タダの水だよ
〜ギルドハウス〜
「蒸留水」を生産するクエストを受けたから、何処かで作業しないといけないね。
「ミンフィー、何処で作業しようか?」
「2階の空き部屋だと運ぶのが大変だし、ロビーには作業具なんて置きたくないわね」
「うーん……じゃあ僕の部屋を作業場所にしようか」
余分な部屋は無いから仕方がないね。僕の部屋に小さなテーブルを持ってきて錬金術の道具を設置した。
「モッシュ、『コップ』に綺麗な水を出してみて」
「綺麗な水? 美味しい水のイメージかな?」
「そうじゃなくて限りなく透明な不純物の無い水がいいわ」
何だか難しいな……とにかく何も入ってない純粋な水ってイメージでやってみようかな。
「綺麗で純粋な水、出ろ!」
『コップ』に透き通った水が出た!
ちょっと飲んでみたけどあんまり美味しくない……
ミンフィーがガラスのフラスコに水を汲んで、錬金術の初心者セットに設置した。フラスコの下に魔石を置いて、そこに魔力を流し込めばいいらしい。
ミンフィーが集中して魔石に魔力を流し始めた!
グツグツグツ……
フラスコの中の水が沸騰して隣りの空瓶に移っていく。
「これで完成ね」
超初心者レシピなので魔力が有れば誰でも出来るそうだ。
「不純物が有れば残っているはずだけどほとんど無いわ」
フラスコを見ても水滴が下の方に少しあるだけだ。
「本当ならフラスコを洗った方がいいみたいだけど、このままでやるわ」
僕はミンフィーの隣りにテーブルを並べて骨細工の練習をしてみる。まずは超初心者レシピに挑戦だね。
骨の指輪と牙のイヤリングを作ってみた
骨材は沢山持って帰ったからいくらでも練習出来るけど、すぐに疲れが出てきて眠たくなってきた。
「ミンフィーごめんよ、今日はもう寝るね」
「私はもう少し続けてるわ」
ミンフィーは完全に本気モードだね。凄い集中力で生産を続けているよ。僕は倒れる様にベットに横になってすぐ眠ってしまった。
んん……だいぶ寝たみたいだけど
部屋がまだ明るい……
ちょっと目が覚めたからテーブルの方を見てみるとミンフィーはまだ生産を続けている。もう深夜だよ。
「ミンフィー……そろそろ寝た方がいいよ」
「うん、もう少しで終わるわ」
何とかそれだけ声を掛けたけど、あまりに眠たくてすぐに寝てしまった。
なんだかミンフィーみたいないい香りがする
ムニャムニャ……
柔らかい抱き枕があるな……
翌朝、木箱にはぎっしり蒸留水が並べられていた。一晩で全部やっちゃったみたいだね。
ミンフィーはもう起きてて朝食の支度をしてくれてた。
「おはよう、今日は朝一番で冒険者ギルドに行くわよ」
「蒸留水を納品するんだね」
「ええ、ちょっと手続きも残っているのよ」
僕達のギルドはまだ名前が決まってない。納品するには正式なギルドとして完全に手続きを終えないといけない。
「ギルド名を登録するついでに、サブリーダーとしてモッシュを登録するわね」
サブリーダーになるとギルドマスターに近い権限が与えられる。出来ないのはギルドの解散とメンバーの除名くらいかな。
「ギルドメンバーは私が選ぼうと思っていたんだけど、モッシュに任せたいの」
「ええ!? 僕には無理だよ……」
「私の予想だとこれからギルドへの加入申請が殺到するわ」
最底辺のEクラスギルドに入りたい人なんていないよ。でも、ミンフィーがいい加減な事を言うはずないし……
「2週間でメンバーを集めてしばらく募集を中止するわ」
「頑張って探してみるけど……」
「スキルを使うのよ」
「え!?」
「そうね……栞さんみたいな良い人材に巡り会える飲み物を飲んでから冒険者ギルド協会に行くのよ」
「なるほど……」
そんなの上手くいくのかな?
「私みたいな人材はダメよ?」
それは何となく分かる気がする。ミンフィーみたいに強くて完璧な人がいたら僕なんて出番が無くなって、本当の荷物持ちになるしかない。ちょっと訳ありの人の方が僕には合っている。
栞さんには悪いけどね
「ギルド名は『レザムールズ』でどうかしら?」
「お洒落っぽい名前だね」
よく分からないけどミンフィーが考えたんだからいいに決まっているよ。
〜 冒険者ギルド協会 〜
冒険者ギルド協会は大勢の冒険者で賑わっている。朝のこの時間はパーティーの募集が多いからね。ここでパーティーを編成してそれぞれの冒険に向かうのが普通なんだ。
僕達のギルドはヘッポコの僕を鍛える目的があるから普通にはパーティーが組めない……
ミンフィーと一緒に誰も居ない納品カウンターに向かう。
朝から生産品を納品する人なんてあまり居ない。
カウンターには1人だけ受付の人がいる。夕方だと5、6人は居るんだけどね。
「受注したクエストの納品に来ました」
「確認しますのでしばらくお待ち下さい」
とても真面目そうな美人エルフさんが木箱を奥に運んで行く。
しばらく待ったけど中々戻ってこない……
なぜかギルド長さんと一緒に戻ってきたよ。何かあったのかな? ただの蒸留水ですけど……
「すみませんが個室の方へ来て下さい」
個室に案内されて椅子に座る。
「まず木箱2箱分は『蒸留水 +3』でした」
へぇ〜 +3って凄そうだね。
「問題はもう1箱の蒸留水です……」
真面目そうな美人エルフさんが落ち込んだ顔をしている。
「ミシェル、仕事だぞ……しっかり説明しなさい」
「はい……大変申し訳ございませんが木箱1箱分の蒸留水を完全には鑑定出来ませんでした」
ふ〜ん、そんな事があるんだね。
「恐らく+5以上の品質だと思われます……まさか水が鑑定出来ないなんて……」
真面目そうな美人エルフさんはかなりのショックを受けているみたい。
「では、+5の査定でよろしくてよ」
「ありがとうございます……1箱に24個入っていましたので全て通常の査定にプラス5させて頂きます」
蒸留水の査定ポイントは1だけど特別に2になっている。更にプラス5だと7ポイント。それが24個だから……
168ポイントで他の2箱は240ポイント
合わせて408ポイントだね。
冒険者ギルドの貢献値が5000になるとDランクギルドに上がる条件の一つを満たすんだってさ。
後はレベル10の冒険者が2人いればいいらしい。
あれ?
何だかもう少しでランクアップ出来そうだよ!
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