喧嘩腰と穏便お腹
ジブラルタル冬休み
珍獣「ネリボリ露天風呂」の逃避行
むかしむかし具体的にはよく思い出せないようなある所に、喧嘩腰と穏便お腹という二部位組が仲良く住んでいました。このひと文で紹介は済んでいました。彼らの住む場所の近くの池の水も澄んでいました。
彼らの性格は反対めでした。なぜ「ま反対」ではないのかは、読んでいればすぐにわかります。
喧嘩腰は好戦的で血気盛ん、挑発的でした。一方で穏便お腹は嫌戦的で血気衰えがち、長髪的でした。もし「ま反対」なら、嫌平的で肉肉衰えがち、受受的なはずです。しかし、そうはならんやろ。それは全て、「反対め」だからこそなのです。
喧嘩腰はクラスでも人気でしたが同時に少し嫌われ者でもありました。よく兄弟の及び腰をいじめていたので、それを良くないと取るか、クラスに一人は必要ないじめっ子と取るかで、彼の立ち位置は大きく変わるのでした。え?なぜ兄弟と共に過ごさないで穏便お腹なんて言うわけわからないのとつるんでいるのかって?それはね、
穏便お腹は喧嘩腰から産まれたのだ。産まれたとは言っても分身、つまりまさに本人だからだよ。
森に住む大きな樹はそう優しく教え諭すのでした。しかし時に優しくても易しくない時もありましたので、そういう時は決まって子供達は「耄碌した老爺め。これだから隠居ちまやいいんだ、この不彀本野郎」というのでした。そしてそれを傍目に見ていた子リスは、「ああ、子供たちはこうやって彼に勝る知識をひけらかしつつあのおじいさんの木を罵倒したくて質問しているんだな、残酷な若さだな」と苦々しく感心するのでした。
さて、喧嘩腰と穏便お腹は、今はどこにいるでしょうか。それは、マレーシアの奥地です。ベンガルトラを馴らしているのです。どう、どうという制圧の擬音が、ジャングルいっぱいに響きます。ベンガルトラはさっきまで口に咥えていた鹿の死骸の破片をぺっと吐きつけ、喧嘩腰の擬音に抑圧されていました。一方穏便お腹はどうしているでしょう。トラが怖くて木の上でブンブン音を立てて動物観察小屋を作っているのでした。彼は「ああ、このトラが鹿だったら!『シカでした』で済んだらどれほど良いだろう!」と思いながら、ベッドの中敷きでふにゃふにゃのバリケードを作りトラから身を隠すのでした。こういう男は最後まで案外泣かないものです。
トラが、ガッ!と吠えます。流石の喧嘩腰も、少し物怖じしてしまいます。しかし、恐れてはいけない、行くんだ、と覚悟を決めた喧嘩腰は、一気に近づいて、ゆらゆらしました。
「グ?ル???????」
トラは唸りましたが、しばらくしてステンと倒れてしまいました。それを抱きかかえた穏便お腹は、ヒッという声を立てながら家に帰りました。実は、三段跳びの日本代表に選ばれた、カオスノーコン三匹ズという懸命な若者たちも、ちょうど彼らの真横でベンガルトラ遊びに興じていましたが、一人を除いて食べられてしまい、それどころではなくなっていたのですから、喧嘩腰と穏便お腹はやっぱりすごいのでした。
やがて暗くなり、すっかり夜は老けます。ある意味。
カオスノーコン三匹ズのメンバーでありハードコアな青年という印象の逞しい犬である鎌ズラ君は、ブルブル震えながら二人を見て泣きました。無理もありません、彼の五人の兄は全員、トラに食べられたのですから。「三匹」はチーム名なので無視するように。これが先入観の恐ろしさ。
「僕の真のお兄ちゃんも喰らわれちまったぃ」
そう言ってしゃくりあげます。今ならカラオケで∫みたいな加点がたくさんつくでしょう。さあ、95点目指して頑張って歌え!
「あのひのかなぁ⤴︎しみぃ⤴︎さえ⤴︎」
案の定、激しくしゃくりあげます。可哀想です。しかし、二人は大笑いしました。変な歌い方なのに、カラオケの液晶画面は∫でいっぱいだったからです。たくさん加点がつきました。92点が取れました。よくがんばりました。95点が取れなかったのを不服と思い喧嘩腰は怒りましたが流石に穏便お腹がそれを止めました。
さて、鎌ズラ君は歌ったことでストレスを解除し、落ち着いて家に帰りました。
鎌ズラ君はそれでもやっぱり悲しかったのですが、彼が家に帰るとびっくり。なんと、∫をたくさんつけた残りのカオスノーコン三匹ズのメンバーがみんないたのです。実はこれは喧嘩腰達と同意の上でやったサプライズパーティーだったのです。正確に言えば、確かに五人は本当に食べられたのですが、二人がそれを助け、どうせならとサプライズの準備までしたのです。これで六人兄弟が全員集まったのです、よかったね。兄弟みんなで、楽しくパーティーに興じました。
夜が老けました。そして老衰で死んでしまいました。
つまり、この世にもう夜は訪れません。
永遠に照りつける日光が、全員を焼き尽くしてしまいました…。
喧嘩腰と穏便お腹 ジブラルタル冬休み @gib_fuyu
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