同居生活はイベリスのように~テンプレ展開がそう上手くいかない件~
水理さん
第1話 思わぬ会遇
義理の妹と言えば聞こえは良いが、そんなにいいものではない。
今となっては、そんなものに幻想を抱いていた自分は愚かで浅はかな人間だと思う。
アニメやエロゲの義妹と言えば、甘ったるい声で「おにい~ちゃん♡」と毎朝ベッドに起こしに来たり、血がつながっていないことを言い訳にあんなことやこんなことをヤるようなものである。
勘違いしないでほしいのだが、俺自身それを馬鹿にしたり、蔑んだりしているわけではない。むしろ、好きな方である。
決して、現実でモテないからゲームに逃げているわけではない・・・
まあ、それは置いといて、今までオタクコンテンツが好きで一般オタク並かそれ以上に義理の妹に幻想を抱いていた俺だからこそ、声高々に言えることがある。
そんなもの、今すぐにでもくしゃくしゃにしてゴミ箱へ捨てたほうがいい。
それが身のためだ。俺のような被害者をこれ以上出さないためにもな。
それでも、抱き続けるのなら好きにすればいい。俺は塾講師でも専門家でもないから説得力のある説明はできないだろうが仕方のないことだ。
だが、反面教師くらいにはなれるだろう。俺の失敗を糧に強く生きてほしい。
「あら、帰ってきたのね」
「おう、ただいま」
見たか。これが仮にもきょうだいである者たちの会話である。プラスでもなければマイナスでもない、温度を感じないやり取りは見ている者たちからすればあまりいい印象はないだろうが、当事者である俺と彼女はなんてことはない。
そんな事務的な会話しかしないのが現実の義理のきょうだいだ。
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俺、
なぜ、こんな俺に義理の妹ができたのか。それは極めてシンプルであり、父さんがいい意味でも悪い意味でも学習しない人間だったからだ。
父の
なぜ俺にそれが遺伝しなかったのか分からないレベルだ。
しかし、そんな純真な父だからこそ騙されやすかったのだ。
そう、父さんは一度離婚しているのだ。俺の母は父さんが騙されやすい人柄であることをいいことに、浮気をしていたのである。
当然、父はそれに中々気が付かず、気付いた時には、母の方が別の男と結婚し、逃げて行ったのである。
それを知った時には、「俺が悪かったんだ」と泣いて詫びてきた。父さんが悪くないことを知っていた俺は、幼いながら慰めつつもどこか心のなかで冷めた感情を持っていた。
「父さんな、再婚しようと思うんだ」
と食事中に突然言われた時は何事かと思った。あんな思いをしてまでもう一度結婚するのかと。しかし、途中から男手一つで育ててくれた人が幸せをもう一度掴もうとしているのを邪魔する気にもなれなかった。
「まあ、いいんじゃない」
あれこれ言ったが、それでも良い人であるのは確かだし尊敬もしている。再婚しようと、俺には正直あんまり影響はない。所詮、母が増えるだけだろう。あまり女性に良いイメージはもっていないが、あれだけショックを受けた父が選んだ人だし、大丈夫だろう。
「でな、相手の方に娘さんがいるのだが、大丈夫か?」
ほう、義妹というやつか。年下かは知らないが。
内心、俺はとても喜んでいた。なんせ、ゲームやアニメに登場するようなあの義妹だぞ。オタクならば興奮しないわけない。
極めて冷静を保ちつつ聞き返す。
「別に大丈夫だけど・・写真とかってある?」
どういう人物かを見ておくのは重要だろう。なんの心構えもなしに対面してしまったら恥ずかしさで死ぬ自信がある。
「あるにはあるが・・」
「なんだよ、勿体ぶるなよ」
「あ、ああこれなんだが・・」
そう言い、差し出された写真に写っていたのは背を向けて桜のトンネルを歩く幼女の姿だった。なんだ、小学生か。年頃の女子なら少し怖かったかもしれないが、小学生なら怖くない。
「おい、肝心な顔が見えないぞ」
「すまんな。これしかないんだ」
それなら仕方がないな。いくら再婚相手とは言え、娘の顔が映った写真を差し出すのはためらわれるからな。
「明日、放課後って空いてるのか?」
「バイトが入っているけどそんなに遅くはならないはずだ」
「そうか良かった。夜にトトスで顔を合わせようと思ってるんだけどいいか?」
「いいよ。バイトが終わったらまっすぐ向かうから先に行っててくれ」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
その日の学校では一日中そわそわしていた。少し落ち着きがなかったらしい。友人が「欲しかったエロゲでも届くのか?」と聞いてくるほどだった。
俺が、
「俺に義妹ができるんだよ。年下かは知らんが」
と答えるとマジの真顔で「ついに夢と現実の区別もつかなくなっちまったか」と言われてしまった。いつもなら何か言い返すのだが、義妹記念日を自らの手で汚したくない。軽く流してやった。
学校が終わると浮ついた気分でバイトまで向かう。いつもなら、真心込めて接客をするのだが、今日はそれどころでない。あまりに無機質な接客だったらしく、後輩(女性)から「先輩は綾〇レイなんですか?」と言われたが関係ない。俺はア〇カが好きなんだよ。
放課後のバイトが終わると速攻タイムカードを切り、再び自転車を漕ぐ。長い下り坂を猛スピードで下ると目的地であるトトスが見えてくる。すぐ近くにマストというファミレスもあるのだが、父はトトスが好きなのでトトスにしたのだろう。
外はまだ春先ということもあり暗く肌寒いのだが店内は柔らかい照明も相まってかとても暖かい。凍えるようだった指先もしだいに血が通い温度が戻ってきた。
入ってすぐのテーブル席には部活終わりの女子高校生だろうか。4人で談笑している。最近彼氏が冷たいだとかセッ〇スが下手くそだとか。人の色恋沙汰や性事情に興味はないが、ファミレスで話す内容ではないだろ。ファミリーだぞファミリーと心の中でつっこむ。
店内を探すと父さんとその方向を向きながら話をしている再婚相手らしき女性の姿が見える。
俺に気づいたのか父さんがにっこり笑い、手招きをしてくる。
「おーい、優斗ーこっちだぞー」
あまりに大きい声で言うものだから、客の注目を集めてしまう。なんとなく気恥ずかしさを感じ小さくなりながら席に向かう。
だが、席に近づくにつれ嫌な予感が生まれてくる。それは今さっきの気恥ずかしさではなく、今まで信じていたものが崩れていくような感じだった。
「初めまして~優斗くん。
「あ、は、はい初めまして。息子の優斗と申します」
「あらあらそんなに緊張しなくてもいいのよ」
再婚相手の由美さんは美人で優しい人だと聞いていたが、本当にその通りだ。若々しい明るい茶髪に垂れ気味の目が温かい雰囲気を醸し出している。
しかし、問題はそちらではない。陰キャとは言え接客業をやっているため、コミュ障ではない優太だが、きょどってしまった理由は別にあるのだ。
「ほら、彩花も挨拶をしなさい」
「初めまして。
俺の座席の目の前に座っていた幼女・・でなく高校生くらいの少女があいさつをした。母に似た明るい茶髪に加え、耳に開けたピアスが光り、童貞を殺すほどの破壊力を持つ肩が開いたショルダーカットトップスを着たいわゆる陽キャと呼ばれる俺と対をなす存在である人種が目の前にいる。
おいおい、嘘だろ。なんの冗談だ?てっきり小学生だと思っていたが、どうやら違うらしい。目の前のあり得ない現実を理解しまいと脳が必死に否定してくる。
「娘ともどもこれからよろしくお願いします」
「いえいえ、こちらこそよろしくお願いします」
改めて挨拶しあった父と由美さんの姿を見てやっと現実だと気が付く。
そうか、これが運命の分岐点というやつか。ああ、案外あっけないものだな。
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