吸われちゃうっ! 勇者のチカラ!

 ルルコちゃんを目覚めさせる為には、俺の勇者としてのチカラが必要ってコトで。

 フィルフィーが俺の額にチューして、それを吸い取るってハナシですよ。

 ううむ、額にチューなんて、なんだかこっぱずかしいデスヨー!


 でも。

 俺の目の前に立つフィルフィーは、いつもとは違う真剣な眼差しで、ちゃんと女神様っぽい顔しちゃってます。


 

「あたしは『再生』をつかさどる女神だ。ルルコを目覚めさせた後、元の姿にリセットするコトは出来るけど……もし、本人が望んでいなければ、リセットはしない」


「えっ? そんなコトっ……」


 うむむ。こればっかりは、なんとも言えないかも。

 本人が望まなければ、なんて……ルルコちゃんがどう考えてるかわかんないし。


 でも。それでも。


 父さんと母さんのコトを想うと。


 いきなり大魔王サマに我が子を連れ去られて、ムリヤリ成長させられて、なんて。

 そんなの、父さんと母さんが望むワケがない。

 だって、子供の成長を見守るのって、親の楽しみのひとつなんじゃないのかな……?

 だとしたら。

 ルルコちゃんは。元の姿に。

 1歳くらいの子供に戻った方が良いんじゃないのかな……?



「そんじゃあ、ぶちゅっとくぜ、ヒカリぃっ!」


「えっ! いきなりっ!?」


 魔法陣っぽいものを出すとか、呪文っぽいものをムニャムニャ唱えるとか、儀式的なモノはなんも無しデスカっ!

 フィルフィーったら、チューする気まんまんなんですけどっっ!


「頑張れヒカリっ! よくわかんないけどっ!」

「頑張ってヒカくんっ! よくわかんないけどっ!」


 ちょっと、父と母っ!

 仲良し夫婦なのはイイけど、応援がテキトー過ぎじゃないのかなっ!?


「成長の証を見せてみるがよいぞ、フィルフィーマートよ。ワシは高みの見物、もとい、しっぽりと見守らせてもらうぞい」


 また見物って言ってますよ、神様店長っ!

 しっぽりってなんのコトなんデスカネっ!?

 

「まあ、見てて下さいっスよ、おとっ……神様っ!」


 ずずんっ! と、俺の目の前に仁王立ちですよ、ヤンキー女神!


「ヒ~カ~リぃ~っ、覚悟はいいかあっ!? あああんっ!?」


「ちょっ! フィルフィーっ!?」


 めっちゃメンチ切りながら、がしっ! と俺のアタマを両手でわしづかみっ!

 額にチューするだけのハズなのに、なんでそんなに威圧的なのさっ!?


「あ。言い忘れてたけど。勇者のチカラ、全部吸い取るからなっ」


「えっっ!? ぜんぶっっ!?」


「まあ、ザコレベルに戻るだけだっ。スキルが無くなるワケじゃねーから、また頑張ればいいだけのコトじゃん?」


 まっ! まっ!

 マジ、です、かっ!

 ザコレベルに戻っちゃうんですか、男のっ!


「せっかくここまで強くなれたのにっ!?」


「あん? そんなの大したことねーだろ。お着替えガチャがあれば最強なんだし。その証拠にオマエは今まで負け知らずだろーがっ」


「負け知らずっ!?」


 そう言われてみると、ズタボロに惨敗ってしたコト無いような気がしないでもナイけどもっ。


「でででもっ! ちょっとくらいは残しといてくれてもいいんじゃないのっっ?」


「ウダウダ言ってんじゃねえっ! ルルコの為だっ! ぶちゅっとくぜえっっ!」


 やかましい気合いの声とともに、後ろにけ反るフィルフィー!

 煌光神衣グリスタードレス越しのオパイがぷるぷるしちゃって、とってもえっちぃですよー!

 ムハー!

 って、そのモーションはっ!!


「うらあああああっっ!」


 ごづっっ!


「「あいたあっ!?」」


 頭突きっ!

 めっちゃ頭突きしやがったですよ、イシアタマ女神っ!

 反動で吹っ飛んじゃう俺達ですよっ!

 って、なんじゃい、このお約束的なコントはっっ!

 

「いっ! 痛いなあ、もうっ! なんで頭突きするのさ、フィルフィーっ!?」


「気合いだ気合いっ! なんだよモンクあんのかコラっっ! あー、いってーな、ちきしょーめっっ」


 人に頭突き食らわせておきながら自分まで痛がってますよ、ナニやったんですかね、この江戸っ子女神はっっ!


「頑張れヒカリっ! よくわかんないけどっ!」

「頑張ってヒカくんっ! よくわかんないけどっ!」


 ちょっと父と母っ!?

 応援がテキトー過ぎですってばっ!


「うむ。良い頭突きじゃぞい。フィルフィーマートよ」


 ちょっと神様店長っ! これのどこのナニが『良い頭突』きなんデスカネっ!



「やり直しだ、やり直しっ! そんじゃあ、今度こそぶちゅっとくからなっっ! マジでるからなっっ!」


「ちょっ! なんで落ち着いて出来ないのさっっ!?」


 目が血走ってますよ、暴走女神っ!

『やる』が『る』に聞こえるのは気のせいなんかじゃないデスヨー!!


「はあっ、はあっ! 覚悟しなっ、ヒカリぃっっ! ぢゅるっと吸わせろやあっっ!」


 息遣い荒く、ニターリと悪魔の微笑みを浮かべつつ、再び俺のアタマをわしづかみっ!


くぜえっ! 『吸収ドレインっっ!』」


 ぶちゅっ! と、俺の額にチューするフィルフィーですよ、うおお、やっぱりこっぱずかしいデスヨー!


 んぢゅるるー! っと、音を立てて!

 ちゅうちゅう吸ってますよ、吸われてますよ、俺のヒタイっっ!


 うごおおお、身体の中からナニかが抜けていくような、脳ミソ吸われちゃうような、なんて言うかこう、まあ、そんなカンジです!

 って、あんまり吸うと額に跡が残っちゃうでしょーがっっ!


「ふぃっ! フィルフィーっ!? ちょっと吸いすぎじゃないのっっ!?」


「んーむむむんっっ!? んんんー!!」


 ちゅうちゅうぢゅるると吸われてますよ、俺の額っ!

 額を吸われるなんて初めてのコトだから、どうしてイイかわからねーですよー!

 ここはじっと我慢ですよ、男のっ!


「っぷはー! あー、吸った吸ったっ。てなもんでいっ!」


「えっっ? これで終わりっ?」


「おうっ! 後はルルコに注入するだけだぜっ」


 人の額を吸いまくっておきながら、しれっとしたもんですよ、ちゅうちゅう女神っ。

 俺の額はフィルフィーのヨダレで、デロデロになっちゃってるんですけどっ!



 フィルフィーは、父さんと母さんが寄り添うルルコちゃんの元に静かに歩み寄り。


 ほうっと息をひとつ吐いて、落ち着きを取り戻し。


「……これから娘さんの息を吹き返します。少しだけ、お時間を頂けますか?」


 おおっ。ちゃんと敬語を使うんだなー。

 フィルフィーの丁寧な言葉遣いなんて初めて聞いたから、めっちゃ新鮮ですよっっ!


「どうかルルコをお救いくださいっ、女神様っ!」

「ルルちゃんをっ! お願いしますっ!」


 二人とも、真剣な表情。

 俺は……なにか声をかけてあげた方がいいのかな?

 でも、なんて言っていいのか、わからない。

 黙って立ち尽くしてる俺に向かって、父さんが。

 

「ヒカリっ。お前もこっちに来てくれないかっ?」


「……えっ? ボクもっ?」


 父さんに呼び掛けられて戸惑う俺に向かって、母さんが言葉を続けて。


「ルルちゃんはヒカくんの妹なのよ? 私達と一緒に見守って。だって……家族って、そういうものでしょ? ねっ?」


 家族、って。

 久しぶりの響きだなー……


「……うん」


 なんだろう……

 胸の奥が、ほわわんと温かいですよー。

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