緊急事態!! 妹魔王ルルコちゃん!

 カワイイお口をぽかーんと開けて、仰向けに寝っ転がるルルコちゃんですよ。

 シフォンちゃんの時も確かこんなカンジだったような。

 あの時はお着替えガチャってたけど、のままの男のに負けちゃったのが悔しいのかなっ?


「ステキだったよ、ヒカリちゃんっ! どすこいだよっ!」

「最高の上手投げだったぞ、ヒカちくりんっ! どすこいっ!」

「リアちゃんもヒカリ様に投げられたぁい♡ どすこいっ♡」

「素晴らしいどすこいでござったよ、ヒカリ殿っ!」


 あのですねっ。

 うら若き女子四人が褒め称えてくれるのは嬉しいけど、どすこいの使い方って、それで正解なんデスカネっっ?


「なかなかヤるじゃねーか、ヒカリぃ! ナイスどすこいだぜっ!」

「ステキなどすこいでしたっ、ですわっ! ヒカリ様っ!」

 

 二人の女神様も似たようなコト言っちゃってますよー!

 ステキなどすこいって、どういう意味なんデスカネ、ペリメール様っっ?


 と、その時ですよ!



「う゛にゃああ~っっ!」


 むむっ!

 このうにゃり声はルルコちゃんっ!


 いつの間にか立ち上がってる!


 ズタボロになっちゃった白いワンピースに長い黒髪って、なんか、ホラゲに出てくるユーレイっぽいですよ、ルルコちゃんっ!?

 しかも棒立ちのまま、一点を見つめて動かないなんて、ちょっとコワイんですけどっっ!


「るっ、ルルコちゃんっ?」


「う゛にゃ?」


 あっ。こっち見たっ。


 うおお、ばっちり目が合っちゃいましたよっ!

 またメンチ切られちゃうのか、お兄ちゃんっ!


 あれ? でも、なんか。

 メンチ切ってるカンジじゃなくて、どことなく哀しげな目をしてるような……? 


 と、思った次の瞬間!


「う゛にゃああああああああああんっっ!!」


 思わず耳を塞ぎたくなるようなルルコちゃんの絶叫ですよ!

 え、泣いちゃうのかなっっ?

 相撲で負けちゃったのがそんなに悔しかったのかなっ!?

 まさか、また暴走しちゃうのかっ!?



「う゛にゃ」



 ……んっ?

 

 ルルコちゃんがぽそっと呟いてから、沈黙の数秒間。


 と。


 ぽてっ。


 と、力無く倒れちゃったっ!

 それっきりピクリとも動きませんよルルコちゃんっ!


「ちょっ! えっ!? ルルコちゃんっ!?」


 しーん。


 返事が無い。しかばねのよ……って、イヤ違うっ!


「えっ!? ウソでしょっ!?」


「ルルコちゃんっっ!?」

「ルルちくりんっ!」

「ルルコちゃあんっ」

「ルルコ殿っ!?」


 すたたたっ!とルルコちゃんに駆け寄る俺達ですよ、するとなんとっ!

 

「……息をしていないでござるっ!」


「えっ!?」


 なななんとっ!

 緊急事態発生ですよっっ!

 

 ウソだろっっ!?



「どしたー? ヒカリの上手投げでっちまったかー?」


「そんなワケないでしょ、うんこフィルフィーっ!

 バカなコト言ってないで助けてあげないとっ!」


 久々に聞きましたよ、ラーフィアちゃんの言葉での口撃ですよっ!

 フィルフィーをうんこ呼ばわり出来るのは、やっぱりラーフィアちゃんしかいませんよー!



「ルルコちゃん! ルルコちゃんっ!」

「しっかりしろ、ルルちくりんっ!」

「目を開けて下さぁい、ルルコちゃぁん……っ」

「ルルコ殿っ! 息をするでござるよっ!」


 みんなの呼び掛けにピクリとも反応しない!

 これはかなりヤバい状況なのではっっ!


 えっ!? なんでっ!?

 俺の上手投げがそんなに強烈だったのかっっ!?

 まさか、っちまったのかっっ!?

 イヤ、でも、フツーの上手投げだったんですけどっ!?

 うごおおお、あまりの出来事にパニクりそうですようおおー!

 

「私の回復魔法をかけてみるよ、ヒカリちゃんっ」


「えっ!? うんっ! お願い、ラーフィアちゃんっ!」


「『癒しの女神ラーフィアに、か弱き者を癒すお力をお与えくださいっ。回復ヒールっ』」


 ラーフィアちゃんは『癒し』を司る女神になった事で、回復系の魔法を会得したみたいですよ。

 祈りを捧げると、ラーフィアちゃんの両手から温かい光がふわりと現れて。

 それをルルコちゃんの小さい身体にかざすと、なんとっ。


 大暴れした時に出来た細かい傷が治っていくじゃないですかっ。

 

 さすがですよ、ラーフィアちゃんっ。

 これで意識を取り戻してくれたら大丈夫なハズですよっ。


 とりあえず、ほっ。


 としたのも束の間っ!


回復ヒールが効かないっ……? なんでっ?」


「えっ!?」


 なななんとっ!

 塞がった筈の傷口が開いてくっ!

 ラーフィアちゃんの回復魔法が効かない!?

 なんでだっ!? 


「あー、それな。ルルコは大魔王のジジイの干渉受けちゃったから、今のラフィーのチカラじゃ無理だな。女神レベルが足りねーんだよ」


「私のレベルが足りないっ!? それじゃあ、お姉ちゃんはっ!? 回復ヒールを使えるでしょっ!?」

 

「それが……結婚を司る女神になった事で使えなくなってしまったのですわっ……」


「そんな……っ! 何とかならないのっ!?」


「ならねーな」


「えっ!?」


 また冷たく言い放つフィルフィーですよ!

 なんでだっ?

 なんでそんな冷静でいられるんだっ!?

 この世界の女神って、そんなに無慈悲な存在なのかっ!?


「このまま何にもしないなんて耐えられないよ、フィルフィー! なんとかしてあげないとっ! ルルコちゃんがっ……!」


「ルルコは力を乱発し過ぎたんだよ。大魔王のジジイに言われるままに動いて、な」


「だったら、なおさらだよっ。ルルコちゃんが悪いワケじゃないでしょっ!?」


「良いも悪いも、行動したのはルルコだろ?

 大暴れしてこの部屋をズタボロにしたのも、オマエと勝負して負けたのもな」


「それはそうだけどっ! でもっ……」


「強力な回復魔法を使えば助かる可能性はゼロじゃない。だけど、ちっこい身体に強すぎる魔法は毒になる。魔法を使っても使わなくても、どっちみち死んじまうだろーな」 



 えっ。


 死……って。


 ルルコちゃんが……死んじゃう……?


 ワケわかんないまま『勇者と魔王の闘い』なんてのが始まっちゃって。


 いきなり妹だって言って現れて、大暴れして。

 お兄ちゃん、なんて呼ばれても実感なんて全然無くて。


 小さな身体に大きな負担をかけてまで、俺と闘う為にスキルを乱発して、その結末が『死』って……!



「まっ、自業自得だな」


 なななななんですとっ!?

 自業自得ですとっ!?

 なんてコト言うかな、フィルフィーはっ!!


「自業自得だなんて、そんなワケないじゃん!

 ルルコちゃんはムリヤリ大魔王サマに成長させられたんだよっ!?

 自分の意志で勇者と闘ってるんじゃ無いんだよっ!?

 大魔王サマに言われるままになんてっ、そんなの、ただの操り人形と変わらないよっっ!」


 思わず大きな声を出しちゃう俺ですよ!

 自業自得だなんて、いくらなんでもヒド過ぎる!


 真剣な俺の言葉にみんなが静まり返る中、ニヤリと悪魔の微笑みを浮かべるフィルフィーですよ。


「ああん? 言うようにったじゃねーか、ヒカリぃ。最初の頃は、あたしにビビってペリ子の後ろに隠れてたりしたのになあ?」


「そんなハナシなんて、今はどーだっていーでしょっ!」


 むうう、昔のこっぱずかしい思い出をほじくり返すんじゃないぞ、ヤンキー女神っ!

 思わずうつむきそうになっちゃいますよ、だがしかしっ!

 ここで怯むワケにはいかないっ!

 目を逸らさずにフィルフィーの真正面に立つ俺ですよ!



「オマエはルルコを助けたいのか?」


「そんなの当たり前だよっ!」


「それはなんでだ? 妹だからか?」


「妹っていうのもあるかもしれないけどっ!

 こんな小さい女の子が、大魔王サマに操られて、ワケわかんないまま死んじゃってなんて、そんなの許されていいワケ無いよっ!」


 思いの丈をぶつける俺ですよっ!

 でも、ちょっとだけ足が震えてるのはナイショです!


 俺に反論されたフィルフィーは、静かにずっと俺の目を見つめてますよ。


 キレるかなっ? キレちゃうのかなっ?

 どうかなっ?


 でも。

 その眼差しは、メンチ切ってるとかそんなんじゃなくて、どっちかって言うと温かいようなカンジですよ?


 無言で見つめ合うコト数秒間。

 と。

 にっ、と微笑むフィルフィーですよ。

 

「……へへっ! それでこそ、あたしの舎弟だぜっ! じゃあ、くかっ! 『選択の部屋』によっ!」

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