朝集会でやらかす男の娘《コ》!

 城門の近くにある『集いの広場』。

 迷ったらここに集合、ってカンジの待ち合わせ場所にありがちな銅像は、なんと大魔王サマですよ。


 広場には、たくさんの従業員らしきヒト達がお集まりでございますですよ。

 前に魔王城に来た時に見た、リザードマンとかドワーフとかエルフとか。

 ファンタジー世界の住人がいっぱいウロウロしてますよー。


 なんて言うか、校庭で全校集会してるみたいな、まあそんなカンジです!


 俺の身長より高い台の上には、スタンドマイクがぽつんとひとつ。

 今からそこで俺が挨拶、って。

 なにがどうしてこうなったんだ男のっ!


「あの、レイルさんっ! 朝集会の挨拶って、どんなコト言えばいいんデスカっ?」


「そんなものは知らん。自分で考えろっ」


「えー!?」


 イヤ、そんなコト言われてもー!

 いきなり丸投げされて、台本も無しに『さあ、やれ』なんて無理ですよっ?

 そもそも、俺は勇者なんだから魔王側からしてみれば敵なんですけどっ!?


「ナニナニ、ビビってんのお? 大したことナイわね、ぐるぐるクソメガネっ♪

 そんなんじゃアイドルのステージに立てないわよお?」


「まっ、魔王シフォンっ!?」


 ドコからともなく、にゅっと現れましたよ、魔王シフォン!

 俺はアイドルのステージに立つ気なんてさらさら無いんですけどねっ!

 

「ほらほら、さっさと行きなさいよっ!

 ビシっと決めてみせなさい、妄、想、勇、者っ♪クスクスっ♪」


 クスクスって笑うないっ。

 妄想勇者をめっちゃバカにしてるだろっ。

 ちっこカワイイからってチョーシに乗るんじゃありませんよっ!


「時間だ。行ってこい! ヒカちくりんっ」


 ばしぃん!っと俺の背中を叩くレイルさん!

 いって!いってーですよー!

 叩くんなら、もうちょっと優しくして下さいまし、レイルさんっ!

 

 うごおお、ぶっつけ本番もイイとこですよー!

 ナニを喋ったらイイのやらっ!

 こうなりゃもうヤケクソじゃいっ!

 男のの根性を見せてあげるんだからねっ!


 だがしかし!

 カクカク震えますよ、俺のヒザっ。

 大勢の前で喋るなんて前の世界でも未経験!

 初体験ですよ男のっ!


 台の上に登ると、ザワザワしてた皆さんが、一斉にシーンと静まっちゃいましたよー!


 あちこちから聞こえるヒソヒソ声はっ。


「なんだアイツ? 見たコトねえ娘だなあ」

「新入社員かな? カワイイな」

「メイド服が似合い過ぎだろー。あの変なぐるぐるメガネ取ってくんねーかなあ」


 とかね!

 俺は新入社員じゃアリマセンよっ!

 ただのサラシモノですよ男のっ!

 パッと見では、ゴスロリメイド服の美少女かも知れないけれどっ!

 実は男のなのですよー!

 あと、ぐるぐるメガネは変じゃ無いぞっ。

 

 うっ。

 えーとっ。


 とりあえず、どうしようかなっ?

 自己紹介的なコトをやっといた方がいいのかなっ?

 神様店長がクロジョで神様校長だった時みたいなのをやればいいのかなっ?


 すうっと息を吸い込んでっ!

 マイクに向かって思いの丈をぶつけますよー!


『「みにゃ様っ、おはよーゴザイマスっ!

 ぼっ! ボクはっ!

 コウダヒカリでゴザイマスっ!」』


 恥ず! はっずっ! かんじゃったっ!

 にゃって言っちゃったっ!

 なんかシーンとしてるんですけどっ!

 クスっとでも笑ってくれた方が救われるんですけどー!

 どうする俺っ! もう一回言うかっ?


 無言のまま俺を見つめる集団の圧力がハンパないぞっ!

 はっ!これがっ!

 集団恐怖症ってヤツなのかしらっ!?


 ううう何て言えばいいかわかんないようっ。

 ヒトの目がコワイようっ。

 目がいっぱいだようっ。


 んっ?


 そう言えばっ。

 ここにいる連中って、人間もいるけど人間じゃないヒトが多いっ!

 エルフとかドワーフって、ヒトっぽいけど亜人だし、ファンタジー世界では妖精に近い存在じゃなかったっけか?


 そう考えるとちょっとは気がラクになるような気がしないでもない!

 そもそもリザードマンってトカゲだし!

 そう思えば怖くないような気がしないでもないですよー!


 ココはひとつ!

 ビシッと決めてやるですよ!


 んんっ! と、ひとつ咳払いしてからの!


『「魔王まおー城にお勤めの諸君!

 本日はお日柄も良く!

 お足元の悪い中、お集まり頂き、誠にありがとーございますっ!」』


 ……んっ?


 お日柄も良く。

 お足元の悪い中。


 矛盾してるな?

 やらかしたな?


 背中がっっ!

 背中がヒヤリとつめてーですよー!

 冷や汗がじょんじょろりんと流れてますよー!


 俺はいったい、どうしたらいいんデスカネっ!?

 てへぺろでもぶっこんでみればいいんデスカネっ!?

 だがしかし!

 それがどんずべった時の反動を考えると、トラウマ級の精神的ダメージになっちゃうんじゃないデスカネっ!?


 うおお、コワイっ!

 こんなプレッシャーなんて初めてですようごおおおおっ!


 もしかして魔王シフォンも、このプレッシャーがイヤだったとかっ?

 それなら納得ですよ、イヤ違うっ!


 この状況から脱出する方法が見つからない!

 小話のひとつでも用意しておくべきだったのかっっ?


 んーむむむむむむっ。それならばっっ!

 アレをぶっこんでみるですよ!

 

『「えー。みにゃ様はっ。『人生で大切な三つの袋』というお話をご存知でしょーかっっ?」』


 恥ずっ!はっずっ!

 また、にゃって言っちゃったっ!

 まあもういーですよ、これで通しますよー!


『「まず、ひとつ目が『堪忍袋』!

 人生、何事においてもガマンは大切なのです!

 いくらアタマにきてブチ切れたりしても、ロクなコトはナイのでアリマスっ」』


 結婚式とかでド定番の小話だけど、そんなコトは関係ない!

 どうにかしてこの場を切り抜けるのだ!


『「ふたつ目が『お袋』でゴザイマスっ。

 みにゃ様がここにいるのは、お母さんがいるからであって、お母さんは大切にしましょうでアリマス!」』


 またまた、にゃって言っちゃったけど順調ですよ!

 このまま乗りきってみせますよ男のっ!


『「そして、みっつ目が『給料袋』でゴザイマスっ」』


 と、その時ですよ!


「俺達の給料は振り込みだぜ、お嬢ちゃーん」


 リザードマンのおっちゃん?のヤジに、どっ!とわき起こる大爆笑っ!


 うぬぬ、マジですか、そーですか。

 給料袋は存在しないってコトですかっ。

 それじゃあ、もう、袋しかないじゃないデスカっ!

 

 男が持つ大事な袋!『タマタマ袋』をぶっこんでみるしかナイ!

 女のヒトも『赤ちゃんの袋』をお持ちですがっ。ここは『タマタマ袋』の方がウケるような気がしないでもない!


 でも大丈夫なのかっ!?

 いきなり下ネタぶっこむ男のってアリなのかしらっ!?


 どうする俺っ!

 ぶっこむのか俺っ!

 爆死覚悟でってみるか俺っ!


 ぬおおおおおっ!

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