勇気の出るおまじない
『おおっとぉ!編入生コウダヒカリちゃんはっ!うるうるキラキラの瞳を持つ超絶美少女っ!
女神育成コースの臨時講師であるペリメール様を『銀月の女神』と称するならばっ!
コウダヒカリちゃんは『きら星のお姫様』っ!
先週編入してきたばかりの彼女がこんな美少女だったと、一体何人の生徒が気づいていたでしょうかあっ!?かく言う私も知りませんでしたよー!』
「おー。見ろよ、ヒカリぃ。上のモニターにでっかく映ってるぞー」
「モニターを通して見ても超絶美少女ですわよっ!ヒカリ様っ!」
フィルフィーとペリメール様がリングロープの外から教えてくれて、上を見てみるとっ。
なんとっ!
リング上方の大型モニターに、ぐるぐるメガネを外した俺の素顔がどアップで映し出されてる!
超絶美少女ってコトが全校生徒にバレちゃいましたよっ!
あ、ボク、ホントは男の
なんて言える状況がっ!
100パーセンツ!失われてしまったのではっ!?
もし!もし仮に今ここで!
全校生徒に俺が男とバレたら……っ!
そっ。
想像すら出来ないっ。
ドン引きの波が遥か彼方まで引いて引いて引き切って、砂の大地に取り残されるのは男の
見えますよ、誰もいない砂漠で餓死する男の
これはっ!妄想ではナイ!
戻りたくても戻れないっ!?
この状況を打ち破るにはっ!
黒竜王に勝つか、黒竜王の嫁になるかの二択しかないっ!?
くああっ!これはっ!どんな手を使ってでも!勝つしかないヤツですようおおー!
ここはっ!
黒竜王が俺に一目惚れしたその弱みにつけこんでみようっ!そうしようっ!
生き残る為には手段を選んでなんていられません!
「すっ!スズキさんはっ!一目惚れした相手を殴る気なんでしゅかっ!?」
「殴る?殴るワケがない。俺の嫁になる相手を殴れようか?イヤ!殴れるワケが
力説!黒竜王スズキさんは、コブシを握りしめて、ぬあいっ!て力説です!
だったら戦う意味はないんじゃないのかっ?
「殴りはしないがな。ククク……特別に俺様のスキルを見せてやろう。デモンストレーションだ!恐れおののいてひれ伏すがいい!俺の嫁ヒカリよ!」
黒竜王がすううっと思い切り息を吸ってから空に向かって。
ッゴオオオオオオッ!
デモンストレーションとして黒竜王が口から火を吹いてみせた!
その炎がなんとっ!黒い!
ブラックドラゴンブレスってヤツですよ!
イケメン黒竜王の口から凄まじい勢いで吐き出される黒い炎!空をも焦がす黒い炎!
空は焦げては無いんだけど、まあそんなカンジです!
カッコいい!黒い炎なんて初めて見たっ!カッコいいけどもおっ!
あっ、モニターの端っこがちょっとコゲたっ。
これはっ!
マジのマジで消し炭になるヤツ!身体に浴びてはイケナイヤツですよー!
「おおー、やんややんや。スゴい炎じゃ。祭りみたいじゃのう。ほっほっほ」
ドコからともなく現れてリングの外から拍手をする神様校長!
やんややんやってなんじゃいっ。
「かかかか神様校長っ!ああああれってルール違反じゃないんデスカっ!?」
「所有スキルは使用可能じゃからの。ヒカリも出してみそ」
みそってなんじゃいっ。
ドラゴンブレスなんて出るかいっ。
ため息ならどんだけでも出るけども!
「ぬははっ!戦わずして勝ぁつ!これぞ我が覇王道!魔王軍の配下として相応しい働き!
これで時給もアップしようかというものぞ!ぬはっ!ぬはっ!ぬはははははっ!」
ぬはぬはウルサイですよ黒竜王っ!
て言うかね。魔王軍て時給制なの?
なんか夢がナイし、セチガライんですけどっ!
「無論!俺の技はこれだけでは
腰をくいっとひねって決めポーズを作る黒竜王スズキさん!
「ジエンドオブソウロウだっ!ぬははははっ!」
ソウロウの終わりってコトですかねっ?
なんかウマイ事を言ってるつもりかも知れないけど、黒竜王スズキさんの下ネタに校舎の生徒達はしーんと静まり返ってドン引きですよ。
ドン引きされても平然としてるなんて、メンタル強いな黒竜王スズキさんっ。
いや俺には耐えられない静寂ですよ!
『超!黒竜王!』は『ジエンドオブソウロウ』って名前なんですか、そーですか。
俺の『コヒカリ君』に比べれば……
はっ!
そうだそうですよ!
スズキさんは俺が男だって知らない!
男だって知れば、俺を嫁にしようなんて思わないハズ!
ここはっ!いっちょ交渉してみよう!
怖いけど!めっちゃ怖いけど!
生き残る為には手段を選んでなんていられませんよっ!
「すすすスズキさんっっ、ちょっとお耳をお貸しいただけませんかっ?」
「む?なんだ俺の嫁ヒカリよ。降参かっ?」
俺はすいっとスズキさんに近づいてコショコショと耳打ちです!
男にナイショ話なんてしたくもないけど!
生き残る為には手段を選んでなんていられませんからー!
『おっと、ヒカリちゃんが黒竜王になにやら耳打ちです!一体、何を話しているんでしょうかあっ?』
実況なんて無視ですよ!
なんせ俺の命がかかってるんですからねっ!
「……というコトなんですけどっ」
「うむ。それで?」
「えっ?それで、って……」
「言っただろう。俺はお前に惚れたと。ならば!どんな事情があろうとも!俺の嫁ヒカリよ!オマエは俺の嫁になるのだ!ぬはっ!ぬはっ!ぬはははははっ!」
えーっ!!マジかっ!
男の
「さて!今度はお前のデモンストレーションの番だ。俺の嫁ヒカリよ」
「えっ!?そんなコト言われてもっ!ふぃっ!フィルフィーっ!なんかないのっ!?ボク、ホントに消し炭か黒竜王の嫁になっちゃうよっ?」
「あー?じゃあとりあえず、お着替えガチャってみろや」
リングロープにもたれかかって、ものすごーく面倒臭そうに言うフィルフィー!
セコンドとして俺に付いてるハズなのに!その投げやりな態度はなんなのさっ。
さすがに!俺はちょっとイラッときましたよっ!
「お着替えガチャって3回しかできないじゃん!何が出るかわかんないじゃん!そんなんで勝てっこないよっ!」
「うだうだウルセエなあ、ヒカリよう。あたしの舎弟ならビッとしろや!なんだよビビってんのかあ?」
「ビビってるよっ!正直言ってコワイよっ!だって、ここで消し炭にされて魂まで消えちゃったらホントに終わりじゃん!ボク、まだやりたいコトなんにも出来てないんだよ!?何しにこの世界に来たのかわかんないじゃん!」
俺は思わず本音を口にしてた。
望んだ姿じゃ無いにせよ、この短期間で色んな体験をして、色んな人に出会えてる。
ペリメール様。
エフレフさん。
クラスのみんな。
ザコレベルB班のみんな。
転生した父さんと母さん。
ラーフィアちゃん。
ついでに、フィルフィーと神様。
それらの思い出とかが全部、消えてしまう。
たった1週間かそこらの思い出だけど。
全部。全部消えて無くなる。
そんなのあまりにもひどくない!?
「なあ、ヒカリぃ。お前、まだ戦ってないだろ?戦う前に負けって自分で決めつけてるだけじゃねーか?」
「だってっ!丸腰であんなスゴい黒い炎に勝てるワケないようっ!」
「……しゃーねえなあ。じゃあ特別に気合い入れてやんよ。『勇気の出るおまじない』だ!」
そう言ってフィルフィーはリング内に入ってきて、めっちゃメンチ切りながら俺の真正面に仁王立ちになった。
えっ!なに気合いって?
殴る気っ!?ビンタっ!?
それともタコ殴りにする気デスカっ?黒竜王より先にフィルフィーにボコボコにされるっ!?
すいっと伸びるフィルフィーのしなやかな左ボディブロー!
「ひっ!」
フィルフィーのコブシが俺の腹にめり込む寸前!
その左手でグイッと俺の腰を抱き寄せて、じいっと瞳を覗き込んできた。
あれ?殴られなかった?
てことは、頭突きっ!?
ていうか、フィルフィーの顔をこんなに近くで見るのは初めてかも?
キレイな長い睫毛。深く青く澄んだ瞳。
キメ細やかな白い肌。グロスも何も塗ってないのにぷるぷるに潤ってる唇。
黙ってればペリメール様に負けず劣らずの端正な顔立ちの美人さんだ。
黙ってれば、だけどね。
「ったく、しょーがねーヤツだな……」
俺の顎をフィルフィーが右手でくいっと上に向けて。
ん?
んんっ?
フィルフィーの顔がどんどん近付いてくるっ?
え?なに?なんでっ?
えっ?ナニしてんのっ?
って思ってたら!
触れ合う二人の金色の前髪、そしてっ!
ぶちゅ。
っとキスされたっ!!
これはっ!イケメンのみに許された乙女を落とす神の技!
『アゴクイでキス』!
じゃないですかああっ!?
え!?ナニしてんのっ!?
「『フィいいいルうううフィいいいーっ!!』」
あれっ!?これって、ラーフィアちゃんのイケボっ!?離れた校舎にいるハズなのに聞こえてくるよ!
他の生徒達からも『きゃあ♡』って、ナゼか嬉しそうな悲鳴がっ。
「『
「あー?なんだよウルセエなあ。ハナタレガン泣きラフィーがよー。減るもんでもねーからいいだろー?景気付けだよ景気付け!」
「けっ?景気付けっ!?」
「あたしが幼稚園の時、お遊戯会の練習中にビビっちまってよー。その時、銀髪君がしてくれたんだよ『勇気の出るおまじない』をさ!」
それ、ペリメール様ですよ。
俺は出かかった言葉をぐっと呑み込み、リングサイドのペリメール様をチラッと見ると。
プイッ。
と、顔を真っ赤にしてそっぽ向いちゃいましたよ!
フィルフィーに『アゴクイでキス』を仕込んだのは間違いなくペリメール様ですよー!
ラーフィアちゃんもフィルフィーにやられちゃってますからねっ!とんでもないキス魔ですよヤンキー女神!
「女神のキス受けたんだから負けるワケがねえ!勝ってこいやヒカリぃ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます