再会!父と母!

 ドアを開けて入ってきたのは!


 まさかの父と母っ!


 神様校長先生の計らいで転生した両親と会う事になった俺ですがっ!


「ヒカリが消し炭になる前に是非とも会わせたくてのう。では、ここからは親子水入らずでしばし御歓談を。じゃあのー」


 おいっ神様校長っ!?

 ハッキリ消し炭って言っちゃったよ!?


 神様校長先生が退室して扉がパタリと閉じるまで、俺達家族はずっと黙ったままだった。

 本来なら、感動のご対面!って場面なのかも知れないけど!


 俺には、いや、俺達には解る。


 これが『血の繋がり』ってヤツなんだろうけど、今!?今、このタイミングでですか!?

 めちゃめちゃ気まずいんですけどっ!


 だってっ!

 俺、男のですからー!


 さらにっっ!


「とっ、父さんだよねっ!?」


 俺が『父さん』と呼んだその人は!

 ムチムチナイスボディーなお姉さん!なんかどっかの銀行の制服みたいなの着てるけど!

 ムチムチナイスボディーなお姉さんです!


「かっ、母さんだよねっ!?」


 俺が『母さん』と呼んだその人は!

 ゴリゴリマッチョなお兄さん!

 真っ白いTシャツが良く似合う爽やかイケメンゴリマッチョ!

 爽やかなのにゴリマッチョってアンバランスな気がするけど、まあそんなカンジです!


 って!なんでそんな姿なのっ!?


「ヒカリ……だよな」


「父さん……だよね」


「ヒカくん……よね」


「その呼び方……母さん……」


 一文字代えたら超有名な動画投稿サイトの人と名前被っちゃうからヤメテ、って言ってた事を、昨日の事のように思い出す。


 本来なら感動の再会!なんだろうけど、今の俺はゆるふわ金髪の超絶美少女。

 『外見は』の注釈付き。

 中身は男のですからね!


 き……気まずいっ……こんなコトあるんだ……


 俺はぐるぐるメガネを外して、見た目超絶美少女の姿を二人に見せてあげた。


「おおっ、カワイイ……」

「ヒカくんたら、あらあらまあまあ……美少女っ!」


 そりゃね!驚くよね!死んだ息子が見た目超絶美少女に転生しちゃってるんですからね!


「とっ、父さんはどうしてまた、その……ナイスボディーなお姉さんに……?」 


「ち、違うんだヒカリっ!選択の部屋でなっ。ヤンキー女神にキレられて無理矢理この格好にされたんだよ!父さん、本当は漁師になりたかったんだ!」


「え、漁師!?初耳だよ?」


 て言うかヤンキー女神って言ったよね!?もしかしてフィルフィーのコトなのかっ!?

 っていうかヤンキー女神なんてフィルフィーしかいないよね!?


「ホラ、父さん、しがないサラリーマンだっただろ?荒々しい海の漁師って『オトコ!』って感じだろう!?それなのにあの女神様が無理矢理なっ」


「もしかして……母さんも?」


「母さんはね、ホラ背が低かったでしょ?ホントはスラッとしたファッションモデルになりたかったのよ?それがね、ヤンキー女神にキレられてこの格好……ゴリゴリマッチョなイケメン体育教師に無理矢理、ね!?」


「体育教師なの!?ずいぶんムキムキだね……でも、やっぱりそうなんだ……」


「やっぱりって、ヒカリ……まさかお前も?」

「ずいぶんとまあ、カワイイ女の子に……ねえ」


 喋り方も仕草も父さんと母さんは前の世界と変わらない。

 が!

 ナイスボディーなお姉さんがおっさん言葉で、ゴリゴリマッチョなお兄さんがおばさん言葉で喋ってるから違和感がハンパない!!


 俺達家族が解ってればいいのかもしれないけども!


「あのっ、ボク、ホントはねっ」


「ヒカくんはあれでしょ?イケメン勇者でウハウハハーレムってお願いしたんでしょ?」


「えっ!?」


「あー、チートで無双!ってヤツな。ヒカリらしいなあ」


「は!?」


 なんでバレてんの!?


「ちっ、違うし!ボクはっ、あのっ!そのっ、そう!サーファー!イケメンサーファーにして下さい!って言ったんだよ!でも、ヤンキー女神にキレられて無理矢理この格好にさせられたのっ!」


「超絶カワイイ女の子かあ、ホントに可愛いよ。その制服、似合ってるよ、ヒカくん」


「イヤあの、それが……女の子じゃなくて……」


 俺はモゴモゴと言い淀む。


「ん?女の子だろ?ヒカリ」

 と、ナイスボディーのお姉さんの姿の父さん。


「あ!アレでしょ!男のでしょ!」

 と、ゴリゴリマッチョの体育教師の姿の母さん。


「え!?」


 男のってわかっちゃったの!?

 なんでそんな察しいいのさ、母さん!?


「あのねえ、母さん、若い頃ゲームオタクだったのよお。ギャルゲーも好きだったんだけど、ちょっと変わったゲームやりたくなってそんな時『男の』に出会っちゃったのよー!」


 初耳!初耳ですよ母さん!まさかゲームオタクだったとはっ!

 俺の部屋のゲーム触ってるなー、とは思ってたけど!

 そっち!?そっち系のゲームですかっ!


「面白かったよー、男のモノのエロゲ!『ねえセンパイ、ボク男のでごめんなさい♡』とか!」


 先輩後輩モノ!無さそうで有りそうなシチュエーション!テッパンです!


「『ほじってほじって男の♡』とか!」


 それって、何をほじるんデスカネっ!?知りたくも無いから訊かないけど!


「『放課後は男の!バイト先のセンパイとイケナイ恋の綱渡り!』とかね!」


 とかね!って言われても!

 

 その後も母さんはにっこにこしながらスラスラとゲーム名を軽く20タイトルは言い並べたけど、俺は3つしか知らなかった。

 3つ知ってるだけでもヲタな方だと思うんだけど、今はそういう話じゃなくてさっ!


 俺はふと気づいた。

 父さん〖ナイスボディーのお姉さん〗が身に着けてるネクタイは男物で。

 母さん〖ゴリゴリマッチョのお兄さん〗が身に着けてるブローチは女物、って事に。


「あのさ……そのネクタイとブローチって、なんで?転生したのになんで持ってるの?」


 ナイスボディーのお姉さんにはちょっと不釣り合いな男物のネクタイ。紺と濃紺のストライプのオジサンネクタイ。


「このネクタイな、これだけはどうしても持っていきたい!ってお願いしたんだよ」


 ゴリゴリマッチョなお兄さんには到底似合わない、金細工のブローチ。金ていうけど、もちろんそれは金メッキ。安物のオバサンブローチ。


「母さんもそうなのよう。このブローチだけはどうしても!って。ね」


 俺はそのネクタイとブローチに見覚えがあった。

 俺の初めてのバイト代で父さんと母さんにプレゼントした物だ。

 初めてのバイト代、って事は伏せておいて、二人をビックリさせようと思って。


 なんの記念日でもない。

 何かお祝いするような特別な日でもない。


 ほんのささやかな、二人への感謝の気持ちのプレゼントだった。


「ヒカリの初めてのバイト代で買ってくれたものだもんな!忘れるわけないだろ!なあ、母さん!」


「そうよう!ヒカくんが彼女より先に母さんに買ってくれたものだもん。結婚指輪より大事だよ?」


「おいおい母さんや。それは俺に対してひどくないかなあ」

「いえいえ父さんや。ささやかなカワイイ冗談ですよう」


 ……なにそれ。仲の良い夫婦って、異世界に来ても仲良いんだな……


 なんだ。


 そっか……父さんも母さんも、俺の初バイト代だったって気付いてたのか……


 前の世界では。

 イケてる父さんでも、美人な母さんでもなかった。

 裕福な家でも無かった。


 でも俺は、仲のいい二人の事を好きだったし、ちょっとだけ羨ましいなって思ってた。


 ちょっとだけ。


 まさか、また会えるなんてさ。


 こんなおかしなカタチだけどさ。



 あれ?



 あれれ?



 なんだか、視界がにじんできましたよ?



 胸の奥が熱くなってきましたよ?



 視界がにじむどころか、どんどんぼやけていきますよ。


「とう、さ……んっ……かあ……さ……」


 あれ?


 声がうまく出せませんよ?


 なんでだろ……俺のほっぺたが濡れてる。


 あとからあとから、ほっぺたが濡れるんだよ。



「あらあらヒカくんたら、泣き虫さんね……」



 母さんに、きゅっと抱き締められると、もう、ダメだった。


 こらえてたハズの涙が、あとから、あとから、溢れてきてさ。


 いや……もう、とっくに溢れてたんだ。


 俺は……泣いてた。


 小さな子供の頃に戻ったみたいに、泣きじゃくってた。


 父さんが、母さんと俺とをひっくるめて抱き締めてくれてさ。

 

 その手で俺の背中をさすってくれてさ。


 最後に、父さんと母さんに抱き締められたのはいつだったっけ……


 父さんと母さんの目に映る俺の姿は、男のの『コウダヒカリ』じゃ無くて。

 二人の息子『光田光こうだひかり』なんだろうな。


 そんな事を思いながら、父さんと母さんに抱き締められてさ。



 俺は……大粒の涙を、いくつも、いくつも、こぼしたんだ。

 


「いやあ、ヒカリが消し炭になる前に会えて良かったよ」


「え!?」

 

 スゴいいい場面なのに、なんてコト言うのさ父さんっ!?


「そうね。神様に感謝しないとねっ。消し炭になっちゃったら誰かわからなくなっちゃうものね!」


「おいっ!母さん!消し炭って!そこじゃないでしょっ!」


「生きて帰って来いよ!いつかヒカリと晩酌を!ってな。男親なら誰でもそう思うもんだよ」


 おいっ!父さん!?

 生きて帰ってって、ナニ!?


「いつかヒカくんがカワイイ彼女連れて来てくれる、って信じてる!彼女と一緒にお買い物させてね!生きろ!ヒカくん!」


 ちょっ!母さんっ!?

 生きろ!ってカッコいいけどさ!


 コンコン、カチャリとドアが開き、ひょこっと顔を出したのは神様校長先生。


「感動のご対面はお済みになりましたかのう?申し訳ないけども、この後のスケジュールが詰まっておりまするのじゃ」


 神様校長先生が入ってきてペコペコと父さんと母さんに頭を下げる。

 別にペコペコしなくてもイイんじゃないですかね、神様校長先生っ。


「いえ、とんでもない!私共もまさか息子に会えるとは思っておりませんでしたのでっ」


 父さんと母さんもペコペコとお辞儀です!

 なんですかね、このオトナの社交辞令的なやりとりはっ。

 まあ、俺も言っときますよ、お礼をね!

 転生した父さんと母さんに再会!なんて、そうそうあるコトじゃ無いだろうし!


「あのっ、ありがとうございます、神様校長先生っ。まさかまた父さんと母さんに会えるなんて……」


「ん?ワシ、なんもしとらんよ。ワシは二人を呼び寄せただけじゃからの。何かをしたとすればそれは、フィルフィーマートじゃよ」


 えっ!?フィルフィーが?フィルフィーが俺達家族をもう一度会わせてくれた、ってコト?


「あらまあ!あのヤンキー女神様、イキな事するのねえ!」


「ただ目付き悪いだけのヤンキー女神様じゃ無かったんだなあ。なあ、ヒカリ!」


「え、あ……うん……そうだね」


 フィルフィーが……そうか……なんだ。

 何にも考えて無さそうで、ホントは深いトコロで、ちゃんと『女神』してるんじゃん。


 ……ちょっと見直しちゃったよ、ヤンキー女神様!


「そうそう、ヒカリにご報告!なんと!父さんのお腹の中には、母さんの子供がいるんだよ!」


「え!?」


「そう!母さんがね!パパになるのよ!スゴいでしょ!」


 なぬっ!?言ってるコトがややこしいけども!二人の間に赤ちゃんが!?新しい生命が異世界で!?


 ってコトは?俺の弟か妹、ってコトか?イヤ、でも、今の父さんと母さんは別人のハズ、なんだけどっ?あれっ?ワケわかんなくなってきたっ!?


 ん?んん!?

 異世界転生してそんなに日は経って無いハズなのになんで妊娠したってわかるの!?


「えっ?妊娠って?だってっ、計算合わないんじゃないのっ?」


「ヤボだなあ、ヒカリぃ。父さん達って、交通事故で死んじゃっただろ?実はな、一家三人、じゃ無くってな」


「四人だったのよう」


「えっ、てコトは……あの時、母さんは妊娠してたってコト!?」


 父さん〖ナイスボディーのお姉さん〗が、母さん〖ゴリゴリマッチョのお兄さん〗をじいっと見つめてる。

 ラブラブなカンジですが!


 マジかっ!

 16も年の離れた弟か妹がっ!母さんのお腹の中にいたってコトですかっ!


「お腹の中の子も死んじゃったんだけど、あまりにも不憫だからって、ヤンキー女神様が、ね」


 えっ!?フィルフィーがっ!?

 それってめちゃめちゃ善行なのではっ!?


「だから!心おきなく消し炭になってくるといいぞ、ヒカリ!」


「頑張ってねヒカくん!レッツエンジョイ異世界ライフだよっ!あ、でも今日が最後の一日になっちゃうのかなあ……」


 おいっ!父と母っ!今までのイイ場面が台無しですよっ!

 消し炭とか言っちゃダメ!絶対!

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