初カノと初デートのお約束

「いつまでもこうしてたいなって思うけど、帰らないと……」


 と、ちょっと寂しそうに言うラーフィアちゃん。

 嬉しいコトを言ってくれますよ、涙でぐるぐるメガネが曇りますよー。


「ヒカリちゃんの明日のご予定は?」

「ん?んー、特に何もないけど……」


「じゃあ!明日はお出かけしよう!ヒカリちゃんと一緒にお買い物したい!」


「えっ!あの、それは嬉しいけど、ボク、お金持って無いよ?」


 そうなんですよ。俺、無一文ですよ。

 この世界に転生してから買い物って行ったコトが無い。前の世界の現金とか貯金とか、少なからずあったお金は持ってこれなかったからね、さすがにね!

 あ、ネトゲとかソシャゲの仮想通貨なら少しだけあったけど、それも使えないだろうなー。なんせ異世界ですからね!若干、異世界感が欠けてますけど。


「私だってお金無いよ?学生だもん。お小遣いとお年玉とお盆玉でやりくりしてるの。我が家のお母さん条例で18歳になるまでバイト禁止だしね」


 お年玉?お盆玉?ってこっちにもあるのかー。なんかますます異世界感に欠けるな。まあ、親近感湧きますけどね!


「少しなら貸せるから!ね!行こっ!ヒカリちゃんとデートしたい!」


 デートしたい!なんてめちゃくちゃ嬉しいコト言ってくれますけどもラーフィアちゃん!

 いくらラーフィアちゃんのになったとは言え、デートで女の子からお金借りるのはめっちゃカッコ悪くないですかっ?

 しかも俺の人生初デートですよ?


「え、でも、うーん……」


 と、もじもじと渋る俺を見てラーフィアちゃんがぽつりと一言。


「私とじゃイヤ、かなあ……」


 うわ!めちゃめちゃしゅーんてしてるっ?さっきまでのキラキラなテンションがダダ下がりですよ!


「えっ!あのっイヤじゃない、よっ?イヤじゃ無いけど、ボク、私服も無いから……」


 そうなんですよ。俺、私服も無しですよ。持ってる服と言えば、最初に着てたゴスロリメイドの衣装のみ!

 寮ではこのだっさい緑ジャージで過ごしてるし、あと持ってるのは寝巻きと学校の制服しかない。

 お着替えガチャで出た衣装を脱いで保存って出来るみたいだけど……おパンツとか。私服になるような衣装って出なさそうだしなー。


 今までお着替えガチャで出てるのは、バニーガール、赤ブルマの体操服、騎士の甲冑。

 どれを私服にしろとっ?


 想像してみよう!

 街の中を歩くちっこいバニーガール!ただの痴女!

 街の中を歩く赤ブルマの体操服の女の子!ただのアタマイタイ娘!

 街の中に立つ騎士の甲冑!動けない騎士の甲冑!みんなでこぞってタコ殴りですよ!


 ゴスロリメイド服がまともに見えてくる始末です。

 まあ、前の世界ではメイド服を私服にしてる人ってフツーにいましたけどねー。

 ゴスロリメイド服で初デート……無いわー。


「そんなの学校の制服で全然ダイジョブだよ?制服デートなんてみんなしてるもん。私も制服着ていくから、ねっ?ねっ?」


 と、ラーフィアちゃん。

 なるほど制服デートですか。ふむ、それなら。


「じゃあ……うん。制服でよければ」


「やったぁ!明日はヒカリちゃんとデート!初デート!初デート記念日!だねっ!」


 ラーフィアちゃんはそう言ってキラキラ輝く瞳で、もう一度俺に抱き付いた。

 感情表現が豊かなコですよ、ラーフィアちゃん!


「じゃあ明日、朝9時に寮に迎えに行くから!それでいいかなっ?」


「うん。じゃあ……待ってる」


 初デートに女の子の方からお出迎え。

 これも男としてはカッコ悪くないですかっ?なんか、ラーフィアちゃんにリードされっぱなしだなー。

 

「じゃあ……ん!」


 と、ラーフィアちゃんがもう一度俺に向かって右のほっぺを近付けてきた。

 え、おやすみのチューって、さっきしたよねっ?

 ラーフィアちゃんは目を閉じて俺のチューを待ってますよ、マジですかっ!

 うむむ。

 俺はちょっとだけつま先立ちになり。


「……ん」


 むにょ。


 と、再びのおやすみのチューですよ!くはっ!やっぱ、カワイイなラーフィアちゃん!


「じゃあ、私も♡」


 ちゅっ。


 と、ラーフィアちゃんも俺の右頬にチューをした。


「うふふっ!じゃあっ、また明日!楽しみだなっ♡」


 と、後ろ向きで歩きながら手を振るラーフィアちゃん。アニメとかマンガとかネトゲとかドラマでしか見たコトない仕草ですよ!


 KAWAEEEE!


「ホントは使っちゃダメなんだけど、内緒にしててねっ」


 ん?使う?何をですかね?


 ラーフィアちゃんは不思議がる俺を見てニコッと微笑んでから前を向いて、たたたっと軽快に駆け出して。

 水溜まりを飛び越えるみたいに、ぴょん、とジャンプすると。


「えいっ!」


 ふぁさあっ!


 と、大きな翼を背中から出現させた!翼!翼ですよっ!その翼の色が、なんとっ!

 くっ……黒い!黒い翼!ただの黒じゃなくて月明かりを吸収するような漆黒の翼っ!え!?ラーフィアちゃんて人間デスヨネっ!?

 んっ?あの翼って、背中から直接生えてる訳じゃなく、パーカー越しに出現してる?


「魔王スキルの一つだよっ。ヒカリちゃんになら見せてもいいかな、って!」 


 魔王スキル!ラーフィアちゃんもスキル持ち!あんまり羽ばたかなくても浮いてるのはスキルだからかっ?

 漆黒の翼なんて俺のスキルなんかより遥かにカッコいい!!

 俺のは『お着替えガチャ』と『股間の黒光くろびかり』ですからね!


「ヒカリちゃんがキスしてくれた事で吹っ切れた!私はやっぱり!魔王になる!」


 えっ!?

 それってどっち!?お口デスカっ?ほっぺデスカっ?

 確かにほっぺには俺からチューしたけどっ!

 俺とキスした事で魔王になる決意がさらに固まった、ってコトですかっ!?


「私は魔王になって!私みたいな悲しい想いをする女の子を一人でも減らしてみせる!」


 月を背景にして浮かぶ、漆黒の翼の銀髪美少女ラーフィアちゃんの魔王になります宣言!


 カッコいいっ!


「ヒカリちゃんのキス……上手だったよ?」


 と、ラーフィアちゃんが恥ずかしそうに言うけれど!

 俺っ、特になんもしてないんですけどっ!?


「じゃあね!また明日ねー!」


 ラーフィアちゃんは、俺の頭上をくるーりと旋回すると月明かりの元、ふぁささっと羽ばたき飛び去って行った。


 かっ。カッコいい……漆黒の翼を持つ銀髪美少女なんてカッコ良すぎるっ。

 俺のポンコツザコっぷりが際立ちますよー!


 ついさっき、突然出来た俺の彼女は!


 空を翔べます。もちろん、俺は翔べません。

 そして。

 ラーフィアちゃんは魔王への階段を着々と昇っているようです。


 ということは!世の中の全男性の股間に危機が迫っているというコトですよ!


 明日明後日とかじゃないにせよ!


 股間に危機が迫ってますよー!

 ちっちゃくされちゃいますよー!

 小指サイズですよー!


 ぬおおっ!

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