初登校です、男の娘!

「なんだよヒカリ、そのぐるぐるメガネは。だっせーなあ」


「いいんです!ぐるぐるメガネで地味子じみこ作戦なんです!」


「ふーん。もったいねーなあ。せっかくの美少女なのによー。さーって、あたしのはーっと」


 フィルフィーがクローゼットから取り出した制服、それは。

 なぜかセーラー服。しかも黒。

 でもって、スカートが地面に引きずるくらいにめちゃ長い。ていうか、引きずったような跡があって裾がボロボロなんだけど。

 これ、何かの手違いじゃ……


「おっ!コレコレ!コレ着たかったんだよなー!」


 手違いじゃないのかっ。

 フィルフィーがオーダーしたのかな?

 ヤンキーにセーラー服……似合いすぎです、テッパンですよ。


「お!コレも用意してある!わかってるねー!」


 と、取り出したのは。


 竹刀!


 びゅびゅん!と、片手で軽々と竹刀を振り回す姿は一昔、いや二昔前のスケバン!

 ……ドコに向かってるんだフィルフィーはっ。

 そんなんで女神ポイント貯まるの!?


「これでテッペンは頂いたようなもんだぜ!なあヒカリよう!」


 ナニ言ってんですかそんなの知りませんよスケバン女神。

 凶器振り回して満開の笑顔の女神ってアリなんですかね?


 俺達は着替えを済ませて身嗜みを整えて食堂へと向かった。

 もちろん、着替えの時は背を向けてましたよ!片方はヤンキーとは言え、キレイなお姉さん二人の着替えを直視するどころか盗み見る度胸も無いですよ!

 

 ペリメール様は足首まである長い髪を少し結い上げてからのポニーテール。それでもお尻くらいまでの長さはある。

 ポニテもめっちゃ似合いますよペリメール様。


 フィルフィーはプリン頭のまんま、無造作に背中に髪を流してる。セーラー服にプリン頭がよく似合ってるんだな、これがまた!


 食堂に行くまでに何人かの寮生と出会って挨拶をしたけど、そのほとんどがペリメール様に視線が向いていた。

 それは食堂に行っても同じで。


 朝食前の食堂で新たに入寮する俺達三人が順番に挨拶する運びとなり。


「初めましてっ。勇者育成コースに編入する事になりましたコウダヒカリと言いますっ。ヨロシクお願いしますっ」

 

 パラパラとオマケ並みに申し訳程度の拍手。

 うーん、いいですよ!注目されて無い!目立って無い!

 小さい声かも知れないけど、これが今の俺の精一杯です。目立つ訳にはいかないのでね!

 いいんです、これで。

 続いてペリメール様の挨拶です。


「皆様、初めましてっ。新人女神のペリメール=アコルディオーネと申します。

 既に女神ライセンスは取得しておりますので、臨時講師として女神育成コースの皆様と共に大いに学びたいと思っておりますですわっ。

 短い間ですがよろしくお願いいたしますですわっ」


 女神育成コースの講師かー。ふーん。

 女神ってコト言っちゃうんだなー。寮生の皆さんも違和感を感じたりしてないみたい。

 というか。

 俺の挨拶の時にあったパラパラと疎らな拍手。でもペリメール様の時にはそれが無い。


 拍手を贈る事さえ忘れてしまったように羨望の眼差し、というか神々しい何かに出会ってしまった村人、みたいな顔をしてるコが多かった。

 俺は読唇術なんて使えないけど、あきらかに口の動きが『お姉さま……』ってなってるコが何人かいた。


 まあ、ペリメール様はめっちゃ美人だからねー。その気持ち解ります!

 ペリメール=アコルディオーネ、ってフルネームだったのは初耳です。アコルディオーネって響きがステキですよー!


 続いてフィルフィーが挨拶を、と思ったら!


「あらよっと!」


「ちょっ!フィルフィーさん!?」


 長いスカートをものともせずに、ぴょんとテーブルの上に飛び乗りましたよ!?そりゃペリメール様も驚きますよ!


 フィルフィーはヤンキー座り、つまりはウンコ座りになって、メンチ切りながら大きな声で一喝!


「あたシはぁ!フィルフィーマート=チェインストアっつうモンだ!魔王育成コースで暴れっから、いっちょ気合い入ってるンで夜露死苦ゥ!!」


 やらかしてくれますよヤンキー女神。

 ていうか、フルネームだとコンビニ以外の何物でもない感がハンパない。


 ん?


 魔王育成コース……?


 魔王育成コースっ!?そんなのあるの!?どーなってんですかね、この学校!?

 勇者と魔王と女神を育成するって、なんだそれ?

 勇者と魔王のパワーバランス的なモノとかあるのかな?この世界の背景がどんななのかもまだ知らないし。

 まあ、そういうのも少しずつ学べばいいのかなー?


 にしても、フィルフィーは女神なのに魔王育成コースって。何か考えがあるのか?


 ……無いんだろうな、たぶん。


 でもまあ、ペリメール様の群を抜く美しさとフィルフィーの悪目立ちのおかげで、俺はカスミソウより霞んでます。目立ってないです狙い通りですよー!


「ナニやっとんじゃコラ」

 どご!

「あだっ!」

 どてっ!


 うわ!

 エフレフさんの正拳突きがフィルフィーの尾てい骨を直撃!!

 いくら不意打ちとはいえ、フィルフィーが吹っ飛ばされてテーブルから落ちたっ!

 受け身も取れずにどてっ!て落ちたっ!

 エフレフさんて、何者っ?

 

「テーブルの上にスリッパで乗るたあ、ええ根性しとるやないかい。きさん、朝食の後で寮母室来いや。返事は?」


 と、エフレフさんの低い声。


「……うっす」


 さすがのフィルフィーも、一撃で吹っ飛ばされてしまったもんだから反抗意欲は無いようです。


 っシーーーン。


 と、静まり返る食堂内。寮生達は皆一様に無言で俯いてる。俺もペリメール様も直立不動です!

 シーンて音って久々に聞いたよ。集団の中の静寂音てヤツですよ!

 イヤそれにしても。

 エフレフさん、こわっ!どこの言葉かわかんないけどめっちゃ迫力ありますよ!これはっ!怒らせないようにしないとおっ!


 フィルフィーはどんな顔してるかな?とチラッと見てみると。

 床に四つん這いになって、お尻を押さえて涙目になってた。


 ……面白い。


「茶番劇はここまでにしようか。皆、朝食を頂きましょう。今日も良き日を」

 

 さっきとは全然違うエフレフさんの声。


「「今日も良き日を!」」


 と、寮生達の声が揃った後、朝食タイムとなりました。

 今日も良き日を、かあ。なんかいいなー、こういうの。

 

 俺達も席に着いて朝食を。フィルフィーもおとなしく着席しましたよ。


 朝食はなんとなんと!日本食です!

 白いご飯にお味噌汁。薄い切り身の焼き魚と目玉焼きに御浸し。

 まさか異世界でコレに出会えるとは感激ですよー!


 ではでは!いただきます!


          ◇


「あれ?ペリメール様、ペンダントはどうしたんですか?」


 朝食を食べながら俺はふと気が付いた。

 細くてキレイな首にキラキラと輝いていたペンダントが見当たらない。

 まさかスカイダイビング中に落としちゃったとか!?


「あれがあると便利ですがポイントの事ばかり気にしてしまいますから、神様にお預かり願いましたのですわ。これからの高校生活にも支障がないとは言えませんから、ですわっ」


 おおー。さすがですペリメール様。


「ポイントがマイナスになる事を知らせてくれるペンダントが無いのは少々の不安がありますが、そればかり気にするのはよろしい事ではありませんから。ですわっ」


 うんうん、なるほど!さすがはペリメール様です!


          ◇


 朝食後、自室に戻って登校準備。と言っても、着替えちゃったからタイムスケジュール確認とか持ち物チェックとかしか無いんだけど。


 もう一度、カバンの中身と身嗜みをチェック中。


 エフレフさんに呼び出し食らってたフィルフィーがお尻を押さえながら部屋に戻って来た。


「どうでしたかフィルフィーさんっ!たっぷりしぼられましたかっ?ですわっ」


「……リレーに使うバトンでケツ100回叩かれた……」


「ぶふっ!」


 と俺、吹き出しちゃいましたよっ!尻叩き100回って!リレーのバトンで!?体罰ご法度のこのご時世に!

 なかなかイイ感じですよ、この異世界!

 面白い!


「あ?なんだよヒカリ。なんか可笑しかったか?ああん!?」


 機嫌悪いのは勝手だけど、自業自得です!

 スリッパ履いたままテーブル乗ったらそりゃあ、怒られますよ!


「いえっ!にゃんでもにゃいですうっ」


 とは言ったものの!

 ぶふー!俺は笑いを堪えるのに必死です。


「これに懲りたら次からはお行儀良くする事ですわっ!さてさて!そろそろ行きましょうかですわっヒカリ様っ、フィルフィーさん!」


 お!いよいよ登校時間となりました。


 じゃあ、行きますか!学校へ!

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