第27話 銀色の狐
朝の騒動から時間が過ぎてお昼前になり、やっと例の彼女は目を覚ました。
「こ、ここはどこだ!? っう」
「動いたら傷開くわよ」
「これは……あなたが治療してくれたのか?」
「まあ、一応ね……」
ひとまず起き上がれないほどじゃないみたいで安心ではあるけどね。
さすがに尻尾に合わせた服は持ってないので、ゆったり目の服を貸しておく。元の服はボロボロだったから、治療の時に一度取っ払ってしまった。
一応、直せないかを確認してみたけど、買い直したりしたほうが早そうなレベルだし血が落ちそうにない。
「とりあえずお昼食べましょう~。人と同じ物食べられるわよね?」
「あ、あぁ……だが、いいのか?」
ゆったりした服を着せてみたけど、身長はあたしより少し大きいぐらいの細身で胸大きくてスタイル良すぎじゃないかしら。
目元もつり目気味でクールな印象がある。それで銀髪の銀尻尾とかもう絶妙なバランスになっているわね。色の印象ってこんなにあるなんて。
「そ、その、そんなにじっと見つめないでくれ……」
「あっ、ごめんごめん。それで、何がいいって?」
「いや、色々と良くしてもらって……払えるものはないのだが」
「いいわよ。このまま放り出すほうが怖いし……この辺の動物に人とか魔族とかの血の味覚えさせたくないし」
「そ、そうか。そういわれてしまうと、ワタシが外にでるのもそれはそれで迷惑かもしれないな」
「そういうこと。だから、ひとまずはお昼を食べながら話を聞かせてくれる?」
「わかった」
料理自体はあたしがしたけど、配膳はリリアちゃんに任せている最近だ。そこは貴族ということでセンスが良い部分が最近は見られる。
「リリアちゃん。任せちゃってごめんね」
「大丈夫よ。これくらいなら私でももうできるから!」
「さすがリリアちゃんね」
「ふふんっ!」
褒めてドヤ顔するリリアちゃんは可愛い。
「お、お邪魔する」
「あ、ど、どうも」
だが、彼女と対面するとすぐに人見知りを発動した。
「まあ、座って座って」
あたしはひとまず彼女を座らせて対面の席に座る。
配膳を終えて挨拶を済ませてお昼を食べ始めた。
「むっ……!」
一口食べるとそんな声を上げる。
「舌に合わなかった?」
「いや、食べたことがない味だったから少し驚いただけで、とても美味しい」
「それはよかったわ」
「しかし、素材の魔力が濃いな」
「まあ、この森で育ててるのが原因だとは思うわ」
どう話を始めようか悩んだけど、話題がでてきてくれてよかった。このまま流れで色々聞いて見るかな。
「ところで、あなたの名前は? あたしはアンジュ・シエーラって言うわ」
「サラン・シグニアだ。見ての通りフォックステイルだが……そもそも、フォックステイルを知っているか?」
「知ってるわよ。魔族でしょ? わかった上で治療したしそこはそれ以上気にしなくていいわ」
「わかった。ひとまずそうさせてもらおう」
「それで……そうね。なんで森に来たのって言う聞き方だとあれだし、あんな怪我だらけだったのはなんで? って聞こうかしら」
「魔族同士のいざこざで色々とあってな。詳しく説明したほうがいいか……? 助けてもらった身だ」
あんまり知りすぎてもよくない気はするけど、シグニアさんを追いかけてくる何かがいるなら少しはしらないと対処もできないか。
彼女を匿うにしてもだけど、逃したとしても追いかけてきた結果ここにそいつらが来る可能性はあるわけだし。
「詳細にじゃなくてもいいけど、大雑把には知りたいわ」
「大雑把にか……魔族と人族が今手を取り合おうとしていることは知っているか?」
「詳しくはないけど知ってるわね」
「まあそれでも知っているなら早い。つまり、それの反対派との対立が魔族領土で小さくだが確実に起き始めている。ワタシの場合はそこに自分の種族が今まで魔族の中でも孤立して文化を保ってきた部分もあってな」
「それで、どっちか側として活動していたら、過激に攻撃され始めたってわけ?」
「まあそういうことになるんだろうな。だが、ワタシを追ってきた奴らが、どこの奴らかは顔も体も完全に隠した鎧を着ていたせいでわからない」
かなり武装していたのね。シグニアさんは見たところかなり軽装だし、太刀打ちするより逃げた方がいいか。
「まあ、なんとなくは把握したけど……こうやって話せてる時点で、察せはするけどあなたはどっち側なの?」
「正直言うとまだわからない。だからこそ狙われたのかもしれない……」
「どういうこと?」
「人族と手を取り合いと思う以前に、人族について詳しくないんだ。だから、一度であってみたいという話をしていて、日程を調整している矢先に襲われた。ここまできたのは偶然とも言える」
「ふぅん……」
まあ聞きたいことはこれで今は全部かな。完全に人族と手を取り合いたいわけじゃないのがちょっと怖いところだけど、彼女が言うようにだからこそ意思を変えるには適したタイミングで狙われたのかも。
「リリアちゃんは何か聞きたいことない?」
「えっ!? な、なんで私にふるのよ!」
「ワタシで答えられることなら答えるぞ」
「えぇっ!? いや、あの、それは……あ、リリアです」
「よろしく」
「よ、よろしくお願いします!」
だけどこれからどうしようかな。
シグニアさんのことをアリアさんに伝えるかどうかが、一番の悩みどころなのよね。
「その、獣人の人ってあんまり見たことなくて」
「そうなのか?」
でも、完全に人族と手を取り合うわけじゃないっていうなら、出会わせるには早いのかもしれない。最悪の場合、魔族内の争いに人族が介入とかいう流れになったら、手を取り合うどころじゃなくなる可能性だってある。いや、これは考えすぎか。
駄目だな。前世にどうしても敵だったから、悪い方向の想像のほうが浮かびやすいのかもしれない。
「尻尾って感覚あるの?」
「もちろん」
「じゃあ、触らせてもらうのはちょっとむずかしいですよね」
ひとまずはシグニアさんのことをあたしは知るということと、彼女がここに残って治療するか自分で今後の方針が決まっているかも確認が必要――。
「むずがゆいが、君がそうしたいなら多少ならいいが」
「本当!」
「助けてもらって、ご飯ももらったからな」
そうね。狐の尻尾の柔らかさの確認が必要――。
「って、ずるい!」
「シエーラさんも触るかい?」
「ぐっ……ご飯とかのあとにじゃあ、少しだけ」
「ワタシは構わないさ」
シグニアさんはそう言って笑顔を浮かべた。
不覚にもあたしはその笑顔にドキッとしてしまった。顔が整いすぎている人の笑顔ってこんなにすごいんだ。
なんでこんなに負けた気分になってるんだろう。
「シエーラさん……」
「ん?」
勝手に落ち込んでると、リリアちゃんがあたしの耳元に小声で話しかけてくる。
「かっこいい人ですね」
「そ、そうね……」
リリアちゃんのハートは絶対に渡さない。あたしは心にそう誓うのだった。
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