第24話 記載事項
階段を折りて1階に戻ったあたしはしれっと人混みをかき分けつつリリアちゃんの近くまで移動する。
そして人混みの中にいるあたしを見つけたリリアちゃんがすごい目で助けを訴えてくるのが可愛い。
ただ、さすがにこれ以上はよろしくないから、無理やりリリアちゃんの横まで移動する。
更に偶然か必然かそのタイミングで腕相撲も決着がついたらしい。
「勝った!」
勝者はドラゴンマンの方だったみたい。なんというかこの街に始めてきた時にあったドラゴンマンの人とは大違いだな。
「あれ!? なんか一人増えてる!?」
そしてあたしの方を見てそう言う。
「もしかして、新たな乱入挑戦者か? なら、受けて――」
「この子の保護者みたいなものだけど、どういう状況なのかしら?」
笑顔で言ってみた。
その瞬間に、野次馬含めて多くの人間の顔が青く染まった気がする。流石にある程度の常識は持ち合わせてるよね。
「も、もうしわけありません。勝手にお嬢さんを巻き込んでしまって」
「いや、まああたしもこの子に自由行動させたし、そこまで子供じゃないからいいのだけど。ちょっと大きな男の人に慣れてないから、教えるなら優しくお願いするわね」
「えっ?」
「教えてくれるんでしょ?」
「い、いいので?」
「まあ折角あんだけ盛り上がったし、別に悪気があってのことじゃないみたいだし」
あと、リリアちゃんの怯えている原因が対人関係が苦手とかだったら、ある程度どんな人とも話はできるようにならないといけないしね。
さすがに元貴族だから、落ち着いた人とかなら話せるかもしれないけど、奴隷市場のこともあって苦手意識がついててもおかしくはない。
「おまかせください!」
「あ、あの、シエーラさん?」
「まあ一緒にいるから。何事も経験よ」
「は、はい……」
冒険者証を作るための魔石をギルド職員からお借りしてから2階へ移動して始まる。
やり方はあたしがアリアさんに作ってもらった時とほとんど一緒だけれど、ドラゴンマンの豪快でありつつも気遣いのある対処をしてくれて助かる。
リリアちゃんも徐々に警戒を解いて話を聞いて色々と作業していく。
「このギルドは平和でいいですね」
「何その言い方……」
あたしといえばリリアちゃんたちが作業している隣の席からそれを眺めつつアリアさんと話をしていた。
「いえ、実はこの前別の街へ行った時は治安がひどいことになってて、冒険者も仕事をする荒くれ者といいますか」
「あぁ……」
「仕事はするけど問題も起こすみたいになってたみたいです。ただ、その街に他にギルドもないですし、魔族領地に近いせいか、そっちとの関係に四苦八苦で軍も動けない状態で対策がとれてないんですよ」
「うわぁ……かなり大変ね」
「でも、今後魔族側と関わっていくとなると、そういう場所の街って結構重要になるんですよね」
「もしかして、前に行ってた魔族との交渉って」
「ああ、そことは別ですね。今回交渉にいかせてもらった魔族の街は森を挟んでそこそこ近いので、間に別の村などは存在してませんから」
「へぇ……」
しかし、最初に聞いた時は他人事だったけれど、何度か聞いているとそんなこと可能なのか不安になってくる。
勇者時代に魔族で話が通じたのなんて、数えられるほどだった。その子達も魔族側の弱肉強食からはぐれたとかそういう立場だった子で、決して人族と仲がいいからってわけではなく。おそらく、対話しか自分たちがとれる対策がなかったんだと思う。
話してみればいい子だったんだけどね。
ギルドも賑わいを見せて周りでは、どの仕事を受けるかとか新人らしき子達がパーティーを組まないかと勧誘してる声が聞こえてくる。
そうした時だった。
「あ、あの、ちょっといいですか」
あのドラゴンマンがあたしの方へときておずおずと話しかけてくる。
「うん? どうかしたの?」
「あ、いえ、保護者的な意味が理解できたのですが、これって場所によっては使いにくいと思いますがどうしますか?」
そう言って一枚の冒険者証を見せてくる。
――――
リリア・アルミシア【隷属:アンジュ・シエーラ】
レベル 20
性別:女
年齢:15
魔法:土属性魔法、解除魔法
経験数値:6700
使用経験数値:0
――――
ドラゴンマンが自己紹介に見せたかと思ったけど、今作ったリリアちゃんのだったか。
そして、隷属って奴隷側だと記載されるようになってるのね。
「あ、もちろんオレは誰にもいいませんし。あなたは良い方そうですから何かあるんでしょう! ただ、やっぱり場所によっては……」
「ふふっ、ありがとう。優しいのね」
「い、いえ!」
「アンジュさん。そういう対応は誤解されても知りませんからね。あと、なんかずっとリリアちゃんの濁してた理由これですか」
隣に座ってたアリアさんにも見られてしまった。まあ、駄目ではないんだけどね。
「経緯とかを説明するのがちょっと面倒くさいから、よっぽど聞かない限りはいいかなって思って」
「まあ、深くは聞きませんけど。この方が言っているとおり、あまり表立って使うのは難しいかもしれませんね。アンジュさんのものとセットとかなら使えますけど」
「お使いで、主人に頼まれたとかそういう扱いになるってこと?」
「まあ、そういうことですね」
そういう使用方法もあるんだ。でも、気をつけていかないといけないわね。
「とりあえず、あの子に渡しておいて、それじゃあついでに立場的に使いにくいことも説明してあげてもらえる?」
「それくらい任せてください!」
ドラゴンマンに頼むとそこまで引き受けてくれるらしい。あとで、なにかお礼しないとな。
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