第16話 危険な気配

 森の中まで走ってきて帰りを思い出した。

 あの枝が不自然になって人が進んだように見えた道はリリアちゃんだったんじゃないか。

 あたしはその場所までやってくる。


「さすがに魔力の跡は残ってない……当たり前かな」


 魔法使ってないと思うし、魔力が漏れ出るほど強くはないしね。


「あぁ、もうなんでいつも出発してからあたしは気づくの! ナイフでも鉈でも斧でも持ってくればよかったのに!」


 あたしはそのまだ尖った枝も残る道に飛び込む。

 幸いにも太い枝はない。ただ、それでも痛いものは痛いし、袖のない部分に当たれば物によっては肌が切れて血が出る。

 しばらくすると森の何処かにたどり着いた。

 何百年住んでいても自分が使ってない奥の奥になってくると、さすがに道は把握していない。


「ここからは普通に安全な道を選んで進んだのかしら?」


 周りを見ても不自然に進んだように見える跡はなくなってしまった。


「どっちにいったの……?」


 とにかく手がかりを見つけないと。この森で勘だけで探してたらすぐに遠くに行かれてしまうか、襲われていようものなら手遅れになる。


「さすがにリリアちゃんでも、逃げ切れる魔物しかいないと思うけど熊とかはやばいのよね。あと奥の生態系はよく知らないし、知らない魔物でてきたらどうするの」


 厄介なのは今のところひたすら奥に進んでる。リューシエラの街だと顔を知られてる人がいるって事だと思うけど。

 でも、もしかするとリリアちゃんの故郷がこっちの方向にあるって可能性もあるのか。

 どっちにしても詳しい地名しらないから、それじゃ予想できない。


「あぁ……もう、あのワガママ娘。連れて帰ったらさすがに一回くらい怒らないと駄目よね。うん、死んだら元も子もないんだから」


 ていうか、なんでこんなにあたしもイライラしてるんだろう。

 そんなことを思いながら地面を見た時に、少しへこんでいる部分を見つけた。

 よく見ないとわかりにくいけど紛れもなく人の足跡だ。リリアちゃんがどんな靴履いてたかまでは把握してないけど、他にそれらしい痕跡は存在しない。


「とにかく、追ってみましょうか」


 あたしは目を凝らしつつその足跡を辿ってさらに森の奥へと足を進めた。

 気づけば当たりは暗くなってしまっている。さすがのあたしでも暗闇の中が見える夜目までは持っていない。


「帰り道はどうにかわかるけど……リリアちゃーん!!」


 聞こえた所で返事してくれる保証はない。むしろ、魔物や動物に居場所を知らせることになる。

 ここまで奥へ来るとあたしを知らないような個体も多くて、安全は保証できなくなってきた。

 そんな風に木を手で触ってぶつからないようにしながら進んでいるときだった。足に木の枝や石とは違う何かが当たる。


「うん……?」


 あたしはそれを手にとった。木の枝かなにかに引っかかって切れた感じの布切れだ。

 さすがに小さすぎて、リリアちゃんが着ていた服なのかどうかはわからない。


「こっちにきたの?」


 それが誰かはわからない。でも、手がかりがこれしかないなら行くしかない。

 なんか目的があるかないかって大事だなとか思う。魔王を倒すとか街を救うだとかの理由があるだけでも動きやすいんだな。


「ったく、こんなにあたしの事振り回してるのは魔王以外じゃ初めてよ」


 魔王はあたしの人生的に振り回してたってことだけど。

 再び道があやふやになってきた所で、どちらへ進むか考え始めたときだった。

 枝を折りながら何かが進んでくる音が聞こえる。咄嗟にそっちを振り向くと熊が走っていた。

 ただ、様子がおかしい。この距離なら確実にあたしの存在には気がついているはずなのに、そのまま木々の間を強引に進んで通り過ぎていく。まるで何かから逃げるように。

 そして熊があたしの横を通り過ぎる瞬間に一瞬何かが月明かりを反射させて光った。よく見れば体にナイフが刺さってる。


「あれって、うちにあったナイフじゃ……リリアちゃんがやったんじゃ!」


 でも、ナイフだけで熊が逃げるとは考えられない。ということは熊よりもやばい何かが現れて逃げてきた。

 あたしの足はいつの間にか熊がやってきた方向へと走り出していた。

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