71. 3日目・サボりはGMコールです
「お客さんも来てるし、試合も気になるから見たいんだけど。」
「試合?あんなパッとしない画の弱い試合なんて見ても面白くないのよ!」
酷い言いようだ。皆、優勝目指して頑張っているはずなのに。
「そもそもなんでここにいるんだよ?」
「サボ......意味不明に愚息が失格とか面白い事件を起こしてくれちゃったから予定が大幅に狂ったのよ。」
サボりか。GMコールしてやろうかな。喜んで運営の人達がこの人を回収しに来そうだね。目の前で僕の事を軽く弄りながら仕事の愚痴を垂れ流しているのは、イベントで運営としての仕事をしているはずのマイマザーだ。
マイマザーは、唐突にお店にやって来た。お昼寝タイムを終了して一人で二階から降りてきたミューちゃんへ改めてエンリさんを紹介して、そろそろ二回戦かなーと思ったところで敷地内へマイマザーが駆け込んできたのだ。そして、見つけられた僕は強制的に引き摺られて行かれてしまった。
休憩スペースの端にあるテーブルに無理矢理連行されてからもうすぐ一時間くらいたつ。
2回戦の試合も順調に進み残すところ後2試合、気付けば半分の試合が終わっていた。
マイマザーの愚痴を聞きながらも、モニターから流れてくる音を聞く限りではアクトは準決勝に進んだようだ。
「なんで僕が失格になったか知ってる?」
「一応ね。想定外の超過ダメージによる計測器の破壊。結果としては測定不能、そんで失格。やり過ぎなのよ!知ってる?アレが壊れたから緊急会議したんだからね。モカちゃんのお店の朝ごはん食べられなかったんだから。」
やり過ぎもなにも、壊れないように作ってると思うよね。でも、あの時は本気で壊すつもりだったけどね。イラッとしたから、後悔はしてないよ。
「破壊しようと思って攻撃したけど。ああいうのって普通は壊れないでしょ。」
「出来ないのよ、破壊不能とかは。限りなく頑丈には出来るんだけどね。やろうとしてもΩが拒否してデータを別物に書き換えるのよ。破壊不能の物なんてあり得ないって判断なんでしょうけどね。」
なるほど、そうなると皆がよく話しているダンジョンの壁なんかも壊せたりするのかな?壁抜きや床抜きによるショートカットが実現できるかもしれない。
こんな感じの話をもう一時間。話すのは別に構わないけど、エンリさんの視線が痛い。
「店員さーーん!おかわりーー!さっきと同じのでーー!!」
さらにこれだ、もう三回目のおかわり。エンリさんの視線が凄く痛い。サボってるんじゃないんだよ。ここで逃げたら間違いなく凄く面倒なことになるって解ってるからこの人を一人に出来ないだけなんだよ。
「みゅ~~、おまたせしました~。ぴーちじゅーすです。」
ミューちゃんがトレイにジュースの入ったコップをのせて運んできてくれた。
「ありがとーー!うーーー!!可愛いわねーー!チップあげちゃう!」
マイマザーがミューちゃんに見たこともない硬貨を渡した。
「ふぁ~、きれい~。」
薄く透けて見えるけど少し光を放っている硬貨だ。どう見ても普通のものには見えない。
「なにそれ?おもちゃ?」
「ふっ、貧乏人ね。これは聖貨よ。」
喧嘩を売られたのかな?聖貨なんて始めて見たけど。
「始めて見たんだけど、価値は?」
「一億相当。」
馬鹿なんじゃないの?チップでそんな額を渡すなよ!
「ミューちゃん、僕はもう少しこの人とお話があるからエンリさんのお手伝いしてもらってもいいかな。」
文句を言う前にミューちゃんを遠ざけないといけない。
「はーい。」
ミューちゃんは、カウンターの方へ走っていった。
「まぁ、チップの事は置いといて。さっきから何回か聞いてるけど、ミューちゃんって母さんの仕業だよね?」
この質問はこの一時間で5回くらいはしている。
「さっきから言ってるでしょ。私からは何も言えないって。そうね、ちゃんと許可は取ってるって事だけ教えといてあげる。」
これだ。詳しくは教えられないのだろう。プライバシー契約か何か有るのかもしれない。
「ばあちゃんがミューちゃんに興味津々だったよ。」
「それね、昨日捕まったわよ。」
ちゃんと捕まえていたらしい。あの後お店に来なかったのはじいちゃんの捜索に時間がかかったからかな?
「で?」
「で、ってじゃないわよ。うちの子にするって言い出したからお父さんと説明と説得するのにどんだけ時間がかかったと思ってるのよ。」
そこまで気に入っていたのか。それに、じいちゃんも捕まっていたようだ。
「そうなんだ。まぁ、お疲れ様。って言えないよね。ばあちゃんがそこまで言ったのって....」
「あーあー!解ってるなら言わないで。」
はぁーー、やっぱりそういうことなんだね。
「契約とかそんな感じのがあるから言えないんだろうけど、あの姿は卑怯だよ。」
ミューちゃんの見た目だ。小さい頃のモカさんにそっくりなのもあるけどもう一つだけ見逃せない特徴がある。
「ネタバレになるから私からは何も言えないわよ。でも、ちゃんと許可は取ってるんだからね。」
許可ね、頭に片方はが抜けてるよね。
ここで追及しても絶対に喋らないだろうし、秘密のポエムで脅してもこの感じだと無駄だと思う。
「わかったよ。ミューちゃんに関してはいずれ話してもらうとするよ。それに、そろそろ仕事に戻らないと従業員からの視線が痛いからね。」
そう言って僕は席を立つ。
「ゆっくりしていってよ。あっ!騒いだらGMコールするからね。」
ちゃんと釘を刺すのも忘れない。騒いだら即GMコールだ。
「はいはい。付き合わせて悪かったわね。」
やっと解放された。
マイマザーの反応で大体の事は解ったけどあくまでも推測だ。しかも、これが当たっていたらと考えると....やめよう、なんだか怖くなってきた。
「やっと戻ってきた。セートーくーんー。お姉さんとミューちゃんだけに働かせるなんて酷いよー。」
お店のカウンターに戻ってきた僕にエンリさんが笑っているけど目が笑っていない顔で文句を言ってきた。
「すいません。迷惑をお掛けしました。」
ちゃんと謝る。僕が悪いわけではないけど、お店を任せていたのには変わらないからね。
「もー。次、同じことしたらお姉さん怒るからねー。」
流石にもう無理矢理連行される事はないと思いたい。
「ミューちゃんもごめんね。」
「いいよー。みゅーもおてつだいできてたのしかったから。」
いい子だ。ナデナデしよう。
「みゅ~。えへへ~。」
「そういえば、コトは起きてきましたか?」
気になったのでエンリさんへ質問してみた。
「あら?そういえば、見てないかなー。」
........ちょうどいいからマイマザーにマイシスターを引き取ってもらおうかなって思ったけど、ミューちゃんの嬉しそうな顔を思い出して今回は見逃してやることにした。
マイシスターよ、ミューちゃんに感謝しろよ。そして、起きてお店を手伝え。
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