70. 3日目・1回戦終了

五試合目から七試合目までの三試合はそこまで見所のない試合だった。


エンリさんやプリステラさんが言うには「有名だけどパッとしない。強いけど派手さがない。」人達の試合だったみたいで、試合内容もそんな感じだった。堅実で基本に忠実だけど見た目的に盛り上がりに欠ける、そんな感じの試合が三試合続いた。



そんなこんなで迎えた第八試合。


「..........猫?ですかね?」


「...んーー、虎かな?尻尾がしましまだし。」


「虎の獣人?......でも......あれ?」


試合が始まって早々にクラスメイトであるV3のローブが燃やされて、その姿が露になった。


V3はオープ君の予想通り種族の変更に成功していたみたいだ。


虎耳に虎尻尾、男が付けているのを見ても可愛くない。正直ちょっとゲンナリだよ。


そんなV3は、燃やされたローブの汚れで全体が軽く煤けていてちょっと小汚い感じが否めない。格好が付かないのが彼らしいというかなんというか。


「うわーー。これはV3君の圧勝かな。」


「どうしてですか?」


「V3の対戦相手は近接も出来るけど魔法がメイン。獣人は種族でステータスが偏る。虎はSTRとSPDが異常に高くてINTとMNDが低い種族。」


虎の獣人は脳筋らしい。


「なるほど、詠唱時間がとれないんですね。」


試合を観ていてわかったけど、移動しながら魔法の詠唱をしている人はいなかった。足を止めないと詠唱出来ないのかな?


「正解ー。魔法の詠唱してたら攻撃されて終わりだよー。」


『圧勝だーーー!1回戦第八試合勝者はサプライズで闘技場を湧かせたT仮面V3だーーー!』


お二人の話を聞いている内に決着がついたみたいだ。


「最初のローブが燃やされたフレイムランスってわざとですよね?」


「わざとだろうねー。」


「試合の動きを観ていてもわかる。あれは避けれたし、発動前に潰せたはず。」


V3、バレバレだよ。



『えー、と、次の段取りはーーと、は?切れてない?.......なにが?え?........あっ!ゴホンっ!!2回戦は1時間後からよ、それまでは自由にくつろいでちょうだい。』


「わざとらしい。」


「あれも、わざとですか?」


「うーん。男性にはわからないと思うけど、間違いないよ。」


...........アイドルも大変だね。




なにしようかなー。1時間後まで特にやることないし、そういえばクラスメイトがまだ来てない。まぁ、その内来るかなー。取り敢えずカウンターの中でお客さんが来るのを待つとしよう。


と、呑気なことを考えているとプリステラさんが近づいてきた。


「ちょっと気になることがある。V3の種族がただの虎の獣人とは違うかも。」


え?違うの?獣人を来賓紹介の時の王子様とお姫様以外見てないから違いがわからないよ。


「少し調べる。その間、話し掛けないで。」


「あ、はい。」


僕では戦力にもならないのでそっとしておこう。



「すみませーん。」


「あっ!はーい。直ぐに行きます。」


2回戦までの合間でお客さんが少し増えてきた。今もカウンターを少し離れて、お昼寝タイム継続中のミューちゃんの様子を見ていたらお客さんに呼ばれてしまった。


「パインとバナナですね、では銀貨二枚になります。」


休憩スペースもそこそこ賑わいだしてきた。これ以上忙しくなることはないと思うけど、念のためミューちゃんを二階の部屋でちゃんと寝かせておこう。


「おーい、コト。」


ミューちゃんの側から離れる気配の無いマイシスターへ声を掛ける。


「.......どうしたの?......」


ちょっと不機嫌だ。


「少し騒がしくなってきたから、ミューちゃんを二階に運んでちゃんと寝かせてくれないかな?」


「.......わかった...一緒に寝る...」


上機嫌だ。少しだけ声が弾んでいる。


「はいはい。お客さんが引いたら起こしにいくからゆっくり休んでなよ。」


マイシスターはミューちゃんを優しく抱き抱え二階へ消えていった。




「セトくーん。コップ回収してきたよー。」


「ありがとうございます。返金の方は?」


「バッチリだよ。」


エンリさんは事前の言葉通りお店の手伝いをしてくれている。


「そういえば、【森の兎】の人達は何人か来ましたけど【千輪花】の人達は一人も来てないですね。」


お礼として無料で提供するのだから遠慮なく来て欲しいんだけど。


「クランとしての依頼を遂行中なんだよ。」


「そうなんですか、エンリさんはいかなくてもいいんですか?」


「ん?私も仕事中だよー。セト君の見張りをしないとね。」


........目が笑ってない。本気の答えみたいだ。


「僕に見張りをする価値なんて無いですよ、LV1ですよ。」


さて、どう出るかな?


「テンリちゃんの絶対に敵対しないって言葉だけで警戒対象だよ。だから、お姉さんが見張るの。」


表面上はニコニコしてるけど内心は警戒心MAXだったみたいだ。なにかやる気なんて全く無いのに、見張るだけ時間の無駄だよ。


「なにもしませんよ、というよりは出来ませんよ。ここから出れないんですから。それに、ミューちゃんがいるのになにかする訳ないじゃないですか。」


「お姉さんもそう思うよ。でもね、【殺人姫】がいるだけでアウトなの。だからイベント期間中はここにいるからね。よろしく店長。」


マイシスターの日頃の行いのせいでした。これはどうしようもない。


「バイト代は出せませんよ。」


イベントの制限に引っ掛かるからね。


「ミューちゃんを愛でさせてくれるだけでいいよー。」


はぁーーー。まぁ、なるようになるよね。


ミューちゃんが起きたら店員さんとして改めて紹介しないとね。







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