53. 2日目・お帰りとはじめまして

お昼に差し掛かる少し前に、ミューちゃんがばあちゃんに手を引かれて帰ってきた。


「みゅ~~。ただいま~。ぎゅー。」


ミューちゃんは、僕を見つけると走って駆け寄ってきて抱きついてきた。可愛いのでナデナデしよう。


「お帰り、楽しかった?」


「えへへ~。うん!おじいちゃんとおばあちゃんたちからいろんなものもらったの。」


気持ち良さそうに目を細めながら、楽しげに少し不安になる言葉が帰ってきた。


「そっかー。あとで見せてね。」


「わかった~。」


すぐに処理できそうにないので先送りにしよう。出来ればアイランドタートルに戻るまで先送りにしたい。


「ばあちゃん、遅かったね。もうちょっと早く来るかと思ってたけど。」


「すみません。ミューさんの反応が楽しかったのか皆が興奮していたので、なかなか連れて帰ることができませんでした。」


頭を下げるばあちゃん、この人は自分に非があると思うと例え孫であろうともちゃんと謝罪する、出来た人間なのだ。


ミューちゃんの反応が楽しくて、色々見せて諸々プレゼントしたのだろう。すごいすごいと誉められて、ニヤニヤしながらプレゼントするおじいちゃんおばあちゃんの職人さんの絵が鮮明に浮かぶよ。


「ね、ねぇ、その子が」


休憩スペースで待っていたメープルさんが我慢できなくなってきたのかな。ゆっくりと僕たちに近づきながら言葉をかけてきた。


「みゅ?おねいさんだ~れ?」


声に反応したミューちゃんが僕に抱きついたままメープルさんを見て質問した。


「はぅ!な、なんて破壊力なの、耐えるの、耐えるのよメープル。」


おお!自分自身を鼓舞して崩れ落ちるのを踏みとどまったぞ。顔がニヤけてるから格好はつかないけどね。


「おねいさん?だいじょうぶ?」


あっ!ミューちゃんがなんとか耐えてるメープルさんへ近づいて、下から顔を覗き込みながら追撃を放ってしまった。


「おっふ!」


ああ、メープルさんはミューちゃんに討ち取られてしまった。


「ミューちゃん、そのお姉さんは少し疲れてるだけだからこっちにおいで。」


「みゅー?わかったー。」


またピッタリくっついてきたのでナデナデを再開する。


「えへへ~。」


「では、私はこれで失礼します。」


あら?もう少しゆっくりとするかと思ってたけど。


「もう少しゆっくりしてったら?」


「いえ、あの人と清音さんを捕まえにいかなければなりませんので。」


じいちゃん何したの?マイマザーはミューちゃんの事だろうけど。


「わかったよ。時間があったらまた来てよ。」


「ええ、問題が片付いたら、また来店させてもらいます。そちらで倒れてる方にも宜しくお伝えください。」


流石ばあちゃんだ、今のところ不審者にしか見えないメープルさんへの気遣いも忘れない。


「おばあちゃん、ばいば~い。」


「ミューさん、セトさん、あの人達が来たら捕まえておいてください。では、また。」


捕獲指令と短く別れの挨拶をしてばあちゃんは、狩りに行ってしまった。


さてと、メープルさんの蘇生をしなければ。


「ミューちゃん、2階にきんと、ぐーを置いておいで。」


「はーい。」


タターとミューちゃんはお店の方へ走っていった。


「おーい。メープルさん、大丈夫?たてる?」


「え、ええ。なんとか、予想以上ね。あの子はヤバイわ。」


フラフラ立ち上がったメープルさんは、近くにある椅子に腰かけてしまった。ダメージが抜けきっていないのだろう。


「はは、お眼鏡にかなったみたいだね。」


「あと、あの綺麗なお姉さんは?和服美人なんて憧れるわ。」


何回も目の前で「ばあちゃん」って呼んでたはずだけど、聞こえてなかったのかな?


「ばあちゃんだよ。」


隠す必要もないし、その内【高齢者開始支援】のことは自然と広まるはずなので意地悪せずに本当のことを教えた。


「またまたー、そんなはずないでしょ。よくて親戚のお姉さんって感じよ。」


全然信じてないね。詳しく説明してあげよう。


「.....モカが憧れるのも理解できるわ。それに【高齢者開始支援】ねー。アバターだから見た目だけだと本当の年齢はわからないけど。お婆様は別格な気がするわね。」


ばあちゃんのファンが増えたよ。でもね、稽古中のあの人を知らないからそんなことが言えるんだよ。


「あっ!おねいさんおきたー。だいじょうぶ?」


ミューちゃんが戻ってきたみたいだ。さて、メープルさんは耐えれるかな?


「あっ、う、え、ええ、大丈夫よ。心配してくれてありがとう。」


ギリ耐えた!


「ミューちゃん、お姉さんに挨拶してね。」


ふふふ、我が女神の威光にもう一度倒れるといい。


「はじめまして、みゅーだよー。みゅーってよんでね。」


ニコッと笑いながら自己紹介


「はふん。.......きゃわいい...」


弱いか、討ち取るには至らなかった。ならば追撃だ。


「お姉さんが、少し寒いみたいだからギューってしてあげようか。」


「みゅ?おねいさん、だいじょうぶ?」


椅子に座って半分放心状態のメープルさんの背中にミューちゃんがギューっと抱きついた。


「...............セトくん、ミューちゃんの為なら何でもするわ。」


しまった。やり過ぎてダメージが反転して癒しに変わったみたいだ。


「おねいさん、もうだいじょうぶ?」


「大丈夫よ、ありがとう。私はメープルよ。よろしくね。」


ミューちゃんへの耐性がついたのか、やっと普通に話せるようになったようだ。


「めーちゃんってよぶね。よろしくね、めーちゃん。」


ミューちゃんの今日一番の笑顔


「あぁ!.....」


バタン!


メープルさんはテーブルの上に勢いよく倒れこんだ。ミューちゃんの笑顔は耐性を貫いたようだ。


「ミューちゃん、お姉さん眠たいみたいだからそっとしておこうね。こっちでジュースでも飲んで起きるの待ってようか。」


次に回復したら、もう大丈夫だと思う。これ以上はこっちが大変だよ。


「ぴーちのみたい。」


「今用意するからね。ちょっと待ってて。」


クラスの女子にミューちゃんを紹介するの早まったかな。メープルさんでこれだと例の3人だとどうなるか想像できないぞ。


奥の手を使わなければならないかもしれない。準備だけはしておこう。



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