清音とお母さん

「よし、あとは【鬼】と、【妖怪】の説得かー。やる気でないわー。」


生意気な息子で遊んでいたいけど、仕事もしないといけない。それに今回は息子からの提案で決まった仕事だし、イベントに間に合わせたいという私欲もある。できれば【妖怪】が大勢の観衆の前でボコボコにされるのを見たい。


「薫ちゃーん、今日は外出したあとそのままあがるから、あとよろしくねー。」


最近のお気に入りの薫ちゃんにあとを任せ会社から目的の場所へ向かうとしよう。


「えっ、清音さん。何処にいくんですか?外出予定無かったですよね?」


薫ちゃんは、真面目すぎるよ。眉間に皺が出来て可愛いお顔が台無しになっちゃうぞ。まっ、その原因の大半は私なんだけどねー。


「今回のイベントのサプライズを用意するのだ。ってことで、さらばだ。」


「さらばだって、清音さん、もういないし。」





うーん、子供の頃から見慣れた玄関、木造平屋の趣のある建築様式。離れに道場もあるよ。そう、私は我が家に帰ってきた!!


さて、どちらから説得しよう。【鬼】から懐柔するのがベターかな?【妖怪】は【鬼】が折れれば付いてくるだろう。


この時間なら、【鬼】は道場にいるはずだ。ちょっと様子を伺ってみよう。


道場の扉に手をかけると、


「清音さん、そこにいますね。仕事をしている時間のはずですが、理由を聞きましょう。入りなさい。」


ばれてーら。【鬼】に冗談は通じないので素直に要点をストレートに伝えるのが会話のポイントなのだ。


「失礼します。お母さん、今日は仕事の事で話があって帰ってきたの。」


道場に入り、中央で正座をしている母に用件を伝える。うーん、我が母ながら凛とした姿が絵になる。


「詳しく聞きましょう。座りなさい。」


言われた通り、対面に座る。正座なんてここ最近していないので座った瞬間から少し足が痛い。


「お母さん、清一と琴音がやっているゲームの事は知ってる?」


「ええ、椅子に座ってやる、仮想現実がどうのというやつのことですね。」


ふんわりと知っているくらいかな?


「そう、それ。私と玄一さんが働いている会社で作ってるゲームをやってるんだけど、お母さんにもやってほしくて。」


「清音さんは私がゲームが苦手なのを知っているはずですが。」


あー。そうだった、器用な筈なのにゲームは苦手なんだよね。だけどそれはレトロゲームの話し、VRゲームを体験させた方が話が早いかも。


「お母さん、なにも聞かずに少しだけ付き合ってもらってもいい。絶対後悔させないから。」


「構いませんが、どこかいくのですか?」


「私の部屋。」


こんなこともあろうかとダイブ機器は用意してある。愛する夫の玄一さんカスタム使用だ。母のアバターは既に作成済みなのだ。娘の私から見ても若いときの母は贔屓目なしに美人だ。今も全然綺麗だけどね。


厳しい印象を与えるが母はなんだかんだ言っても優しい。【妖怪】は母が堕ちれば簡単に墜ちる。母の言葉に父が逆らえる筈がない。


半ば無理やり母をダイブ機に押し込んで2時間後


「こういうのもたまにはいいですね。現実とは違いますが面白いと思います。」


よしっ!いい感触。チュートリアルをクリアして最初の町を少し散策してモンスター相手に戦闘してもらった。最初は、渋々といった感じが強かったけど最後には結構ノリノリだったと思う。私は全力でサポートに回った。うん、向いてない、もう二度としない.....とも言ってられない、この企画が軌道に乗るまでの我慢だ。


「楽しんでもらえたようでよかったよ。で、本題なんだけど、清一、琴音と本気で戦ってみたくない?」


「......なるほど、そういうことですか。」


感が鋭くて助かります。


「どうかな?」


「いいでしょう。今回は清音さんの話に乗せられてあげます。」


「ありがとう、お母さん。あとね、お父さんの説得にも協力してもらってもいいかな?」


「ふふ、娘の頼みです。楽しい思いをさせてくれたお礼です。構いませんよ。あと、私の暇をしている知り合いにも声を掛けておきましょう。そういう人が必要なのでしょう?」


本当に感が鋭くてらっしゃる。助かります。


「はは、お見通しだね。うん、助かります。また詳しいことは人が揃ったら話すから。」


はぁーーーー。なんとかなった。息子で遊ぶために母こと【鬼】、父こと【妖怪】は絶対にいてくれた方が面白い。特に【妖怪】は個人的に醜態をさらす姿が見たいというのもある。


お母さん本当にありがとう。ふふふ、息子よ娘よ、本気のお母さんを用意してあげるから楽しみにしてなさい。

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