38. 悩んだときはシンプルに

次の日、ログインするとミューちゃんがベッドのなかにいた。


ここだけ切り取られてマイマザーに覗かれると下手したら通報されるのではないだろうか?もちろんなにもしていないし、ベッドに寝てログアウトするときに一人だったのも覚えている。


「おーい、ミューちゃん起きて。」


「.......みゅー、すー....すー。」


駄目だ。起きる気配がない。無理に起こして不機嫌になってもしょうがないのでお姫様抱っこで連れていこう。


リビングに入るといつもの定位置に主様とお猿達がいたのでどうなってこうなったのか聞いてみよう。


「主様、おはようございます。ミューちゃんが僕の部屋で寝ていたのですが。なにかご存じですか?」


『おはようございます。そうですね.......少し気になることがあるのでコングから渡された棒を見せてください。』


【黒い棒】を見せろとな?まぁ、いいけど。何か関係があるのかな?


ミューちゃんを椅子に座るような形になるようにそっと置いて、黒い棒を主様に見せる。


『......やはり、そういうことですか。』


「?」


一人で納得されても....こちらにも教えてください!


「何か分かったのですか?」


『ええ。この棒はミュー様によって作られたものです。コングからも聞いたかもしれませんが詳細は我々にも解りません。ですが、今はセトの余剰分の生命力や魔力がその棒を通じてミュー様に流れているのが見えます。』


自然回復で溢れたものがミューちゃんに流れているのか、ミューちゃんが作ったってことはこの黒い棒は神器とかそんな感じの物なのかもそれない。


『セトにだけミュー様のお姿が見えたのもその棒を通じて繋がりがあったからなのかもしれません。その後、セトが使徒になることによってミュー様のお力が少し増したことにより我々にも認識出来るようになったのではないのでしょうか。』


なるほど、僕にだけ見えたのはそういうことなのか。


「僕の部屋にいたのはなぜなのでしょうか?」


話が脱線しかけたので最初の質問をもう一度してみた。


『そうでしたね。「お兄ちゃんと一緒に寝る。」と言って部屋に入って行きましたよ。セトから流れてくる力がミュー様を引き付けているのかもしれませんね。』


幼女ホイホイかよ、何か対策を考えないとマイマザーに絶対にネタにされる。それにクラスの皆に露見すると変な噂があっという間に学園中に拡散してしまう。


プレイヤーのログアウト用の部屋はお猿達でさえ入れないのにミューちゃんは簡単に入ってきた。さすがは女神と言ったところなのだろう。


「.....すー.....すー....みゅー......」


まだ気持ち良さそうに寝てるので、こっちの用事を済ませてしまおう。


取引板で必要なものを買っていく。普通の板、ノコギリ、塗料、筆、はけ、釘、ハンマーだ、これから看板を作っていくのだ。


作業の音でミューちゃんを起こしてもいけないので外の広場で看板作りをすることにした。


一番大事なのは、店名だ。名前が決まらないことにはデザインも出来ない。


「うーん、どうしようかな?」


「キャー?」


首を捻って悩んでいると、僕についてきたお猿も同じ動きをした。かわいいので、モフモフしてやろう。


モフモフ、モフモフ、モッフモッフ......はっ!本来の目的を忘れるところだった。


うん。時間をかけても仕方ない、それだけ作業も遅れるし、シンプルにいこう。


板を数枚並べて大まかなデザインと大きさを決める。次に筆で下書きを描いていく。下書きが出来たら、板の不要な部分をノコギリで切って落とす。板と板を繋げるために繋ぎ目に裏板を当てて釘で固定する。最後にはけを使って塗料でいい感じに色を塗れば完成だ。


「よし、出来たね。」


「キャー。」


「はは、そうだね。君達がモチーフの看板だよ。」


そう、デザインはシンプルにマジカルモンキーを採用した。見本が近くにあるので描きやすかったのもある。


「みゅ~~。おにいちゃん、おはよ~。」


目元を擦りながらまだ眠そうなミューちゃんがログハウスから出てきた。


「おはよう。まだ眠そうだね。」


「みゅ~。だいじょうぶ~。なにしてるの~。」


「お祭りでやるお店の準備で、看板を作ったんだ。」


「お~、もんちゃんだ~。」


マジカルモンキーだから、【もんちゃん】なんだろう。主様のことも【あいちゃん】って呼んでたし。


「.....おさるの....のみもの?」


「あまり時間もないからね、この子達を見てその名前にしたんだ。」 


お店の名前は【お猿の飲み物】捻りもなくストレートなネーミングにしてみた。デザインもマジカルモンキーなので無難な仕上がりになったと思う。


「みゅーもおみせてつだう。」


「ありがとう。一緒に頑張ろうね。」


ミューちゃんのフワフワの髪に手をのせ撫でながら言葉を返した。


「みゅ~。がんばる~。」




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