第2話 一つ年下の幼馴染は策士な件

「彼氏さんはとっても変わり者なので、いつも困りますよ」


 どこか、嬉しそうな、でも、諦めたような声が返ってきた。


「そっか。大変だね、愛も」


 今回期待していた助っ人である、茅葺愛かやぶきあい

 童顔で少し幼児体型な事を気にしている21歳。

 今回、来てくれたメンバー唯一の彼氏持ちで一つ年下の幼馴染。


新太しんた先輩こそお疲れ様です」


 どこか不満そうな目で見つめてくる愛。


「上がって、上がって。人志ひとしこずえはもう来てるから」


 彼女が来なくては、今回の計画は始まらないのだ。

 話が盛り上がる前に来てくれて、本当に助かった。


 彼女曰く「大阪弁と敬語をミックスすると面倒くさいんですよ」

 ということで、僕らと話すときは、だいたい標準語だ。

 僕もその気持ちはとてもわかるけど。発音が難しいんだよね。


「愛ちゃん、久しぶり」

「お久しぶりです、人志先輩、梢先輩」


 ペコリと礼儀正しくお辞儀をすると、ポニーテールがぴょこんと跳ねる。

 背中まで伸ばした黒髪をまとめたポニーテールが彼女のトレードマーク。


「とにかく、愛ちゃんも一緒に、新太の帰郷に、カンパーイ!」

「カンパーイ!」


 イエーイとでもいいそうなノリの良さで、グラスをちんと鳴らす愛。

 彼女は、控えめで礼儀正しいという第一印象を持たれることが多い。

 でも、仲間内になると、こういうノリの良さもある。

 一瞬、俯いたかと思えば、タタタッと凄い速度で画面をタップした後に、


【新太先輩。人志先輩と梢先輩をくっつける計画の進捗は?】


 そんなメッセージが届いていた。


【話の切り出し方で迷ってるところ】

【まあ、そんなところですよね。いい案はあるんですか?】

【夜風に当たってくる、と言って二人きりにする案を考えてるんだけど】


 奥手な二人でも、この場面で二人きりになれば話が進むだろうという策だ。


【新太先輩は、そういうところ、おおざっぱ過ぎますよ】

【そうかな?悪くないと思うんだけど】

【そんな事しても、お二人が気まずい空気になるだけです!】


 一理ある。これまで4年間、進展がなかったわけだし。


【だとすると、あのネタを使うしかないんだけど】


 出来れば、最終手段にしたい。


【とりあえず、私から様子見で仕掛けてみます】

【頼んだ。適当に援護射撃するから】

【新太先輩は、援護爆撃にならないように注意してくださいね?】


 じろりと、鋭い目線で見据えられる。僕、信用ない?


【とにかく、そういう方向で】

【と、あまりメッセージやりとりしてると怪しまれますよ】


 その返しに、周りの様子を見ると、


「ん?新太、誰かとメッセージしとるんか?もしかして、彼女か?」


 赤ら顔の人志が首を突っ込んできた。

 しかし、これはチャンスかもしれない。


「さーて、どうかなー。彼女だって言ったらどうする?」


 そう返しつつ、二人の出方を伺う。


【ノリノリですね。こういう事になると、本当に生き生きするんですから】


 と、愛から、何か諦めたようなメッセージが届いた。

 ちらっと彼女の方を見ると、やれやれといった顔だ。


「ふん。新太の癖に、よーいいよるわ」

「僕の癖にとは随分な言いようだね」

「そこは流すとこな。俺たちの仲やろ。紹介してもらいたいもんやな」

「私も、新ちゃんの彼女、紹介して欲しいわー」


 息ピッタリの二人。


「交換条件でどう?人志と梢が好きな人を教えてくれたら、僕も紹介するよ」


 さーて、どう来るかな、と。

 二人を見ると、微妙にお互いの方を見て、落ち着かない様子だ。


「新太。東京に居る間に意地悪くなったんちゃうか?」


 髪をガリガリとかきながら、話をそらしにかかる人志。

 彼が動揺した時の癖だ。


「やよね。新ちゃんも意地悪いことしてくれるもんや」


 顎の辺りをぺたぺたとしながら、やっぱり話をそらしにかかる梢。

 彼女が動揺した時の癖だ。

 二人して、話を有耶無耶にしてしまおうということだろう。

 しかし、そうは問屋が降ろさない。


「まあまあ、落ち着いてください」


 よし。ナイスプレーだ、愛。サムズアップをすると、

 本題に集中してください、とばかりにアイコンタクトを送られる。


「ちゅうてもやな、そこら辺はいくら俺でもちょっとな……」

「同じく」


 二人とも、なんとも息があったことで。

  

「でも、私も人志先輩と梢先輩の好きな人、興味ありますね」


 愛は身体を乗り出して、興味津々といった体だ。

 そして、目をキラキラ輝かせている。演技派だ。


「ちょ。愛ちゃんまで、ほんま、勘弁してや」

「そうそう。愛ちゃんがそんな悪い子に育ったなんて……」


 愛からの攻撃には慣れていない二人は、たじたじだ。


「とにかく、しゃべるつもりはないと。じゃあ、私が当てて見せますね」


 自信満々といった表情だ。この流れなら、最終兵器は温存出来そう?


「あ、当てて、って、愛ちゃんがわかるわけないやろ」

「そ、そやそや。な?」


 動揺し過ぎたせいか、お互いに見つめ合っている二人。

 そうそう。そう来なくちゃ。


「いーえ、わかりますよー。バレバレですよー」

 

 なんか、愛もだんだん楽しくなって来たらしい。悪い子だ。


「ずばり、梢先輩は人志先輩の事が、人志先輩は、梢先輩の事が好きですね!」


 ドーンという効果音がしそうな勢いで、二人を指して、言い切った。

 頑張った、愛。僕はなんにもしてないけど。


 ともあれ、二人がどう出るかだ。

 二人はお互いを見つめって、出方を伺っているように見える。


「……うーん」

「……ええと」


 ここまで焚き付けられて、まだこの反応か。ええい、焦れったい。

 もう、最終兵器、投下。


「もう諦めなよ。僕は、二人から聞いてるんだよ?」

「「え?」」


 綺麗に、人志と梢の二人の声がハモった。

 もう、強引にでも素直になってもらおう。


「梢が人志のこと好きなことも。人志が梢の事を好きなことも、知ってるってこと」


 秘密にするという約束を破ったけど、このためなら許されるよね。

 

「ちょ、おまえ。それ、秘密にする約束やったやろ!」

「そうそう。新ちゃん、意地悪いよー!」


 二人からの非難。まあ、そこは諦めて受け入れよう。


「とにかく、これで両想いなことはわかったでしょ?」


 本当は、もうちょっと穏当な手段を使いたかったけど。


「新太先輩……やっぱり、こうなるだろうなって思ってましたよ」


 後ろでツッコミを入れている愛の事は気にしない。

 ともあれ、これで、後は二人に任せればOKだろう。


「じゃ、僕は夜風に当たってくるから」

「あ、私も夜風に当たりたくなりました」


 凄まじくわざとらしい。


「ふぅ。新太。礼は言っとくな」

「私も。ありがとな」


 二人して、礼を言われる。

 こんな手段を取ったというのに、ほんといい奴らだと思う。

 超奥手だったけど。


「2時間くらい、外に行ってるから。好きなだけいちゃついてよ」

「新太先輩も意地悪な事言いますね……」


 これであとは二人がなんとかやってくれるだろう。

 どこか晴れ晴れとした気分になりながら、外に出て歩き出す。


「ま、とにかくこれで、ミッションコンプリート、か」

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