第12話 鬼四大童子

(一)

 4人で村人の死体を集め埋葬した。じいさんは見ているだけ、使えねえなまったく…怒るよ僕でも。

「女子供の死体はないな…やはり連れていかれたか。」

 ええっ、相手は熊の群れでしょうに…

「酒呑童子の家来・四童子に熊童子という鬼がおる。四童子の主座とされる鬼で、角はあるが姿は熊そのもの、そして熊どもを卷属として率いておる。他の熊がこんなに群れなすのはおかしい。この村は熊童子に襲われたとみて、まず間違いなかろう。」

 綱さんの説明にじいさんがうなずきながら言う。

「女子供を連れてなら、いくら熊の群れでもまだそう遠くには行っておるまい。季武よ、陰陽の術でどこにいるか分からぬか?」

 ヤロウは神妙な顔で答えた。

「先ほどから、この辺りの森の精霊を探っておりますが、鬼の跳梁に騒然とするばかりで要領を得ませぬ。」

 綱さんが手分けして探そうと提案するが、さすがに分かれては危険だと却下された。

「むむむっ…。近くには居るだろうが、みすみす逃すことになるのか」

 どこにいるか分かればいいのか…何か方法は…うんっ!

「見つけられますよ…多分。」

 綱さんが驚いて詰めよってきた。

「今なんと、なんと言った!」

「…だから、僕なら見つけられますよ熊の群れ。多分ですけど…。」


(二)

 ぐぃーん

 ドローンが飛び上がると歓声が上がった。

「何じゃこれは…機械の鳥?」

「カッコいいぞ!これはどうやって操るんだ!おらもやりたい。」

 電波が1キロ以上届く自慢の高級ドローンだ。 

 コントローラーには高精度モニターが付いており、360度回転するカメラのズーム機能によって空中から下界の様子がつぶさにわかる。

「ほほう…これで鳥の視点で探せるのか。陰陽術の借目と同じよの。」

 けったくそわるい言い方…だったら、その何とか言う術を使ってみろや。

 北東の山道で何かが動いた。空中から近寄ってズーム。

「いた…いました!」

 熊の群れが数十名の女子供を囲んで進んでいく。最後方のひときわ大きな熊は、後足で立ち上がり周囲を警戒しながら進んでいる。他の熊と違い灰色がかった全身、頭頂の毛だけ銀色にキラキラ光って見えた。

「これは熊童子じゃな、間違いない。」

 金太郎は首を捻る。

「熊童子?似とる……どうも似とるな銀の奴に。」

 ヤロウが知ったようなことを言う。

「相手は酒呑童子家来の主座だぞ。お主の弟であろうはずがない、熊違いであろうよ…。」

 金太郎は納得しない。

「じゃが、この姿…どう見ても。」

 綱さんがイライラして言った。

「えーいっ、ここで論議しても始まらん。さっさと追うぞ鬼どもを…。」


(三)

 ぐるるるる…

熊童子の警告の唸りに、熊たちは一斉に後ろの大将のところへと集まった。みな後足で伸び上がり、鼻をひくつかせて警戒している。

 かっかっかっかっ

馬の蹄音が迫ってきた。

 ぐぉおおおおおおおお

 熊童子が吼えた。配下の熊たちも一斉に吠えて敵を威嚇する。

 一番に駆けつけた綱さんが、鬼斬丸を抜きながら馬を飛び降りる。次に、走り込んだ金太郎がまさかりを構える。

 ぎゃおおおおおおお

 配下の熊たちが襲いかかろうとするが身体が固まって動かない。木の背後からヤロウが緊縛の術をかけているのだ。卑怯な気がするけど…やるやん。

 しぱっ しぱっ しぱっ

 動かない熊たちの心臓辺りを、馬に乗ったままのじいさんが矢で射ぬいていく。卑怯で冷徹だが確実に敵を倒す。やっぱこの人怖いわ。

 ぐわぁああああああああああああああ

 次々に殺される配下を見て熊童子が怒りの叫びを上げる。そして全身に力を込めると徐々に前へ進みだした。

明らかに狙いは馬上のじいさんだ。

「馬鹿な!私の術が破れるとは…。」

 ヤロウが絶句している。…いい気味だ。

 しゅっ

 じいさんはさすがに百戦錬磨らしく、熊の親玉が突進してきても動揺せずに弓を放った。熊の親玉は飛んできた矢を蚊でも払うようにはね除ける。

「熊童子、お前の相手はこっちだ!」

 綱さんが太刀を構えて立ち塞がったが、不意に横から殴り倒された。

「!」

 倒れた綱さんの前には、金太郎が仁王立ちしていた。


(四)

「銀っ、おらだ!」

 金太郎はまさかりを投げ捨て熊の親玉の前に立った。

「あぶないっ!」

 僕は思わず声を上げた。親玉は鉤爪のある右の前足を振り上げると、おもいっきり金太郎へ振り下ろした。

 がっ

 金太郎は振り下ろされた右手を、熊と同じくらい太い左手で受け止めた。じっと見つめた熊の目は狂気に血走っている。

「銀っ、おらだ。金太郎だっ、わからねえのか!」

 ぐぉおおおおおお

 熊は一声吼えると今度は左手を振り下ろす。金太郎はそれも事も無げに右手で受け止めた。

 熊は全体重で金太郎を押し潰しにかかるが、金太郎も全身の力で押し返す。

「懐かしいなぁ、足柄山のばっちゃんの前でよくこうやって相撲をとったろう銀よ!」

 ぐぉおおおおおおお

「無駄だ!お前の弟だったかなんか知らんが、今のそいつは心のそこから鬼だ!」

 ヤロウが木の影から叫ぶ。知ったかぶりでいい格好すんじゃねえよまったく!

「違う、こいつは間違いなくおらの弟の銀だっ。足柄でお互いにこんな小さいころから一緒に育ったたった一人の弟だ!」

 金太郎は思い出せ、思い出せと言いながら熊と組み合っている。唸りを上げ続けていた熊の動きが心なしか鈍ってきたように見える。

「そうだ、銀よおらだ。思い出せ、金太郎だ。」

 気のせいか血走った目が和らいできたような…

「金太郎だ金太郎、なあ毎日こうやって相撲とったろ。」

 ぐるるる…

 なんとっ、熊の力が明らかに緩んできたぞ…。

 前足の力がだらんと抜ける。目も優しげな黒目になったような…

「銀っ、思い出したか?」

 ぐおっ…?

 おお、なんか奇跡起きた?

 ごぉおおおおおおおおおおおお

 突然、僕の前でつむじ風が起きた。

 まきおこる砂嵐に視界が遮られる。

 今度は何だよ!

 猛風に熊と金太郎が吹き飛ばされ、引き離された。

「銀っ!」

尻餅をついた金太郎の前に、いつか見た人狼が腕を組んで立って、その耳まで裂けた口でニヤリと笑った。

「狼童子っ!」

綱さんが太刀を振りかぶって斬りかかる。

ぶんっ…

剛力で振り下ろされた刃は虚しく空を切った。

砂嵐が濃くなり辺りの様子がわからない。

「気を付けろ!奴は素早くずる賢い…どんな手を使ってくるかわからんぞ!」

綱さんの声だけが周囲に響く。

砂嵐はしばらくして収まり視界も回復した。

辺りには数匹の熊の死体だけが残されており、再びドローンを飛ばしたが1キロ四方では何も見つからなかった。







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