⑬逃げる証拠、消えるアリバイ
一つ確認したいんだけど、とコンが俺に聞いてきた。
「あんた、昨日タバコ無くしてるでしょ?」
「え、なんで知ってるんだよ」
理由を言うでもなく、ただうんうん、と頷く。
「そう、そうでなきゃ説明がつかないからね。それでオーケーよ」
そのままコンは使用人室へと行き、机に突っ伏しているカエデに声をかけた。
「あらぁ、コンちゃん。さっきは変な態度とっちゃってごめんねぇ。私、クロハネの事が受け入れられなくてねぇ.......」
「大丈夫よ、その事なら気にしないで。それよりカエデ、倉庫の場所って二階のどこかしら」
ああ、それなら、とカエデは言った。
「二階に上がって、突き当たり右手の部屋よぉ。何か探し物かしらぁ?」
「ええ、そんなとこ。あともう一つ聞きたいんだけど」
「何かしらぁ?」
そう言って彼女は首を傾げた。
「この館ってお風呂はどこにあるの?」
「浴室なら二階の突き当たり左手、つまり倉庫の反対側ねぇ。お風呂入りたいのぉ?」
いや、と言ってコンはそれを否定した。
「その浴室って家の人全員が使うのかしら」
「そうよぉ、大体順番みたいなのが暗黙の了解で決まっててねぇ、その時間帯に皆入るのよぉ」
「大体でいいからその時間を紙に書いて教えて貰える?家人全員の。後質問ばかりで悪いんだけど、洗濯物はカエデがやるの?」
もちろん、と紙とペンを机の引き出しから取り出してカエデは筆を走らせた。
「洗濯物はねぇ、夜に使用人が全員分を部屋に回収しに行って翌日の朝に返す感じねぇ」
「じゃあまだ今日は回収してないのね」
「そうよぉ。あ、はい。出来たわよぉ」
ありがとう、と言って俺たちは使用人室を後にした。
「全員入るのは夕方の食事以降ね.......」
「それまで待った方がいいのか?」
「逆よ。入られたら困る」
入られたら困る、とはどういう事なのかさっぱり分からなかったが、とりあえず倉庫に行って証拠になるものを探すことになった。二階へと上がり、倉庫のドアを開く。広さは三畳程で決して広くはなく、むしろ狭いくらいだった。
「あったか?証拠になりそうなもの」
「今探してる、ってかあんたも探しなさいよ」
言われるがままに倉庫の棚の後ろを覗いたり下を見たりしていると、防草シートを結んでいるロープが不自然に黒ずんでいる事に気がついた。触った瞬間、異様な冷たさが指に伝った。
「冷たっ」
「え、何。どうしたの」
いや、これ.......とロープを指差す。コンもそのロープを触り、はっとしていた。
「一つ目はこれね、ロープ。解いちゃいましょ」
そう言ってコンが防草シートを広げた時、ガツンという鈍い音がして何かが俺たちの足元に転がった。
「.......ご丁寧に一つに纏めておいたみたいね」
そこにはボルトアクション方式のライフルが一丁と、空の薬莢が一つ転がっていた。
「これでもう完璧だろ、証拠は。後は誰が犯人かだよな」
「ええ、そうね。本当にそう」
「なんだよ、その含みのある言い方は」
はぁ、とため息をついてコンは絞り出すような声で言った。
「事件のあらましはね、もう説明がつくの。ゴウリだって犯人じゃない。事件の流れだって説明出来る。もちろん、トリックもね。でも、最悪なことに私たちが今持ってる証拠だけだと犯行は誰にでも出来ちゃうのよ」
「誰でも出来るって、どういう事だよ」
そのままの意味よ、と言ってコンは倉庫から出た。
「そして肝心の、犯人を特定する最後の証拠はすでに隠蔽されてるか、してる最中の可能性が高いのよ」
「じゃあ尚更早くそれを見つけないと.......」
そうね、と言って倉庫の反対側にある浴室の扉に手をかけた。
「完璧な証拠とは言わないから、何か残しててくれるといいんだけど」
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