第10話 邪神との邂逅
(一)
「インクアノック社のあるマサチューセッツ州アーカムは、米国左近寺グループに言って探らせるようにした。同時に法王庁やFBI、インターポールにも情報を流したが動きは鈍いようだ。」
左近寺先輩は凄すぎる。とても普通の高校生じゃない。
「そうか…手がかりといっても証拠も示せない。これじゃ動きようがないわね。」
賀茂先輩が親指の爪を噛みながら言う。
「理由はそれだけじゃない。インクアノックはビジネスツール開発を通して米国政府に深く入り込んでいる。しかも社長のオーベット・マーシュはタランプ大統領と旧知の仲だという。いや、タランプもルルイエ教団の信者だという噂もあって、下手に政府関係者とコンタクトとれないんだよ。」
左近寺先輩、深刻そうな顔は珍しい。
賀茂先輩がおっぱいバウンドさせながら立ち上がった。
「入来院、ゲームへのイリーガルアクセス方法はまだ見つからないのか?」
入来院先輩はキーボードを叩きながら答えた。
「我輩、ここに泊まり込みでやっておる。しかし敵もさるもの、あの手がかり以降は何の尻尾も出てこないのだ。」
賀茂先輩が画面を覗き込みながら言った。
「そうか、天才として知られるお前ならできると思っていたが不可能だったか。」
入来院先輩は両手で机をバンっ!と叩いた。
「天才ではない超天才だっ!不可能だと誰が言った。待っとれ、見つけ出してやるから!」
カシャカシャの音が速く激しくなった。
賀茂先輩はニンマリ笑うと、肩をすくめながらその場を離れた。
(二)
その頃、僕は福西顧問と新校舎屋上にいた。
グランドでは陸上部、サッカー部、野球部が練習しているのが見える。
「ここなら邪魔は入るまい。お主のチャクラを解放してみよ。」
「えっ、どうしてですか?」
「修行じゃ。いいから解放してみよ。」
僕は呼吸を整え奇のチャクラ・分福茶釜を召還した。
顧問もいつの間にか大黒天を召還している。
「かかってこよ…。」
「えっ…でも…。」
「いいから、大黒天目掛けてかかってこよ!」
本当に良いのかな?どうなっても知りませんよ…。
そう思いながら、僕は分福茶釜のあの攻撃につけた名前を叫んだ。
「いっけー…茶釜スピナー!」
茶釜がコマのように唸りを上げて回った。
空気を渦巻きながら大黒天目掛けて襲いかかる。
「甘い…青いな。」
コマが触れた瞬間…大黒天は光の粒と化して渦巻きは虚しく突き抜けた。
「…わかるか。お主のコマ攻撃が有効なのは実体化した相手にだけじゃ。今までの雑魚ならともかく、敵のレベルが邪神に近づけば近づくほど、お主が勝つことは難しくなる。」
く、く、く、く、く、くやしい……
「実体化した敵でも、お主ごとき相手にせぬ者はわんさとおるぞ。今度は逃げぬからかかって参れ!」
言ったな…おじいさん。目にもの…
きゅいーん。
コマの回転を上げながら大黒天に向かう。
「直線的ですぐ読める攻撃じゃ!もっと戦いを知るが良い!」
福西顧問が叫ぶ。大黒天は打出の小槌を振りかぶると茶釜をしたたか打った。
ああ、茶釜がひしゃげた…
子たぬきがフラフラしながら地面に仰向けに倒れて消えた。
「あ、あ、あ、あ…僕の…僕の分福!」
負けた…そして…死んだ?
「大丈夫じゃ、霊体は死にはせぬわ。…単に弱っただけじゃ。」
完敗だ…天狗だった僕の鼻は見事に折られた。
(三)
「堀田くーん、また一緒に帰ろうよ。」
ああ、紗耶香ちゃんか…
僕は肩を落としたまま歩き続けた。
「ねぇ、堀田くんってば…。」
僕は背中を向け、肩を落としたまま右手でバイバイした。うれしいけど、今はそんな気分じゃない。
「ねぇ…。」
追いすがろうとする紗耶香ちゃんの肩を誰かが押さえた。
「放っておきな…男には敗北を噛みしめなきゃいけないときもあるのさ。」
「お兄さま…。」
左近寺先輩が紗耶香ちゃんの肩を優しくポンポンと叩いた。
河川敷を歩く僕を横から夕日が照らす。
長い影法師と二人きりだ。
カラスが河原でカアッと鳴いた。
びっくりして身構えた…なんだ、普通のカラスか。
「何度も同じ手は使いませんよ…。」
突然後ろに気配がした。びっくりして振り返ると、白いスーツにターバンの男が背中から覗き込んでいる。
「うわああああああああ!」
僕は腰を抜かして、しりもちをついた。
逃げないと…後ろにずりずり尻で下がる。
「ああ、気をつけないと…河原に転げ落ちますよ。」
浅黒い男は白い歯を見せニッと笑った。
「ナ、ナ、ナ、ナ、ナイアル…。」
ナイアル…なんだっけ?
「おお、神の御名はそう簡単に唱えるものではありませんよ。それに、もし唱えるならきちんと覚えてください。」
す…すみません!
はっ、僕は敵に何をやっているんだ。
「敵…敵ねえ。あのゲームに関する企み…君たちが潰そうと思っているなら、私を敵と言えるかどうか。」
何を言ってるんだ。邪神のひとりのくせに…。
「おやおや差別はいけませんねえ…太古の昔から人間だけですよ、差別なんて低俗なことをするのは…。」
いらいらさす話し方だ。
そう言えば左近寺先輩がナイアル何とかは混沌を司るって言ってた。このペースに巻き込まれちゃだめだ。
「ぼ、僕を殺すの…。僕の前ばかり現れて…」
ナイアル何とかは眉を潜めた。
「そうですねぇ…先のことを考えれば、それもいいかもしれませんねえ。」
あっ…ちょっとチビった。
「ふふ、ただね…今は生かしておいた方が面白そうなので殺しません。」
じゃあ何で僕の前ばっかり…
「ふん…自意識過剰は良いことです。ただ今日はあえて君がひとりになるのを待っていました。」
どういうことだ…。
(四)
「ヒント…ですって?」
ナイアル何とかは恭しく頷いた。
「左様です。かのクトゥルーの信奉者どもが、一体何をしようとしているか、あなたも知りたいでしょう。」
それは知りたい…個人的にも興味出てきたし、でもヒントって。
「私があなたに全部教えねばならない理由が思い付かないのですよ。それにこんな序盤で何もかも知ってしまえば面白くないでしょう。だからヒントです。」
うーん、ペースに巻き込まれてる気がする。
「ご安心を…見返りなしのボランティアです。まぁ見返りがあるとすれば、私の楽しみというところでしょうかな…。」
うわ、やっぱりよくわからない敵だ。
「どうですかヒント、聞きたいですか?」
そりゃ聞きたい。聞きたいです。
「ヴァーチャルによるリアルの侵食…。」
へっ…何ですか?
「もう一度、ヴァーチャルによるリアルの侵食です。」
えっそれだけ…さっぱり意味が不明ですけど。
「あなたのお仲間に伝えなさい…きっと意味がわかるはずです。」
僕は首をひねった。その姿をみてナイアル何とかはニヤリと笑った。
「あなたが気に入ったのでサービスでもうひとつだけ、ただこれはあなたの中にだけとどめなさい。約束できますか?」
…意味がわからないが、僕はコクコクと頭を振った。
「よろしい…これは他の誰にも言ってはなりません。言ったらあなたの命が危なくなります。」
脅かしか…まどろっこしいな。
「…あなたと一緒にいるあの娘。あの娘には気をつけなさい。」
あの娘…いったい誰…紗耶香ちゃん?賀茂先輩?それとも他の誰か…
気配が消えた。辺りをキョロキョロ探したが、ナイアル何とかの姿は影も形もなかった。
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