ラブクラフトvs魔法大戦部

宮内露風

第1話 高校デビュー

(一)

僕の名前は堀田春生

あだ名はハルポタ…なんか有名映画みたい?

ほっといてくれ。

今日から僕は高校生。

中学のころは目立たなくってパッとしなかった自分

そんな自分とさよならしたい。

目立ちたい。注目されたい。彼女ほしい…

いっそ…ドラマみたく金髪にしてヤンキーにっ!

でもケンカしたことない。背は低いし、身体も貧弱で運動自体超苦手…小学校のころから筋金入りの帰宅部。

無理だねヤンキー。

じゃあ、女の子にモテモテのバンドとか…?

それも無理無理、楽器できない、リズム感ない、おまけに音痴。

好きなもの活かして…?ゲームやアニメ、漫画も好き。でもゲーマーやオタクってほどじゃない。敵うわけない、目立てないって。

結局、僕には一生地味に生きる選択肢しか残ってないのか。普通の高校行って、普通の大学入って、普通の会社に就職、普通の家族を作って平々凡々生きていく。目立たないけど安全第一、うちの父親みたく。苦虫を噛み潰したような顔がよぎった。あー嫌だ嫌だ…

今日から通う都内の私立T高校は勉強まあまあ、名門じゃないけど部活が活発、スポーツや音楽、書道などで頑張ってるところ。よく入れたねぇって?…僕も不思議なんだな。

あっ…

目の前を爽やかなそよ風が吹き抜けた。

スカートがヒラヒラ

すらりと長い足がチラッと覗いた。

紗耶香ちゃん…

幼稚園から一緒の水無月紗耶香ちゃん

同じ高校だと知ったときは狂喜乱舞した。

お金持ちの娘でスタイル抜群、顔はアイドル並みに可愛い。これだけでもモテモテなのに、性格は超優しく、勉強は出来すぎずそこそこ…、奥ゆかしいっ!手なんて届かない高嶺の花…実際、今まで彼氏なんていたことないらしい。そこがいいよね…見ているだけで、近くにいるだけでなんか幸せ。

でもさ…、たまたまずっと同じクラスの僕に、学校では挨拶してくれるけど外で会っても知らん顔。二面性ってわけじゃなく、僕を認識してないみたい。これがショックでショックで、高校行ったら目立ってやると決意したんだっけ…。

紗耶香ちゃんありがとう。初心忘れるところだったよ。

僕は心のなかでペコリと頭を下げた。

紗耶香ちゃんは同じ学校の制服を着てる僕に気づかない様子で、長い髪を風になびかせながら坂道を上がっていく。

T高は地下鉄の駅から約1キロ坂を上った先にある。前身のT女子校は戦後に出来たミッション系で、それなりの有名高だったが少子高齢化という時代の流れで最近共学になった。学校はアメリカのハイスクールみたいで、教会を中心とした煉瓦造りの趣きある建物に校庭は芝生張りがオッシャレと在校生の自慢みたい。

(二)

型通りの入学式、クラス発表後の型通りのホームルームが終わり今日は終わり…じゃなかった。

「入学おめでとう!」

校庭じゅう、いや校門まで各部がブースを作り、チアダンスや組体操など派手なパフォーマンスで新入生勧誘合戦を繰り広げていたのだ。体育会系の中で人気があるサッカー、バスケ、テニスといった部は、背が高い新入生や見た目で運動が出来そうなタイプを選んで声をかけているが、それ以外は文科系も含め当たるを幸い声をかけまくってる。あれ、それでも僕には声がかからん…存在が薄すぎて見えてないのか?

あっ…紗耶香ちゃん…。

艶のある背中まで伸ばした長い髪と制服のスカートをヒラヒラさせて、寄せくる勧誘の波を優雅にかわしながら歩いていく。

奇跡的にまた同じクラス、いやもはやこれは運命…

よし決めたっ、彼女と同じ部活に入ろう!

キョロキョロとなんか探しているみたいだし…

校庭じゅうの寄せくる勧誘を、世界的ランニングバックよろしくかわしながら歩き回っていた紗耶香ちゃんは、あるブースの前でピタッと足を止めた。

今どき、りんごの木箱をひっくり返して机にし、あちこちスポンジのはみ出したボロボロのパイプ椅子に一人の女の人が座っている。やせ形で背は高そう…170センチは超えてるのが座っていてもわかる。色白で顔はよくわからないが、肩まで伸ばした長髪は所々寝癖ではねかえっており、グリグリのクロブチ眼鏡と併せて、とてもモテそうには見えない。

「入部希望かね?」

女は紗耶香ちゃんに聞いた。

「はいっ!」

えっ即答…後ろからよく見えないけど、いったい何部なんだ?

「じゃあ、ここに学年と名前書いて…」

紗耶香ちゃんはさらさらとペンを走らせる。

「ふん…。」

女は名前を見て少し怪訝な表情をした。

「まぁいいや…ほんで後ろの金魚のフンみたいな君、君も入部希望かっ?」

金魚のフンだぁ!言うにことかいて…

「違うのか?」

いえ、そうです…そうですとも。

僕は慌てて紗耶香ちゃんの下に学年と名前を書いた。

それにしても何の部か表示してないなあ…何部でも紗耶香ちゃんと一緒なら入るけどさあ。

「質問いいですか?」

グリグリ眼鏡の女は禁煙パイプを口にくわえながらあっけにとられた顔をした。

僕が喋ったら意外なのか?

「すみません、ここって何部ですか?」

(三)

部室は木造の旧校舎にあった。元は生物準備室らしく、部屋の中央を占拠している棚には、ホコリを被ったルーペやらフラスコやら散乱している。

「それでさ、君は何部かちゃんと分かって入ってきたと…。」

紗耶香ちゃんはニッコリ頷いた。

「でな、お前は何部かも知らんで入った!こうぬかすわけ…。」

君とお前って…初対面にしては差別きつすぎない?まあ、ご指摘どおりで仕方ないけどさ…。

「まあそうカリカリすんなって…新入部員は部の存続のために必要なんだからさ。」

棚の向こうから、長身細マッチョの少女漫画に出てきそうな美男子が現れた。茶色がかった髪はブリーチかな、オッケーだったら染めてみたい。…帰ったら校則を確かめなくっちゃ…。

グリグリ眼鏡が深いため息をついた。

「まぁ、しょうがな………」

「左近寺のお兄さまっ!」

紗耶香ちゃんの声がグリグリ眼鏡を遮った。

「紗耶香っ…やっぱり入ることにしたのかい?」

紗耶香ちゃんがニッコリ笑った。

こんな顔は見たことがないぞ。うーん、ジェラシー!

「うん…ごほんごほん!」

グリグリ眼鏡が古典的に咳き込む。

「これは部長…言葉を遮って申し訳ない。」

左近寺と言われた美男子が優雅に一礼する。

「すまんな。さて…」

奥から何やら長方形の板を抱えてきた。

バンバンと積もっていたホコリを払うと板に書かれた字が出てきた。

魔・法・大・戦・部

魔法…何だって?

「諸君、我らが魔法大戦部へようこそ!こっ…」

僕が挙手した。

「何だ、いきなり質問があるのか?」

質問だらけだってば…

「ここって魔法…の何かする部ですか?」

「いかにも!」

魔法って実在するんですかは置いといて…

「なんで魔法研究会や探求部じゃなくて大戦部なんですかっ?」

なんか戦うんですか…って笑っちゃだめだ。我慢我慢…

「うむ、新入生…なかなかいい質問だぞ!いいかな…」

えっ、怒られるかと思ったら誉められちゃったよ。

「お前の指摘した通りだ。この部は魔法を研究、探求するだけでなく、とある存在と戦うために作られた。それも、この学校で一番歴史が古く…開校から存在するのはこの部活動だけだ。」

冗談でしょ…まともに答えてる?

「怪訝な顔をしておるな、無理もないがそのうち分かる。さて、自己紹介をしよう…」

パチ…グリグリ眼鏡が外され棚に置かれた。

予想に反して切れ長の美しい目

鼻筋通った色白の超美人

「私がこの魔法大戦部部長、3年の賀茂玲香だ。」

美少年がフォローする。

「彼女はかの大陰陽師・安倍晴明の正統なる血筋だ。そして僕は副部長の左近寺ガウェイン春門、イギリスとのハーフだ。今後ともよろしくお願いするね。」






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