第19話

「しまった……。つい遊んでしまった」


 攻具アタックツールのクロスボウの感触を確かめたり、何度も撃つ姿勢を取っていた弩門はやっているうちについ楽しくなり、詳しい時間はわからないが数十分くらいクロスボウをいじった後に我に返った。明日の模擬戦の為の確認とはいえ、子供の頃から魔法などのファンタジー世界の大ファンであった彼が、攻具といういわゆる「魔法の武器」を手に取ってそれに夢中になってしまうのはある意味仕方のないことだと言えた。


「最後は守族ガーディアンズか」


 守族とは封院ダンジョンから産まれる封院を守る存在のことである。その外見と能力は封院を創り出した封院所有者ダンジョンマスターと、封院の力の源である秘宝アーティファクトによって異なる。それでも守族は共通して高い戦闘能力を持っている上に封院所有者には絶対服従で、封院の防衛の心強い味方だと以前弩門がインターネットで見た守族に関する情報にはあった。


 守族が産み出される部屋は秘宝がある部屋の手前にある部屋、弩門が最初に転移してきた部屋で、彼は攻具のクロスボウを持ったまま来た道を戻って行く。


 弩門が封院に転移して最初に守族の確認をしなかったのは、万が一の事態に備えてのことだった。


 インターネットで調べた情報では守族は封院所有者に絶対服従とあるが、それが本当であるかは分からないし、守族がもしかしたら見るのも恐ろしい怪物かもしれない。そんな事を考えると、いきら身体能力を強化している霊服アストラルスーツを着ているとはいえ、素手で守族の前に立つのは不安になり、弩門は先に封院の構造と攻具の確認をしたのである。


 最初に転移した部屋には三つの門があり、一つは秘宝がある部屋へと続く門で、もう一つは下の階へと続く門。そして最後の一つが守族を産み出し、封院内へ呼び出す門である。


「ここで……こうすればいいのか? ………っ!?」


 最初に転移した部屋に帰ってきた弩門が、自分の中にある封院の知識に従って守族を産み出す門に触れると、門の両開きの扉が一人でに開いた。門が開いた先にあったのは闇のように黒い巨大な鏡しかなかったが、その鏡の表面が水面のように揺れたかと思うと、鏡の「向こう」からいくつもの影が出てきた。


「コイツらが、俺の守族なのか?」


 鏡の向こうから出てきたのは、数匹の全身が黒い犬達であった。その姿はこの封院、ピラミッドを背負った猟犬に似ていたが、その犬達はピラミッドを背負っていない代わりに蠍のような尾のような尻尾をしていた。


 数匹の蠍のような尻尾を持つ黒い猟犬、弩門の守族達は自分達の主人の前に並び、それを見ていた弩門の頭に例によって封院の知識が流れ込んできた。今回頭に流れ込んできた封院の知識は守族の能力や生態に関するもので、黒い猟犬達の力が自分の封院を守るための戦いに適していると分かると、彼は確かにこの黒い猟犬達が自分が作り出した守族なのだと納得した。


「………ああ、なるほど。そういうことか。確かに君達は俺に守族だ。これからよろしくな」


『『ウォン!』』


 弩門が自分の守族達に話しかけると、彼の言葉を理解したのか黒い猟犬達は返事をするかのように一回吠える。そして黒い猟犬達の返事を聞いて頷いたところで、弩門は現実世界に残してきたロロアのことを思い出す。


「そういえばロロアさん、そろそろ起きたころかな?」


 現実世界にいるロロアは今、睡眠学習装置を使って仁本語を学習している最中で、弩門は彼女の様子を見るために一度現実世界に戻ることにした。

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