第53話 敵を知り己を知れば、迷うことなく『花園』突撃!
マスターが捕まりました。
相手は、恐らく違法ドラッグの密売組織。
こうなってくると、何をさて置きまず案じるのは人質の身の安全。
と言うか、別に向こうから交渉や要求を向けられた訳ではないので、厳密に言えば人質という表現は誤りなのかもしれません。
とにかく、囚われの身のマスターを一刻も早く助け出さなくては!
「ねーねー、青菜ー。ウチ、デザートが欲しいかも! ねーねー!」
「着替えてきましたぁ。でも、やっぱりご飯食べた後に戦闘服は恥ずかしいですよぉ。ワンピースとかじゃダメですかぁ?」
「……すやぁ」
すみません。
もう一度だけ、確認よろしいですか?
僕がおかしいんですか!?
自分の父親が、いやもうこの際母親でもいいですけど!
親が謎の組織に捕まったというのに、このモチベーションは!?
少しくらい慌てますよね!?
僕なら泣きながら警察に連絡してますけど!?
「いや、3人とも! マスターを助けなくちゃ! 今だって、どんな目に遭わされているか! 心配じゃないの!?」
「様子なら、さっきから見てるよ! 場所も特定してるー!」
「どれどれ、見せて下さい! あ、パパ頭殴られてます! そして殴った方の人がうずくまりました! あはは!」
「マスターの頑丈さはすごいよ! そして、その頑丈さがあろうことか、娘たちにはメンタル部分に遺伝している!!」
「えー、ちょっと、青菜、どうしたん? なんか今日、ツッコミ激しくない?」
「わたしはこのくらい元気な青菜さんも好きですよ!」
分かった。もう全部分かりました。
これは、天が僕に与えた試練ですね。
『花園』のマスター見習いとして、
マスターが渋滞してますね!!
そうでしたか、なるほど。
それなら現状にも納得がいきます。
悪を許さない正義の三姉妹の緩慢なモチベーション。
これも、試練の一つ!
「たんぽぽちゃん、位置情報が分かっているなら、プロジェクターで投影してくれる?」
「りょー。あ、プロジェクター部屋だ。青菜取って来てー。パソコンデスクの引き出しのね、上から2番目に入ってる!」
「分かった! すぐに行ってくるよ!」
たんぽぽちゃんの部屋に階段を一つ飛ばしで駆け上がる僕。
「…………よし、上から2番目だな。うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!! なんかベタベタするものがぁぁぁぁ!!!」
無言で足取り重く、一階へと戻って来ました。
「ありがと! すぐ分かったでしょ? ……みっ!?」
「たんぽぽちゃん。どうして机の引き出しにマシュマロが入ってるの?」
「え? ええー? い、入れたかなぁ?」
「入ってたよ! 液状化したものが! 匂いから察するに、これマシュマロだよ!!」
「き、記憶にないんだもん! ……あ、そう言えば、2週間くらい前に」
「それだよ!! どうして袋から出して引き出しに入れるの!? せめて外装があれば、こんな大惨事にならなかったのに!!」
「だ、だって、青菜がいつもゴミはすぐ捨てなさいって言うからー」
「中身だけ引き出しに入れるのもダメだよ!!」
えっ? 囚われの身のマスター?
ちょっと待ってください。
今、大事な話をしているので!!
「ほら、プロジェクターだって、ベタベタだよ! これ壊れてるんじゃないの?」
「もー。機械音痴の人はすぐに壊れたって言うんだからさ! こんなの、拭いたら使えるよ! ふきふき。よし、オッケー!!」
「たんぽぽちゃん? 今、何でマシュマロを拭いたのかな?」
「みっ!? ……パジャマの袖」
僕はこの後、たんぽぽちゃんにみっちり30分ほどお説教をした。
もちろん、その間にもマスターの身は案じていた。
けれど、こっちはこっちで捨て置けないんですよ!!
◆◇◆◇◆◇◆◇
「うわーん。青菜に怒られたぁー」
「僕だってたんぽぽちゃんが嫌いだから怒ってるんじゃないの! むしろ好きだからこそ怒るの! 反省してくれたならもう良いよ」
「はぁい。ごめんなさい……」
おかしいですね。
僕、この表情のたんぽぽちゃん、知ってる気がするんですよ。
デジャヴかな?
「プロジェクター起動! はい、こっちが地図で緑のピコピコ光ってるのがパパのいるとこ! それで赤いピコピコがそれ以外の人!」
「わぁー! なんかいっぱいいますよ! これってどこですか?」
「んーと、鮭ヶ口ふ頭にある、倉庫だね。見た目はただのおっきい倉庫だけど、内部に間仕切りして、いくつかお部屋作ってるみたい!」
「じゃあ、突撃しましょうか!」
赤い点滅が全て敵だと仮定すると、20くらいの数が
しかも、この数を一斉には倒せませんから、誰か1人でも外部に援軍を要請したら、芹香ちゃんと僕の2人では対処しきれない気がします。
「……すやぁ」
「あああ! こんな時に知恵を借りたい人がずっと寝てる!!」
しかも今日は、おっぱいが喜ぶメニューを既に出した後。
いったい、何で蘭々さんを釣れば良いって言うんですか。
そして震えるスマホ。
何ですか、こんな時に。しょうもない連絡だったら怒りますよ。
ラインでメッセージが届いており、『蘭々ちゃんに送ったんだけど、既読つかないから青菜くんにも送るねー。明日、バストアップブラのセールするんだって! 蘭々ちゃんに教えてあげといて! これ広告!』という内容でした。
ありがとう、美鳥先輩。今はその情報が救いです!!
「蘭々さん。バストアップブラを買って差し上げます。お一人様2つまでですが、恥を忍んで僕も一緒に並びます。4つ買いましょう」
猫缶を開けた瞬間のにゃんこみたいな反応で、シュバっと起き上がる蘭々さん。
「お姉ちゃん本気モード!!! この状況だと、まず第一に行うべきは、外部との遮断だね! たんぽぽ、ふ頭周辺の携帯の基地局、全部潰せる?」
「んー。できなくはないけど、時間かかるよ?」
「妨害電波みたいな方法はどうですか? たんぽぽちゃんにそれが出来ればの話なんですけど」
するとたんぽぽちゃん、腕まくりしてやる気を見せる。
期せずして彼女のやる気スイッチを押した模様。
「そのくらいできるもん! 要は、少しの時間、スマホを使えなくすればいいんでしょ! 前に作ったヤツがあるから、それ改造する! ジャミングするだけなら、30分あれば作れるし!」
なんと頼もしいサイバー担当。
この子が正義の道を踏み外したら日本がとんでもない事になるのは必至なので、僕はたんぽぽちゃんの教育に一層の努力を注ぐと決めた。
「青菜さーん! なんだか盛り上がって来たので、久しぶりにこれ持って来ましたぁ! ドーン!!」
「ああ、これ! 初めて一緒に裏メニューやった時のゴルフバッグ!」
「覚えててくれたんですね! そうです、芹香の本気バッグです!!」
「カタカタターン! カタカタターン!! ……ところで、青菜さ、よくセリ姉におっぱい頭に乗せられてシリアスな話ができるね?」
むしろ、おっぱいの1つや2つでシリアスを止められると思わないで欲しいな。
頭の上におっぱいがある日常を僕だって伊達に生きている訳じゃないんだ!
そして30分後。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「待ってください! 蘭々さん、落ち着いて! 運転は僕がしますから!!」
「何言ってるの! バストアップブラが待ってるんだよ! 間違えた! お父さんが待ってるんだよ!」
しまった!
バストアップブラ4つは、ドーピングが過ぎたか!!
「諦めなよー。ララ姉の運転はね、流れに身を任せるのが酔わないコツだよ」
「土地勘のあるお姉ちゃんの方がドライバーとしては適役だとわたしも思います!!」
芹香ちゃんが急に正論を振りかざしてくる。
今日も「学校の帰りに川で恐竜を見かけたんです!」とか、頭の中が花園みたいにファンシーな事を言っていたのに。
「それじゃあ、行くよ、みんな! 出発!!」
「ああああああ! ちょっ、なんで僕が助手席なんですか!? あああああ!!!」
待っていてください、マスター。
今から行きます。
着く前に僕が死んだら、ごめんなさい。
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