第48話 植木青菜、なんか宿命を引き継ぐ

「あれ? 青菜、出かけるの?」

「まったくー、働き者だなぁー、青菜くんはー。お姉ちゃん、寝るねー」


「なんだか、マスターに連行される流れみたいだよ。蘭々さん、おやすみなさい」


「うへぇー。なんかめんどくさそう! ウチもパース! 部屋でゲームしてる!」

「おやすみー。万が一の時は、抱き枕を青菜くんだと思って暮らしていくよー」


 やっぱり、万が一のある現場なんですね。

 行きたくないなぁ。


「ちょっとぉ、パパ! 青菜さんを勝手に連れて行かないでくださぁい!!」

「芹香ちゃん!」


 お風呂上がりの芹香ちゃんが、マスターに待ったをかける。

 異議ありでも、待ったでも、今は大歓迎です。


「ごめんなさいねぇ、芹香。これはマスター後継者には避けて通れぬ試練の道なのよぉん」

「じゃあ、わたしもついて行きます!」


「芹香ちゃん、違う、そうじゃない!」


「あ、ついてくるだけなら全然オッケーよぉん! いらっしゃーい!!」

「はーい! 青菜さん、わたしが一緒なのでもう安心ですよぉ!!」



 物理担当オンリーになると、不安が加速するのですが。



 思い起こすのは美鳥先輩の裏メニュー回。

 大乱闘スマッシュシスターズと化した2人が、ステージから落ちていくヤクザさんを無理やり立たせてボコり、また無理やり立たせていた。


 あんな現場はできれば、ご免なのですが。

 幸せなバーベキューの思い出を得たばかりなので、今日はなおの事。


「芹香! 青菜くんを車に連行して! ワタシ、運転するから! 大丈夫、お酒は我慢したんだゾ!!」

「僕の表情が暗いのはそんな理由じゃないんですよ!? あああ! 芹香ちゃん、待って! せめて後部座席が良い! 助手席って何か飛んで来たら死んじゃうよ!!」


「あはは! そんな、マリオカートじゃないんですからぁ!」

「スマッシュシスターズに言われたくない!! ヤダ、ヤメて!!」


 抵抗虚しく、僕はハイエースの助手席へ。

 そして、アスファルトタイヤを切りつけながら、暗闇を走り抜けるのです。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 30分くらい走ったでしょうか。

 夜景が綺麗な高台へとやって来ました。


 星を見るのですか?


「もぉん! 遅いじゃない、柊! 待ちくたびれたぞ!!」

「あれ、マスターが2人!?」


 ハイエースのライトに照らされて、ゴリゴリのオネエが仁王立ち。

 でも、運転席にはマスターが。


 ああ、なるほど、多重影分身ですか。

 良かった。NARUTO読んでて!


「だぁれがあんなオカマ野郎じゃい! よく見んかい、ワタシのリップを! あんなどどめ色で品のない唇と、どっちが綺麗かくらい分かるでしょ!!」

「言うじゃないのよぉ、柊! あんたから呼び出しておいてぇ! んもぅ、失礼しちゃう!!」


 すみません、この場にオネエが2人いる事は分かりました。

 早いところ、あちらの方の説明をお願いします。



 紛らわしくて困るんです!!



「むむむ! 青菜さん、あの人、相当鍛えてますよぉ! わたしには分かります!!」

「あ、やっぱり? 多分、戦闘民族寄りの人なんだろうなって言うのは、薄々感づいてたんだよ。見るからに筋骨隆々だもん」


「ちょっと行って来るわぁん! 青菜くんはもちろん、芹香も出て来ちゃダメよ? うっかりすると、戦いに巻き込まれないとも知れないわ!!」


「はい! 絶対に出ません!! マスター、お元気で!!」

「誰が今生こんじょうの挨拶したんじゃい! ちょっと揉んで来るだけよぉん!」


 そして運転席から出たマスター。

 相対するのは、今のところマスターよりも口紅が派手だと言う情報しかない、オネエの人。


 マスターを前にして雰囲気負けしていない時点で、ヤバいっていう事は理解しました。

 マスターが出て来る時は大概ヤバい?



 ヤメて下さい! 消されますよ!! 味方に!!



「今日こそ決着をつけるわよぉん! 二階堂にかいどう刃太郎じんたろう!!」

「そっくりそのままお返しするわぁん、そのセリフ! 中仮屋柊!!」


 えっ!?

 この人が二階堂刃太郎!?


 何か思わせぶりに名前だけ出てきて、いつまで経っても登場しなかった、あの!?


「はぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

「ほあぁぁぁぁぁぁぁっ!」


「「うるぁあぁぁぁっ! らららららららららららっ!! しゃぁい!!」」


 少しでも気を抜くと見逃してしまうような、一瞬の攻防。

 僕には、お互いが顔面めがけてラッシュの寸止めし合っているようにしか見えませんでした。


 スタンドバトルかな?


「……腕は衰えていないようね、柊」

「あなたこそ、刃太郎。危ないところだったわ!」


 僕は世界に置き去りにされたのでしょうか。

 何が起きているのかさっぱりなので、芹香ちゃんに聞いてみる事にしました。


「今のはですね、付けまつ毛の奪い合いですね。どちらも恐ろしく早い手刀。わたしでなければ見逃していました」


 こんなに尺を使って、そんなしょうもない事を!?


「これであなたの負けよぉ!」

「くっ。仕方がないわねぇ。また今年もアタイが後攻か」


 実況パワフルプロ野球でもするんですか?

 僕がここに呼ばれた意味とは。


「うちのニューカマーを紹介するわよ! 青菜くぅん! カモナウ!!」


 頭の中だけでツッコミ入れていたら助かる。

 そんな風に考えていた僕が甘かったのです。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「柊ったら、本当に引退する気なのねぇ? その子新しいマスター候補? ふぅん?」

「すみません。植木青菜と申します。勘弁してください」


「ちょっとぉー! 意外とアタイのタイプなんですけどぉー! シ・ク・ヨ・ロ!」



 勘弁してくださいって言ったのに!!!



「紹介するわねぇん! こちら、二階堂刃太郎よ!」

「んもぅ、柊! アタイ、自分で名乗りたかったぁん!」

「ヤダぁ、そんな事で怒んないでよぉ! んもぅ、面倒なオンナねぇ!!」


 僕の記憶が正しければ、二階堂さんは犯罪コンサルタント。

 金田一少年の事件簿における、地獄の傀儡師くぐつし


「あら、あんた、チーク変えた?」

「分かるぅー? この夏のトレンドよ!」



 僕の知ってる地獄の傀儡師と、ちょっと違うんですよね。



「すみません。二階堂さんは、普段なにをされておられるのでしょうか?」


「ちょっとぉ、柊ったら、そんな事も紹介しないで連れて来たのぉ? 可哀想ー!!」

「こいつはね、犯罪コンサルタントよ! 潜在的な犯罪者に、良い感じの犯罪を企てさせて、それをうちが叩き潰すの!」


「えっ、あの、敵と言うお話は?」


「敵よ! 敵ぃ! こいつ、すぐに面倒な犯罪者を生み出すんですもの! ダルいったらないわぁよぉん!」

「なによぉ、あんたがどうしてもって言うから、アタイは引き受けてんのよぉ?」


 僕の頭でも、ようやく2人の関係性が理解されつつあった。

 つまり、二階堂さんは犯罪者予備軍を犯罪者に仕上げる。

 そして、『花園』は犯罪者になった瞬間を叩き潰す事で、被害を最小限に抑える。


 同業者じゃないですか!!


「一応確認しますけど、お二人、仲良しですよね?」


「バカおっしゃい! 青菜くん、人を見る目も鍛えなさいって言ってるでしょ? こんなのとワタシを一緒にしないで! たまにコスメ交換するくらいの関係よぉ!」

「そうよ、そうよ! この間貰ったマスカラ、最高だったわよ! アタイの趣味にドンピシャ!! とんでもないヤツよ!!」


「仲良しじゃないですか!!」


 そして、僕を置き去りにして、話が纏めに入る。

 だから嫌だったんですよ、マスターと出掛けるの。


「今年もうちが先攻だから、いい情報ちゃんと送るんだゾ!」

「んもぅ、やぁね! だから後攻は嫌なのよぉ! はいはい、分かりました!」


「あと、今度からは、青菜くんがリーダーするから! 今日はその顔見せも兼ねてるのよぉ! 長く続いたワタシたちの宿命は、今、次世代に引き継がれるの!」

「ヤダぁ! 世代交代とか、泣けるんですけど! ジョジョみたい! アガるぅ! 青菜くんって言ったわね? アタイは手加減しないわよぉ!!」


「あ、はい。よろしくお願いします」



 この夜、僕は宿命を受け継がされた。

 端的に言えばどういうことか。


 とりあえず、オネエの知り合いが1人増えました。

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