第47話 バーベキューとおっぱいと家族

「カルビ! ハラミ! カルビ!! ハラミ!! これが一番キクのよ! 今日は迷惑かけちゃったから、青菜くんに大サービス!! ワタシも食べていいんだゾ!」

「お肉だけ頂きます」


 マスターと芹香ちゃんが焼く係。

 蘭々さんは粛々と魚介類を焼いては食べ、また焼いてを繰り返す。


「このお肉美味しいよね! よく行く焼肉屋さんに注文しといたんだって! ね、青菜、おいしい?」

「うん! すごく! でも、普段は僕の担当の料理を代わってもらうのはなんだか気が引けるなぁ。やっぱり僕が!」


 すると、背後に気配を感じる。

 が、反応がわずかに遅い。僕もまだまだですね。


「青菜さーん! お野菜が焼けました! お肉も追加です! あと、お姉ちゃんのエリアからホタテを密漁してきました! どうぞ! ドーン!!」

「セリ姉、お皿にお野菜載せるか、青菜の頭におっぱい乗せるか、どっちかにしなよ」



「僕はもう気にしてないよ? この玉ねぎ、美味しいなぁ!」

「えー。気にしなよ、青菜ー! なんかちょっとずつ普通を失っていってる……」



「僕、バーベキューって初めてなんだよね。こんなに楽しいものなんだなぁ。それに、同じ調理を家でしても、この味は出せないんだろうね」


「そうよぉ! 中仮屋家は焼肉とバーベキューで基礎体力を付けてるの! 青菜くんも早く慣れなさぁい! うちの家族なんだからねぇ!」

「なかなか慣れませんけど、努力します!」


「いい感じの話なのに、頭におっぱい乗せてるから台無しだよ……」


 引っ切り無しにおかわりを持って来るマスターと芹香ちゃんにつられて、僕はどんどんご飯がすすむ。

 そんな僕の身に、災難と言うほどではないけれど、文字通り何かが降りかかってくるまであと数分。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「芹香ー! ちょっと焼肉のタレ取ってくれるー? お姉ちゃん、そろそろ魚に飽きちった! あたしもお肉を食べなきゃだよ! おっぱいのために!!」


 タレも行きつけの焼肉屋さん秘伝のものを、ボトルで購入して持参している。

 そのボトルが僕の座っている場所からほど近かったのが悪かった。


「僕が取りますよ」

「いえいえ、青菜さんは食べていてください!」


 座っている僕が持ち上げたボトルを、立っている芹香ちゃんと取り合う形になる。

 するとどうなるでしょうか。



「あっ」

「ああーっ!!」



 ドボドボと流れ出る焼肉のタレ。

 中身が3分の1ほど流出したところで、どうにかキャッチできたのは幸いでした。


「うわ! あ、青菜、大丈夫?」

「うん。別に劇物が掛かったわけじゃないから、平気だよ。ただ、このタレ、かなりニンニクが効いてるよね」


「あら、ヤダぁ! んもう、青菜くん、シャワー浴びてらっしゃい! お肉は取っといてあげるから! 芹香! お手伝いしてあげなさぁい!」


 僕が「いえ、自分で洗いますから!」と言うタイミングより早く、芹香ちゃんに首根っこを掴まれていた。

 脱走しようとした猫かな?


「今なら頭だけ洗えば済みますよ! わたしにお任せください!! うちの姉妹の中で、頭を洗わせたらわたしに敵う者はいませんよ!!」


「たんぽぽちゃん、ホントかな?」

「んー。確かに、ウチが小さい頃はセリ姉が頭洗ってくれてたよ!」


 そこは否定して欲しかったんだけどなぁ!

 たんぽぽちゃんはさっきから蘭々さんが魚屋さんでオマケして貰った、ライチに夢中で僕にかける情けはないご様子。


 なんで魚屋さんがライチ扱っていたのかは知りません。

 お店の住所を教えますから、ご自分で聴きに行かれてください。


「さあ! 行きますよ! 青菜さん!!」

「あああ! ちょっと待って! なんか、嫌な予感がするんだよ!! 待って!!」


「ふっふっふー! まだまだ命乞いは若葉マークですね、青菜さーん!!」


 いつの間に僕は命乞いの教習を受けていたのだろうか。

 そして、その若葉マークはいつ取れるんだろうか。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 風呂場に連行された僕は、秒で上半身裸にされていた。

 芹香ちゃんの服を脱がすスキルは舐めた時点で負けが確定。

 舐めていないのに敗北している僕が言うのだから、間違いありません。


「では、わたしも失礼してー!」

「ちょ、ちょっと! 待って芹香ちゃん! さすがに2人で裸はまずい!!」


 芹香ちゃんを薄目で見ると、服を脱ぐどころか、タンクトップの上にポンチョを装備していた。

 何でも、雨が降った時ように、別荘に常備してあるのだとか。


 それはそれとして。



「青菜さーん? 今、わたしが下着姿に、もしかすると裸になると期待しましたかぁ?」

「……殺してくれると嬉しいな」



 この手の勘違いは死ぬほど恥ずかしいものと知る。

 別に、何を期待していた訳じゃないですよ?

 でも、もうそういう空気になるじゃないですか。


 そして、空気ってなかなか換気できないじゃないですか。


「はーい。洗っていきますねー! おっぱいの感触は楽しんでもらって平気ですよー! だけど、わたしも脱ぐべき時は見定めているので!」

「うん。もう、何て言うか、ごめんなさい」


「痒いところはございませんかぁ?」

「心がむず痒くて死にそうだけど、そっとしておいてくれたら、そのうち治ると思う」


 芹香ちゃんにここまで主導権を奪われるのは初めての事で、そして、この子も蘭々さんの妹なんだなぁと実感。

 小悪魔化していますね。


 ただ、悪魔神官じゃないだけマシと思える僕は、果たしてまだ普通でしょうか?


「えへへ。こうしていると、本当の家族みたいですね!」

「うん。うん?」


「いえ、なんだか、変に遠慮しない仲って嬉しいなって思いましてー! もちろん、わたしは家族と言っても、青菜さんの旦那様を希望しますけど!」

「そこのところは黙秘するとして。僕も家族が大勢増えたみたいで、実は嬉しいし、楽しい。いつか、母さんにもみんなを紹介したいよ」


 地雷を踏んだことに気付かない僕。

 どうにか気付けていれば、爆発は防げたかもしれないのに。



「あ、青菜さん! お母様にわたしを紹介してもらえるんですか!? 妻として!!」

「うん。僕の言いようが悪かったよね。本当にごめんなさい」



 そこからはもう、なしのつぶてですよ。

 何を言っても「はい! えへへ!」しか言わなくなった芹香ちゃんに、散々頭を洗われて、ドライヤーまで自分がかけると言って聞かないんです。


 そして、腕っぷしではまだまだ芹香ちゃんに遠く及ばない僕ですから。

 されるがままになるのはもう必然。


 気付いたら、今度フラワーガーデンに母を呼ぶ約束をさせられていました。

 おかしいなぁ、怖いなぁ。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「あらん! 結構かかったわねぇ! お肉食べなさい! お肉!!」

「いえ、もう、胸がいっぱいで」


「胸? 青菜、胸おっきくなったの?」

「違うよ、たんぽぽちゃん。比喩表現だよ」


「なぁぁにぃぃ!? 青菜くん、おっぱいが大きくなったの!?」

「今のクールポコみたいな声、蘭々さんが出したんですか!?」


「ふへへー。うふふー。いやぁ、困っちゃいますねぇ! もぉ!」


 表情が緩みっぱなしの芹香ちゃんを見て、蘭々さんとたんぽぽちゃんが小会議。

 僕の目の前で。


「これは、青菜くんが何か失言をしたっぽいね」

「青菜はそーゆうとこあるからなー! セリ姉相手に失言はヤバし!!」


「芹香は思い込んだらそれが自分の中の真実になるからねー。怖い、怖い!」

「ウチ、しーらない!! 怖いものからは目を逸らすのが一番だし!!」



 2人とも、せめて僕に聞こえないところで言ってもらえませんか?



 こうして、バーベキューは終わり、後片付けを僕とマスターが担当。

 三姉妹は順番にお風呂。


 3人とも、今日はすぐに寝ると言う。

 それを聞いたマスターが、小声で僕に囁きました。



「青菜くぅん。この後、ワタシとドライブしましょ。会わせたいヤツがいるの!」

「それって拒否権あります?」



 「花園を背負って立つ以上、逃れられない宿命だゾ!」とウインクされて、僕の1日はまだ終わらない事を確信しました。

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