第43話 ログハウスと植木青菜のさっと一品

 まずは別荘の掃除でしょう。

 前に来たのが去年のお盆休みという事は、だいたい10か月と少し。

 確実にほこりとかすごい事になっているはず。


 腕がなりますね。

 僕、掃除好きなので。コンビニでクイックルワイパー買って来ましたし。


「うげ、青菜、最初に取り出すのが掃除用具って。お母さん感があるー」

「僕は清潔な空間を愛してるんだよ」



「わかりみ! だから青菜、いつもウチの部屋掃除したがるんだ?」

「たんぽぽちゃんの部屋はね、憎んでいるまであるかな」



「青菜さーん! 荷物おろして良いですかぁ?」

「そうだね。玄関先だけ軽く掃除するから、そしたら運んでもらおう」


「パパとお姉ちゃんの掃除はどうしましょうか?」

「お父さんは掃除しないであげて……。蘭々さんは叩き起こして!」


「ひどいなー、青菜くんはー。せっかくお姉ちゃん、鍵持って来てあげたのにー」

「相変わらず、さすがの危機察知能力ですね。鍵、ありがとうございます。じゃあ、ついでに掃除を手伝ってもらえますか? あれ、蘭々さん?」


 ……もういなくなってる。


「とりあえず、入ろうかな。おじゃましまーす。……うん?」


 埃ひとつないのはどういう訳かな?


「あー! そう言えば、この別荘、業者さんが定期的に掃除してくれるらしいよ!」

「……なんでそれをコンビニで教えてくれなかったのかな?」


「みっ!? だ、だって、忘れてたから! う、ウチ、2階の様子を偵察してくるー!」

「僕の情熱はどこに持って行けば……」


 とりあえず、本当に清潔な空間なので、僕は芹香ちゃんと手分けして荷物の搬入作業に手を付けることにした。


「これはどこに置きましょうか? お野菜とお肉と飲み物です! 冷蔵庫にいれますか?」

「そうだね。冷蔵庫はさっき電源入ったばかりだから、クーラーボックスに入れてある氷を両サイドに立てかけておいてくれるかな?」


「了解です! はい、できましたぁ! 次はパパですけど、どこに置きましょうか?」

「二日酔いには冷えたフローリングが気持ちいいだろうから、その辺りの床に置いてあげて。近くにビニール袋と酔っ払い欲張りセットを配置してもらえる?」


「はぁい! お姉ちゃんはどうしましょう?」

「蘭々さん絶対起きないよ。もう、車の中で良いんじゃないかな?」

「でもでも、5月ですから、意外と熱中症とかの危険があるんじゃ?」


 すごいなぁ、今日の芹香ちゃんは。

 いつもの10倍は頭が良い。旅行、本当に楽しみだったんだね。


「じゃあ、仕方ない。僕が運んでくるよ」

「あっ、待ってください! お姉ちゃんを起こす魔法の言葉を最近覚えたんです、わたし!」

「ホントに!? それはすごい! 是非教えてよ!」


「この芹香にお任せあれ!」

「頼りになるなぁ。今日の芹香ちゃんは」



「お姉ちゃーん! 青菜さんが、おっぱい平原について詳しく聞きたいってー!!」

「芹香ちゃん、それはダメだ。僕が死ぬヤツ!」



「青菜くんー? 誰の何が平原だってー? 平野部だってー? 盆地だってー?」

「そこまで言ってないじゃないですか!?」

「ではどこまで言ったのかねー? んー?」


 本当に、一瞬で車の中から瞬間移動してきた蘭々さん。

 コンビニで色々買っておいて良かった。


 キッチンの棚を開けると、ミキサーがあって一安心。

 そこにヨーグルトとバニラアイスと牛乳と少量の氷を入れて、家から持って来たまめた豆腐の絹ごしとキウイフルーツとバナナを入れて、スイッチオン。


「蘭々さん。いつものヤツができました」

「えーっ!? 材料持って来てくれてたの!? もぉー、青菜くんってば、気が利くなぁ! 抱きしめてやりたいぞ、このこの!」


 こちら、蘭々さんの『おっぱいが喜ぶシェイク』です。

 蘭々さんがとにかくおっぱいの事だけを考えた食材を持って来て、「これを使って何か美味しいもの作っておくれー」と無茶を言い出したのが先週のこと。


 試行錯誤を重ねて作り上げたのが、こちらになります。

 豆腐の風味をいかに生かすか、そして、どうしてもドロドロしてしまうので、それをどう解消するか。

 実に長い戦いでしたが、どうにか完成させられました。


「あー! お姉ちゃんだけズルいですよぉー!」

「ダメだね! こればっかりは、血を分けた妹にだって分けてあげられない!!」


 そして、蘭々さんの言うストロングおっぱいな妹たちには、一滴たりとも分けてあげない、お姉ちゃんにあるまじき行為なお姉ちゃん。


「2人の分も作るよ。豆腐を抜いて、牛乳の量を減らしたヤツ」

「わぁー! じゃあ、残りの荷物、運んじゃいますね!」


 その間に、僕はストロングおっぱいコンビのシェイクを作り、ミキサーを洗ってもう一仕事。


 美鳥先輩栽培のカモミールとセイヨウタンポポを適量、それに牛乳と、チョコレートアイスを入れて、仕上げにペパーミントを加えた、スムージーを作る。


「たんぽぽちゃーん! ちょっと来てくれるー?」

「りょー! 今行くー! なに、青菜ー?」


「これ、マスターに飲ませてあげてくれる? 美鳥先輩と考えた、二日酔い用のスムージー。マスター、あのままじゃいつまで経っても動きそうにないし」

「仕方ないなー。世話が焼けるんだからさー。ほら、パパ! 青菜がなんか美味しそうなの作ってくれた!」


 実は二日酔いに効果のあるセイヨウタンポポ。

 そして元気を出すには愛娘。純国産のたんぽぽちゃん。

 ダブルたんぽぽによる気付きつけの効果はいかに。


「ゔゔ。ありがとう、たんぽぽ。ありがとう、青菜くん。そして全ての子達におめでとう……」



 意味が分かりませんが、なんか大丈夫そうで良かったです!



「それじゃあ、みんなで一息つきましょうか」

「はーい! 青菜さんのシェイク! 美味しいですよねー!!」

「ウチも、ウチも! 青菜の作るの全部おいしいから好き!」


「お姉ちゃんはおっぱいに栄養あげたから、また寝るよ。晩ごはんになったら起こしてねー。おやすみー」

「ああ、マスター寝かせようとして準備しておいたソファーに蘭々さんが。ブランケットまで、完全に自分のもののように」


 すると、マスターが動く。

 30センチくらい。そしてやっぱり動かなくなる。


「き、気にしないでちょうだぁい。青菜くんのとん服薬飲んだら、少し楽になったわぁ……。ワタシも、夜までには、元気になる……から……」


 今際いまわきわのような言葉を遺して、マスターも再び活動停止。

 既に家族の半数が動いていないという事実。


「仕方がないから、3人でゲームでもしようか?」

「おー! いいね、いいね! 何するー? ウチのパソコンに色々入ってるよ!」

「あれやりましょうよ! たんぽぽが作ったヤツ! 人生ゲームみたいなヤツです!!」


「へぇー! すごいなぁ、たんぽぽちゃん! やっぱりゲームとか作れるんだ!」

「そ、そんな、すごくないし! うわー! 頭撫でるなー!」

「まあまあ、たんぽぽちゃんの頭は撫でたくなるんだよ。それで何て言うゲーム?」



「脱税ゲーム!」

「フラワーガーデン、ちゃんと確定申告してるよね?」



 名前だけ聞くと不安になるゲームだったけど、中身は脱税する側と監査する側に分かれて、いかに相手を騙すかを競う、実にクリエイティブな内容。

 そして、芹香ちゃんが6度目の完敗を喫したところで、お開きとなった。


「それでは、2時間ほど自由行動と言う事で! お夕飯の時間が近づいたら、リビングに再集結ですよ!!」


 今日はリーダー気質な芹香ちゃん。

 その姿はさながら、旅行番長。


「りょー! ウチはお部屋行くね! やらなきゃならない事があるの!」

「僕はバーベキューに使う道具だけ洗っておこうかな」

「わたしは汗かいちゃったので、シャワー浴びてきます!!」


 楽しい旅行のスタートとしては上々な出だし。

 しかし、『花園』に休みはないのだとこの後、僕は知る事になる。

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