第27話 大乱闘スマッシュシスターズ! ~植木青菜の地道なリーダー活動~

「なんじゃあ!? どこぞの組のカチコミかぁ!? おどれら、外じゃ! 念のため得物えもの持って行かんかい!」


 事務所からものすごく大きな声が聞こえる。

 そうですよね。襲撃されているんだから、大声にもなりますよね。


 助かるなぁ。状況が把握できて。


あにぃ! マサとトシが流れ弾に当たって!!」

「しっかりせんかぃ、ぼけぇ! 傷は浅いけぇ、応急処置したら追いかけていや!!」



 マスター、宣言通りの2枚抜き達成。



 マサさんとトシさんが死んでいませんように。

 どんな大悪党も、命まで取る事はないと思うんです。


「青菜くぅん! ちょいとお下がりになってぇん!」

「パパ! 遅いですよぉ! ふっふっふー! わたしはもう3人もやっちけちゃいましたぁ! これは勝負ありですかねぇ! ね、青菜さん!」


「黙らっしゃい! ワタシは小石で2人仕留めてるんだから、まだまだこれからよぉ! そうよねぇ、青菜くぅん?」

「あの、2人とも、僕の名前を何回も呼ぶの、ヤメてもらえます!?」


 この物理オンリーバトルの中で、僕の名前だけが異質なんですよ。

 悪目立ちしたくないんです。


「おどれらぁ! 敵さんの大将っちゃあ、とか言うらしいけぇ、そいつ狙え! 少人数の特攻じゃけぇ、あたまつぶしゃあこっちのもんよ!!」



 ほらぁ! なんか僕の名前だけハッキリ認識されてる!!



「青菜さんには、手を、出させまっ、せんっ! わたしの未来の旦那様ですよ!」

「お前ら、なに女に苦戦してんだ! いつから騎士道に目覚めやがった!?」

「違うでさぁ、兄貴! こいつ、むちゃくちゃ強いっすよ! あぺっ」


 芹香ちゃんは本日バールなし。闇夜に紛れる戦闘服スタイル。

 相変わらず、絶対領域が眩しいです。今日は素手縛りなんですって。

 マスターと『格闘技のスキル、どっちが上でショー』を開催中のために。


 バールですか?

 僕が持ってますね。自分の護身用に。


「げぇぇぇぇぇっ!? あにぃ! こりゃダメだ! こ、このオカマ! 組の手配書に載ってたヤツですよ! 1人でうちの幹部がケツ持ちしてるドラッグの取引バラしたとか言う、やっべぇオカマです!!」


「あらぁん、ワタシも有名になったわねぇん。と言うか、だぁぁぁぁれがオカマじゃい! こちとらご近所でも評判の美人なオネエで通っとるんじゃい! ぬぅん!」

「ひぎゃあぁぁぁぁぁっ! 助けて、助けてぇ!!」

「こっちに逃げてくんなぁ! ぎゃあぁぁ!? ひぃいぃぃぃぃぃぃぃっ!!」


 マスターの方は、何と言うか、地獄絵図?

 高校生の頃に日本史の授業でこんな風景を見た記憶がある。


 もう、見ているだけで震えて来ちゃう。

 でも、ちょっと困った事になったぞと僕は、実写版大乱闘スマッシュブラザーズを眺めながら思う。マスターに気を遣うとシスターズかな?


 これ、交渉できないんじゃないでしょうか。


 いや、悪人をせん滅するのは大いに結構ですし、そこに異論なんてありません。

 でも、今回のミッションは、あくまでも美鳥先輩の奪われた学生証を取り戻す事であってですね。


 今回事務所を消し去っても、学生証が取られたままだったら、そのうち別の傘下の組織が、結局のところ美鳥先輩にちょっかい出してくるのではないかと。


「「ぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああ!!!」」


「うわぁぁぁっ!? ビックリした!」


 作戦について考えていると、なんかボロ雑巾みたいなヤクザの人が2つセットになって飛んできた。


「青菜くぅん! その子たち、美鳥ちゃんに当たり屋行為した不届き者たちよぉん! か弱い女の子に怖い思いさせたむくいを受けさせるんだゾ!」

「ああ、マスター。さすがです」


「ほぁぁぁぁっ、たぁぁぁ! おんどうるぅぅあぁい!! ふぅぅぅ、4人目ぇぇ!!」

「むむーっ、パパもやりますね! えい、たぁ、せぇぇい! やぁぁぁぁっ! わたし、5人目ですよぉ!」


 おかしいな。計算が合わない。

 事務所の中は全員で10人だったはずなのに。


 マサさんとトシさんが離脱して、8人。

 今、僕の前に新鮮なボロ雑巾が2人。差し引いて6人。


 誰と戦っているんですか、2人とも。


「もう、もうやめっ! 誰か、助け」

「はぁぁぁい! ワタシの事、呼・ん・だ?」

「モルスァ」


「もう悪いことしません! お願いです! ガキくせぇとか言ってごめんなぶぁぁぁ」

「てぇぇやぁぁぁ!! はい、7人目ですよ! 次は誰ですかぁ!?」



 あ、同じ人が何回もやられてる。



 謎が解けた瞬間でした。

 すごいなぁ、昔の格闘ゲームのボーナスステージみたいになってる。

 倒れた相手をもう一度立たせた後にまた倒すって言う、発想がすごいや。


 僕は、自分に出来る仕事をコツコツとしよう。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「あの、当たり屋のお二人。矢盛やもりさんっていうのはどちらの方ですか?」


「ふざけ、んな! てめぇみてぇなガキに、指図される覚えはひょん!」

「僕も一応あの人たちの仲間なので、バールで頭殴るくらいはします。女子大生を相手に3人で囲み込んだそうですね? ひどいなぁ。誰の発案ですか?」


「こ、こいつだ!」

「て、てめ! いや、そいつですよ!」


 なんてみにくいバケツリレー。

 とりあえず、両成敗という事で。


「うぉぉぉぉ! りゃぁぁぁぁ!!」


「あげっ」

「ぽよっ」


 芹香ちゃん直伝。バールの教え、壱ノ型。

 『手首のスナップ効かせてドーン』が炸裂した。


 もう立ち上がる体力のない相手に効果は絶大だとか。

 本当だ、すごいなぁ。


「じゃあ、とりあえず奪った学生証、返してもらえます? 事故って怖いんですよね。一歩間違えば、怪我、下手したら死んじゃうんですよ。死んだらすごく痛いと思うんですよね。おかしいなぁ、あなたたち、そんな目に女子大生を遭わせておいて、平然と生きてるじゃないですか」


 蘭々さん直伝。交渉術、壱ノ型。

 『とにかく相手を追い詰めて』が実行された。


 こうやって、声の抑揚よくようをなくして、冷たい感じで喋ってますけど、内心はガクブルですよ。

 最悪、おしっこ漏らしそうです。


「へんなっすぇ」

「ええ!? ま、待ってくれ! 今、出そうとしてるから! な、何で殴った!?」


「いえ、お隣の方のシャツがはだけて、刺青いれずみがチラッと見えたので、つい」


 僕は普段、風が吹いて女子のスカートが捲れても「ひぃ!」と目を逸らしてしまう小心者。

 パンチラでそのリアクションなんですよ。



 刺青ズミチラとか、そりゃあ手首のスナップ効かせてドーンですよ。



「あ、あった! これ、これで! これで勘弁してくれ!」

「お隣の方の謝罪が聞こえませんが」

「えっ!? それは、あんたが殴ったから……!」



「何の罪もない女子大生を、大人の怖い男が3人で囲んだんですよね?」



「お、起きろぉぉぉ! おい、てめぇ! 1人で楽に逝くんじゃねぇ! 還って来い! おぉぉぉぉい! あ、もう、マジですんません! 自分、小指でもなんでも詰めますから、もう、マジで、マジで許してください!」


 反省……と言うか、後悔は充分しているみたいですけど。

 どうしましょうか?


 そうだ、車の中の美鳥さんに判定してもらおう。



 あ、スマホ構えて、すっごい笑顔で親指立ててる! あの人も本当に大概だなぁ!



「じゃあ、2度と人様に迷惑をかけないように。実家とかに帰って、普通に就職して下さい。分かりましたか?」

「分かった! いや、分かりました!」

「お隣の方が黙ったままですけど」


「おめぇぇぇぇ! いい加減にしろよなぁぁ! 起きろよぉぉぉぉ!!」


 ああ、怖かった!

 なんですか、あのドスの利いた謝罪!

 あんなテンションで謝られたって何も許せませんよ!


 美鳥先輩は許してましたけど!


 普通の感覚って、大事だなぁと思った、4月の夜の事でした。

 って、ダメだ、締めようとしてました。



 スマッシュシスターズを止めなくっちゃ。



「二人とも、帰りましょう!」


「あらぁん、もう終わりぃ? 芹香、何人? ワタシ12人!」

「うぅー、負けちゃいましたぁ。わたし、10人ですぅ。青菜さぁーん! 慰めて下さぁーい!!」



 オーバーキルが過ぎる!!



 そうして、車に乗り込み、速やかに帰還。

 僕の予想だと、流れ弾に当たったマサさんかトシさんが応援を呼ぶと思ったんですけど、来ませんでしたね。


「ああ、ワタシが事務所にお邪魔して、おやすみのハグしたら勝手に寝たわよ?」



 アスファルト、タイヤを切りつけながら、暗闇走り抜ける。


 あ、何でもないんです。

 ただ、急に良い感じのイントロと、このフレーズが頭の中に浮かんできただけです。

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