奇跡、それ故に
マドカ
奇跡、それ故に
世間は私のことを
『奇跡の人』と呼ぶ。
メディア出演は多く、新聞やニュースには載り、情報番組にもインタビューされる。
がしかし
私は私を『奇跡』からほど遠い人間だと思っている。
だってそうだろう?
『奇跡』
というものは
例えば
イエス・キリストが病人の怪我を手をかざしただけで治したり
釈迦が炎を無からおこしたり、
たまたま実験していた細胞が
万能細胞になったり、
好きになった人が、実は同じ病院、同じ時に産まれたり
そういったポジティブなことが
『奇跡』
と呼ぶにふさわしいのだと思う。
私は違う。
飛行機墜落事故で、たまたま私だけ軽傷で助かった。
数秒発見が遅れると死に至る
毒蛇にかまれ、たまたま発見され血清を打たれ助かった。
大地震の深夜、たまたまマンションから出ていて住人で唯一助かった。
通り魔に腹部を刺されたが、たまたま内蔵や筋肉を一切傷つけなかった。
挙げれば暇がないが、
つまりこういうことだ。
私は
寸前の所で命を拾っているだけ。
これは果たして『奇跡』といえるか?
あなたは私と同じ経験したいと思うか?思わないだろう。
私に何か特別な技能があるわけではない。
私はただ普通に平和に暮らしたいだけなのだ。
何かに巻き込まれ助かる度に
助からなかった人達に対して申し訳なくなる。
偶然に偶然を重ねているに過ぎない私が
報道されるのも居心地が悪い。
私が何をしたというのだ。
私は平和に普通に過ごしたいだけだ。
、、、、、、、、、、、、、、、
ピッ、ピッ、ピッ、ピッ、、
電子音は一定のリズムで鳴り
カプセル型のケースには
(モデルパターン:臨死体験アトラクション)
と書かれている。
当テーマパークでもコアなファンから愛されるアトラクションだ。
疑似体験として、臨死に近い体験をし、普段の生の実感を噛み締める。
2080年、
人類は災害、事故を
科学の発達により未然に防ぐことに成功した。
それ以来、人々の死生観は大きく変わった。
災害、事故に巻き込まれ死ぬ事が無くなったからだ。
多くは病気や老衰で生涯を終える。
このアトラクションは
一時代前では考えられなかっただろう、
『死の寸前』を体験するアトラクション。
非行少年の更生にもたまに使われる。
カプセルに入った瞬間に、あらゆる『死の寸前』を経験する。
リアリティ演出の為に、このアトラクション使用中においては
仮想現実の世界という意識がない。
アトラクション使用中は実際の出来事として捉え、
終了後に満ち足りた平和に戻るのだ。
事故死や災難の死を乗り越えた人類。
臨死体験をエンターテインメント化したおかげで
当テーマパークは今日も満客だ。
あなたのご来園をいつでもお待ちしています。
奇跡、それ故に マドカ @madoka_vo
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