私の吸血鬼ライフ!

黒丸あまつ

血呪の巻

序章,視界に映る景色は

 「失礼しまーす」


 立て付けの悪い扉を、軋ませながら赤髪の少女は開ける。

 一歩進むごとに足元の床は奇妙に呻く。この家はかなり古びているようだ。それでも、少女は気にした様子がなく,明け透けな笑顔で機嫌良く奥へと進む。


 「……失礼しまーす。お、いたいたお婆ちゃん。どこにいってたの?」


 もう一度確認の念を込めて呼びかけ,襖を覗き込むように開ける。

 そこには、年老いたお婆さんが畳の床に鎮座していた。もう既に髪は白が侵食し、眉間や目尻にはしわが刻み込まれている。

 お婆さんは振り向きざまに笑顔を向け,天真爛漫な少女も呼応して笑顔を翳す。


 「えへへ、前に来た時はいないからびっくりしちゃったよ」


 少女はお婆さんと対になって机を挟む形で座る。座布団を一々持ってくる姿はかなり抜かり無い。

 喜悦の表情を浮かべ、机に向かって前屈みに頬杖をつく。これは、いつも対面に話す時の姿勢なのだろう。お婆さんも何も言わず、俯瞰しているだけだ。


 「うん、そうそう。私、ついに十五になりましたー!大人の女性って感じがするでしょー?」


 足をばたつかせている姿は、年相応かそれ以下の年齢にしか見えない。


 「え、見えないって?いやー、辛辣だなーお婆ちゃんは。見ててよ、びっくりするくらいのナイスバディの大人の女性になるから!今は、ちょっと牛乳を飲んで成長を待ってるの。ん?そんなこと言わないでよー。胸だってこれからこれから!」


 元気に、有り得ない将来の体のラインを手で空になぞっていく。それを冗談交じりに披露し、快活に大口を開けて笑う。


 「うん、分かった。お茶を持ってくるの?もう、仕方ないなー、お婆ちゃんはとことん働かないよね。私が来たらいつもこき使うんだから」


 よいしょと掛け声を入れて立ち上がり、少女は軽快に歩いて台所へと向かう。

 急須きゅうすを持ち出し、一飲みサイズのコップに注いでいく。

 

 「よし、お婆ちゃーん。お茶汲んできたよー」


 お盆に乗せ、


 「はい、お茶」


 渡す。


 「んふふ」


 落ちる。


 「美味しい?やったぁー」


 狂気。狂気狂気狂気。


 「えへへ」


 虚ろな瞳で、何を思ったのか。



 少女は誰も存在しない、乱雑に血臭がまとう居間で一人、喋っていた。




 そこには、人の首がーーー


 


 


 

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