第8話 外側だけは綺麗な
目の前にいる女性、アミルは、能力や見た目より、その中身に異形性を兼ね備えていた。
その言葉、その表情、どれをとっても本意に聞こえない。
そして、異世界である僕の世界を知っている。しかも、僕のことすら把握しているような発言だ。
「アミル……君は何者なんだ?」
「ただの美女さ。女は小悪魔な方が魅力的なんだよ?」
舌を出して微笑むさまは、禍々しい本性を上手く隠していた。
「そもそも、僕がこの世界の救済を言い出さなくても、いずれ皆から声はかけられていたさ。なんたって、現状を打開できる能力があるのは私だけなんだから」
「でも、グランも強いじゃないか」
「いくら強くても、能力が不適切だよ」
ね、グラン。とアミルに視線を向けられる。
「……あぁ、俺の魔法は治癒。戦闘にはあまり役立たない」
渋々、アミルに促されるようにしてグランが口を開いた。
「魔法というのは、個人の資質により利用できるもので、一つの系統しか使えないんだ。アミルは液状化したり、炎を放ったりと多才に見えるが、これも『細胞を変化させる魔法』という、一つの魔法の多様性に過ぎない。所詮は一種類の魔法だ」
「いいもん、多様性があるから。グランと違って」
グランが無言でアミルを睨みつける。
アミルは楽しそうに微笑んだ。
「……だから、攻撃に特化した能力を使える人材が欲しかったんだ。この国にも多くの戦闘派がいたが、この数年の戦いでみな死んでいった。今残っているのは、俺たちと、まだフラスコの前で観察してくれている補助隊だけだ。彼らも戦闘向きの魔法は使えない。だから、裏方に徹してもらっている」
僕が最初にみた白衣の人たちは確かに多かったが、もうこの国にはこれだけの人数しか残っていないのか。
人口としての数は、もう壊滅している。
「グラン、あと一人忘れてない?」
「あいつは頭数に入れなくてもいいだろ」
「あいつって?」
「うちの天才様だよ。君を連れてきた、張本人さ」
アミルは指先だけ液状化し、それを空中で絵にし始めた。
「こんな顔の女の子がいるんだ~。名前はユナ。ユナ・クレイモア」
空中に描かれた顔は細部まで描かれており、本人の顔を完全に捉えていた。
見た感じ、中学生とかそれ以下な幼さが残る顔立ちに、肩まで伸びた柔らかそうな髪がその子に健康的な印象を与えている。
「ま、今は失神してるけど」
「え、どうして?」
「君らを別世界から連れてきてるから、魔法の使い過ぎで倒れただけよ」
アミルは小馬鹿にしたように笑っていたが、仲間ではないのか?
「この子の魔法は『転移魔法』。距離や質量に関係なく、好きな場所から好きな場所まで物体を移動させられる魔法なの。この魔法は本当に特異なもので、歴史上でみても二人しかいない。だから、天才って呼ばれてるの」
「歴史上2人……」
「でも、今回は計画のためにいっぱい頑張ってもらったから、倒れても仕方ないけど」
僕が落ちた穴を作ったのが、そのユナという少女なのだろう。
「魔法も無限じゃない。全速力で走り続ければ、誰だって動けなくなる。私もグランも例外じゃないわ。ユナもね。さすがに、異世界に幾つも転移魔法を配置すれば、私なら心臓止まってるかも。失神程度で収まってるから、さすが天才だよ」
「だからって、もうこれ以上はさせないからな。アミル」
グランが圧を込めてアミルに言った。
「これ以上はユナの体に障る」
「はいはい。もうさせませんよ~」
描いたユナの顔をしかめっ面にして、グランに向けた。
「十分に検体も出来たし、あとは残りがどうなるかだけで良いよ。あと幾つかのフラスコの中で、味方が出来ればよし。何もできなくても、検体はすでに一人はいるから良し。もう十分、外に出られる」
「外に……?」
外は、グランが言っていた化け物がはびこっているはず。
そこに出ていくということか。
「怖い?」 大丈夫よ。私もグランも行くから。その天才ちゃんもね」
「待て! ユナも連れていくのか!?」
「当たり前じゃない、グラン。あの子はあなた以上の戦力なんだし」
「それでも、危ないじゃないか! 怪我でもしたらどうする!」
「グランが治してあげなさいよ。治癒魔法なんだから」
興奮が治まりきらないグランを無視して、アミルが僕に話しかけた。
「ところで、あなたはどんな魔法が使えるの?」
さも当然のように、アミルが言う。
「いや……僕は魔法なんて使えないよ」
「え、でも私、ちゃんと細胞いじったわよ?」
初めて、アミルが予想外な表情を浮かべた。
「フラスコで生き残ったのよね?」
「はい……」
「その時は? なんか変な力が出たりしなかった?」
「いや、特に……」
純粋に殴っただけだ。何も特別なことはしていない。
なんとか思い出そうとして、その時の映像を思い出してみる。
……やっぱり何も起きてはいなかった。
「そいつに魔法は、今の所は使えない。魔法を使えるような細胞変化を行えていないんだろう」
フラスコの様子を、僕の戦いを見ていたグランがそう言う。やっぱり僕には魔法は無い。
「だが、そいつの中で何か変化は起きている」
「何か……?」
「そいつは、本人が言うには元々戦闘に関して経験のない人間だそうだ。その発言通り、特出した戦闘技術も能力もない」
アミルはその話を聞きながら、凄く不思議そうな顔をしていた。
「だが、戦闘のセンスは潜在的にあったのだろう。フラスコの戦いでも、さっき俺と戦った時も、一目置くものがあった」
「グランとも戦ったんだ。勝った?」
「……知らん」
「だっさ」
そこだけ、アミルは嬉しそうに笑った。
「じゃあ、私の作品はグランより強かったと」
「……好きに判断しろ。それに論点はそこではない」
「ほうほう。じゃあ論点は何だい?」
挑発的に尋ねるアミルに、グランは吐き捨てるように言い放った。
「お前は肉体ではなく、精神をいじっただろ」
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