第7話 決死の案

「うまい、うまい」


 モンスターはヌッと立ち上がる。

 見てみると、顔には殴った痕跡が見当たらない。


「自己再生能力か」


 どのモンスターにも共通してある能力、それが【自己再生能力】だ。

 体内に存在する核を破壊しない限り、こいつらは無限に再生を続ける。


 だが、それだけじゃない。


「お前、本体硬いな」


 殴った瞬間、拳には人の顔面を殴ったとは思えない程の激痛が走った。

 それはまるで、金属の板を思いっきり殴りつけたかのような痛みだった。


「水音の肉体とは違う。どうするか」


「にげん、じゃま、くう!」


 今度は突進してくる。


「チッ!」


 俺はそれをギリギリで避ける。


 速い。

 モロで食らったら肋骨全部砕けるな。

 けど殴ったら手も砕けるし、どうする? こういう相手は関節技なんか効くとか聞いたけどそんな技分かんないぞ。


「くう、くう」


「まだ言ってんのかよ」


 奴は再び突進の構えをとる。


「クソが。こんなの……ッ?」


 俺は今、すごくしょうもないがあの突進攻撃の打開策を思いついた。


「くう!」


 突進してくる。

 俺はそれを避けようとする。そしてその避ける瞬間に、俺は自分の足を奴の脚の前に残し、引っ掛けた。


「ッ⁉︎」


 すると奴は転び、頭真正面から地面に激突した。


 今だ!


「クッ」


 俺は倒れ込んだ奴に素早く近づき、無理矢理仰向けにさせ、ポケットからボールペンを取り出した。


「確かにお前は硬い、だが流石のお前でも目までは硬くないだろ」


 俺はボールペンをモンスターの片目に突き刺した。


「ああああああああ!」


 モンスターは叫ぶ。

 そんなものはお構い無し。続けて俺はもう片方の目に向かってボールペンを突き刺した。


「ああ! あああああ!」


 ボールペンを経由して、目が潰れる感触が伝わってくる。


「はぁ、はぁ、もう1発」


 俺はボールペンを引き抜き、もう一度差し込もうとする。


 その時だった。


「ブワァ」


 なんとモンスターは口から緑色ガスを吐き出してきた。


「ウッ⁉︎ なんだっゲホッゲホッ」


 俺はモンスターから離れる。

 あまりの強烈な臭いでむせてしまう。


「な、なんだよこれ。ッ⁉︎」


 その時、俺は奴の様子がおかしい事に気がついた。


 なんと、彼の体の色がどんどん黒く変色していくのである。


「ま、まさか」


 擬態を、解くのか?


 俺の予想は的中し、奴は体が黒いままどんどん大きくなっていった。

 それと同時に、奴の背中から何本も尖ったツタの様なものが生え出し、顔もゴツゴツと変わっていく。


「あ、あぁ」


 奴がその様になっている間、俺は驚きと恐怖のあまり声などが出せなくなっていた。


 その変身は数十秒続き、そして完了した。


「ッ⁉︎」


 我に帰った時にはもう既に奴は完全にモンスター、【アーマードスパイダー】の姿に変身していた。


 その全長は俺の身長を超える程で、皮膚はまるで鎧の様に硬く、毒を持っているのが特徴だ。


 という事は、さっきのガスは奴の……


「キシャァァァ!」


 ダメだ、このままだと殺される。

 水音が走っていった後方には逃げられない。かといって奴は自己再生能力で目が治っている為真正面でやりあう事はできない。

 どうする? 一体どうすれば……?


 俺はモンスターの体の下に隙間がある事に気がつく。


 確か、蜘蛛は脚で体を地面から離して浮かせてるんだったか。

 ん? て事は……これしか無くないか?


 それは決死の案であった。

 まあ、それ以前も危なかったが、今回は特に危険だ。


「キシャァァァ!」


 蜘蛛は何本もある脚を動かし高速で近づいてくる。


「クッ、やるしかないだろ!」


 俺は接近する蜘蛛に向かって走り出す。


 決死の案、それは蜘蛛の体の下にある隙間に入り込み、走り抜ける事である。

 一見単純で簡単そうだが、問題なのは奴の攻撃の仕方が分からないというところにある。

 噛み付いてくるのか、それとも脚で突き刺しにくるのか、考えるだけでかなりある。


 なので、下を走り抜けるこの案は負ける可能性が高い賭けだ。


「キシャァァァ!」


「ウォォォォォ!」


 俺は死ぬかもしれない恐怖を紛らわせる為に叫ぶ。


 距離が詰まっていき、目の前に蜘蛛の顔が現れる。


 その時、蜘蛛は前の脚一本を上げ、俺に突き刺そうと振り下ろしてきた。


「ッ⁉︎」


 俺はその突きをギリギリで避ける。

 そしてその勢いのまま、蜘蛛の下に転がり込んだ。


「よし!」


 俺は抜けるまで勢いを殺さずにそのまま立ち上がり、駆け出した。


 危なかったが、成功した!


「キィ⁉︎」


 しかし、蜘蛛はすぐに振り向き俺を視界に捉えた。

 そしてもの凄いスピードで追ってくる。


「クソ! どうにか撒かなきゃだ!」


 俺はその後、モンスターに追われながら夜道を駆けていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る