9月23日


 日曜日。晴れ。昼夜の寒暖差が大きい。頭痛や腹痛を訴える子もチラホラ。せっかくのお休みだけどおとなしくしていましょう……という声がそこかしこで漏れる。


 美鈴おばさまから小さな荷物が届いた。リーフティの缶が二つとレモンビスケット、そして、手紙が入っていた[貼付]。


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前略


 電話では元気そうでしたが、おばさんは別の不安で胸がざわついています。ゆりちゃんの精神面に。人はとても大きなショックを受けると部分的に記憶が抜け落ちる場合もあるとか。もしかして、ゆりちゃんもそういう状態なのかしら。今回の件はまだ、おばさんと秀峰おじさんしか知りません。そちらを出て拙宅に移り、近くの学校に通いながらバレエ教室へ……というのは悪くない考えだけれど、ゆりちゃんがママと相談して決めなくては。

 あのね、ゆりちゃん。おばあちゃまは五月半ば過ぎに突然亡くなったでしょう。持病もなかったから、あまりに唐突でビックリしたわよね。お医者さまも虚血性心疾患としか診断しようがないっておっしゃって。で、お葬式を挙げて、それから法事もしたわね。死去からおよそ百日目に行うのが百箇日法要。ゆりちゃんが寮に戻る直前だったので、お誕生日祝いをしておこうって話になったけど、当然パーティなんて気分じゃなくって、ひっそりしたものだったわね。

 だから、おばあちゃまの鶴の一声でママの反論を封じることはもうできないの。おばさんたちはゆりちゃんを応援しているけれど、ママとの間の緩衝材としては、おばあちゃまほどの力を持ち合わせていないのだから、意見が噛み合わないときはゆりちゃんが自力で解決法を模索しなければなりません。

 それに、ここで蒸し返すのはどうかって気もするけど、そもそもゆりちゃんが前のお教室で他の生徒さんと揉めごとを起こしたせいでバレエをやめざるを得なくなったんじゃなくて? きっと同じ先生にはお世話していただけないと思う。どこか別のレッスン場を探さないと。そうそう、バレエ関連の絵柄のマグカップをプレゼントした未希ちゃんは、ゆりちゃんの事情を知らなかったからあれを選んだものの、デリカシーがないって幻滅されちゃったかしら……って、後々気にしていたわ。

 ゆりちゃんが寄宿制の学校に転入するって聞いたとき、おばさんはホッとしたの。環境を変え、バレエへの未練を絶って別の才能を伸ばす努力をするのは、ゆりちゃんの将来に有益だろうから。でも、まだまだ充分過ぎるほど若いのだし、一からやり直すのも悪くないでしょう。但し、虚心にね。また、余計なお世話と承知で付け加えておきますが、みんなで集まったときのゆりちゃんの健啖ぶりには驚きました。単なる学生なら好ましいくらいでも、バレリーナとして修業する人にはもっと節制が求められるのじゃないかしら。体を絞り直すにも相当な苦労を要するだろうと愚考します。

 そちらは早くも朝晩の冷え込みが厳しくなってきたとニュースで聞きました。体調に気をつけて。ママと話し合いができたら、おばさんにも知らせてください。紅茶とお菓子は形見になってしまった、おばあちゃまの買い置きの品です。召し上がれ。


                                   草々


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【備忘】

 親切心にせよ悪意からにせよ、自分の考えを他人に押しつけるのは重罪だ……とかいうのは、どの小説のフレーズだったっけ?

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