9月19日


 水曜日。曇り。


 深夜、暗がりでほのかに光るパジャマ姿のあたしが踊るように逍遥するのを複数人が目撃したとかで、あっという間にが伝播したらしい。腫れものを触るような態度を取るか、さもなくばヒソヒソ陰口を叩いて嘲虐するのだ。俗世間から切り離されたことが逆にストレスになってメンタルをやられた者というのは、この寄宿舎生活においては究極の負け組。身の危険を感じて逃げ込んだ場所で具合が悪くなったら後はどうするつもりだ――と。


 バレエ教室に帰りたい。おばあちゃまの家で暮らさせてもらってレッスンに通えないかな。問題はママの愛人のクズ。あれが、おばあちゃまはあたしの希望を受け入れてくれるに違いない。

 サツキさんだって元の距離感に戻ったら、またあたしを大切に扱うはず。出来心で手を出した女子高生は要らなくなった下絵を処分するように……ビリッと……ね。もちろん、お手伝いしますから……。


【メモ】

 嘲虐(ちょうぎゃく):あざけって笑いものにすること。

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