9月16日


 日曜日。曇りのち晴れ。


 待ち焦がれたサツキさんからの便りはひどい内容だった。行きつけの画材屋さんでよく顔を合わせる女子高生が男にしつこくからまれている場に出くわしたので一喝、向こうが殴りかかろうとしてきたからスッとかわして転ばせてやり、男は一見、地べたに這いつくばっただけだが、サツキさんは瞬時に鳩尾へ鋭い突きを食らわせたので(あたしが彼女に出会ったときと同じパターンだ)、苦悶の呻きを漏らして手足をジタバタさせているうちに逃げたとか。そこまではいい。問題は、その後(やっぱりあたしのときと一緒で)、事なきを得た女の子がサツキさんに惚れてしまい、サツキさんはそれを自然に受け入れたということだ。その後、未曾有の大事件の報道に接して不安と恐怖に苛まれた二人は、互いに片時も離れたくないと思うようになったので……云々。追伸の「ゆりを嫌いになったわけじゃないよ」の一言が、小さいが鋭い棘になって、あたしの心臓を深く刺した。

 一度便箋をグシャグシャに丸めてゴミ箱に放り込みそうになったものの、すんでのところで思いとどまった。誰かに見られたら大ごとだ。

 何だか、、サツキさんとという二つのペアができ、あたしだけが余りもののジョーカーとして弾かれ、捨てられそうな気がした。いとも無造作に。


【引用】

 人はみな自分自身の空想の犠牲者らしい。(ジャック・ヴァンス「五つの月が昇るとき」)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る