第9話 笑顔の奥の熱いモノ
「高校生の頃に、やっとスマートフォンを買ってもらえたんです~。それで、初めて深夜アニメというものをじっくり見て……驚きました~。キャラクターたちが生き生きと動いて喋って、すごくすぅっごくキラキラしていて、可愛らしくて、面白くって。私は、すっかり魅了されてしまったんです~。寝る前には、いつもベッドの中でドキドキしながらアニメの配信を観て、ノートにたくさんイラストを描くようになっていました~」
「へぇ~。ちなみに、最初に観たのは何のアニメだったんですか?」
「『パラダイス・プリンセス』ですよ~♪」
「って親父のアニメじゃないすか! よりによって最初がパラプリ!?」
衝撃を受ける俺。
『パラプリ』は異世界転生して『王』の力らを継承した主人公が9人のお姫様ヒロインたちに求婚されてドタバタな同棲ラブコメを繰り広げるファンタジー作品である。バトル要素なんかもあるんだが、基本的にはとにかくヒロインたちの可愛さとエッチな描写に力を入れた作品で、割とがっつりやることやってるので箱入りお嬢様が最初に見るべきアニメではなかろうて!
「朝陽ちゃんもやっぱり知ってるんですね~♪ パラプリの女の子たちはみんな可愛らしくて、魅力的で、ちょっぴりエッチで、すごくドキドキしたんです~。それで私、可愛い女の子の絵を描くのが大好きになって……イラストレーターになりたいって父に話したんですが、そんなものけしからん~と強く反対されてまして~。それで家を出て、アニメ会社に飛び込みました~。だから、あのアニメに出逢っていなかったら、今の私はいないと思うのですよ~」
「ふーむ……そうだったんですね」
そう語るまひるさんは、とっても眩しい顔をしていた。
おそらく、まひるさんのような本物のお嬢様が家を飛び出して叩き上げのアニメーターになり、シングルマザーとして子どもを産み、それからイラストレーターになるなんて道をたどることはまずないだろう。
世間を知らなかった箱入り娘が、家族の手を離れどんなに苦労をしてここまでたどり着いたのか。クリエイターとして第一線で活躍し続けながら、女手一つで二人の子どもを立派に育ててきたのだ。俺には想像も追いつかない。
彼女をそこまで変えてしまうくらい、アニメには、創作には力がある。しかもそれが親父のアニメだったなんてな。
なによりも――そんな荒波を笑顔で乗り越えてきたこの人は、やっぱりすごい。
「まひるさんはずっと絵を描いていますけど、嫌になったり、飽きたりすることってないんですか?」
「そんなことないですよ~! 大変なことはいっぱいあるけど、描きたいものはもっとい~~~っぱいあって、どれだけ描いても描き足りないくらいですから~♪」
こういうことを笑って語れる人だからこそ、本物のプロなのだとは俺は実感する。やっぱすげぇわ。
「まひるさん、本当に絵を描くのが好きなんですね。きっと天職ですよ」
「ありがとう~♪ でもね、正確には女の子を描くのが好きなんですよ~。可愛くてえっちな女の子はねぇ、この世の宝なんです~♪」
「へ?」
そこでまひるさんがパソコンをいじって、モニター画面に『つぶったー』を表示する。
まひるさんの『いいね』欄には、他のイラストレーターさんたちの神イラストが山ほどあった。まひるさんはその中から下着姿の女の子がぺたんと座り込んでポニーテールを作っているイラストを表示する。それはまひるさんの友人イラストレーター『
「朝陽ちゃん朝陽ちゃん~! ここ、ここみて~! このはみ出しちゃってる横乳の柔らかそうな感じと綺麗な腋のライン~~~! 白いうなじ! 鼠径部の艶! スラッとした指のカーブ! それにこのくりっとしたおっきな瞳! すっごくえっちで可愛いですよね~!」
「まひるさん性癖がだだ漏れっす! 確かに可愛いけど母親が息子に堂々とこういうの見せるのどうなんすかね!?」
「はぁ~ドキドキしちゃう~可愛いなぁ~♥ 私もまだまだ勉強が足りないよ~。女の子をもっとえっちに、もっと魅力的に描くにはどうしたらいいかなぁ。やっぱり私が世間知らずだからダメなのかなぁ。みんなすごいなぁ……はぁ~……♥ あっ、良い構図思いついちゃいました~!」
他の絵師さんたちの絵を見つめて恍惚とした表情になり、なんだか興奮した様子でまた仕事に取りかかるまひるさん。
そう。この人は本当に美少女が好きなのだ!
暇があれば『つぶったー』や『pixy』で美少女イラストを見つけてニコニコしているし、好きなイラストレーターさんの画集を何度も眺めているし、女の子が可愛いアニメは欠かさず観ているし、流行りのソシャゲでエロいキャラが実装されたと知ればすぐに始めて目を輝かせる。とにかく美少女へのアンテナがすごいのだ。そしてその感動をすぐに自らの絵に起こす。
そんな強い想いがあるからこそ絵師としてトップを走り続けられているのだと思うし、その熱がまた周りを魅了するのだと思う。元々絵の才能はあったとしても、それをここまで伸ばしたのは間違いなくこの人の類い希な努力だ。
俺は椅子から立ち上がる。
「まひるさん、話ありがとうございました。仕事の邪魔しちゃってすいません。じゃあまた後で」
「はぁ~い。あ、朝陽ちゃん~」
部屋を出て行く直前、まひるさんが言った。
「みんなで一緒に良い作品、作りましょうね~。ヒロインが可愛い子だといいなぁ~♪」
おいおい、この人の期待に応えるのは骨が折れるぞぉ……。
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