第36話 ぶどうの粒

 最近、同じ夢を繰り返し見た。


 幼い頃、瀬奈がよく遊んだ積み木がでてきた。

 丸い積み木の上に、三角形を乗せようとして何度も崩した。

 夢の中で、積み木は巨大だった。

 瀬奈は無理やり丸の上に三角形を乗せて、その上に片脚立ちでバランスを取ろうとする。

 何度も崩すが、夢の中の瀬奈は、どうしてもその上に乗りたがる。

 ようやく乗れたとしても、三角形の鋭く尖った頂点が爪先に突き刺さった。

 血が滲み、ポタポタと指から血が垂れていくのを感じる。

 それでも瀬奈は見て見ぬふりをして、落ちまいと片脚で耐え続ける。


 そんな苦しい夢だった。

 目が覚めると、一気に疲れが押し寄せた。

 浅い睡眠が何日も続いていた。


 瀬奈の体調は思わしくなかった。

 放っておくと、次々と症状が増えていった。


 初めは口内炎だった。

 口の中にニキビのようにポツリとデキモノができたと思ったら、みるみる白くなって化膿した。

 フェラする為に口をすぼめると、傷口が圧迫され激痛が走った。

 小さいくせに手強かった。


 そして、唾液の分泌量が急速に減った。

 加齢によるものだとしても二十九歳にしては早すぎるし、病気も考えたが条件が当てはまらない。

 瀬奈はネットで調べると、ストレスによるものだという情報がでた。

 ベティーは、プレイで使えるローションがなかった。

 だから唾液はなくてはならない商売道具だった。

 それらが邪魔で思うようにプレイ出来ないのが、瀬奈は悔しかった。


 そして何よりも、あそこが気になって仕方がない。

 今までも生理の時に、股がかゆくなる事はあった。

 しかし瀬奈は今、生理じゃなかった。

 試しに市販の薬を塗ってみたら、そこがヒリヒリ燃え上がるように熱くなった。

 それでも治まるのは一時的で、忘れた頃にしつこいかゆみが暴れだし、瀬奈を悩ませた。

 まるで小さな突起の内側を、誰かにくすぐられているようだった。

 トイレで用を足した時や、お風呂の石鹸で洗う時には、掻いた傷跡が染みた。

 一日を、まんこのかゆみに振り回されるのは、損した気分だった。


 さらに瀬奈を追い詰めるように、生理も近づいてきた。

 とうとう瀬奈は、気持ちに余裕がなくなり、接客態度にも悪影響を及ぼした。

 生理前、瀬奈の胸は張っていた。

 触れられると痛いというより、神経を逆撫でされるようだった。

 まんこのかゆみもあいまって、いつもより過剰に敏感になる。

 瀬奈は触れられる度に、客をぶん殴りたくなる衝動に駆られた。

 こんな暴力的な気持ちになるのは、初めてだった。


 熟したぶどうの房の一粒だけを、トントンと指先でつつき、そのうちポツンと落としてしまう。

 そんな空想が瀬奈の頭から離れなかった。

 ぶどうの粒は乳首だった。

 瀬奈の乳首は丸くはち切れんばかりに勃っていた。

 指でつつかれると、ムズムズしたかゆみと共に、ゾッとする不快感が全身に走った。

 そういう時、瀬奈は通路に背を向けて、ボーイに見えないように、何度も顔を歪めて堪えた。


 亮太とのセックスですら、快感は一滴も得られなくなった。

 瀬奈は身体がコントロール出来なかった。

 亮太が瀬奈の胸にしゃぶりつく。

 もう触られたくないのに、自然と乳首は勃つ。

 仕事で嫌になるくらい触られたのに、むずがゆさに反応してピンと張った。

 自分でもアホらしくなるくらいだった。


 亮太は、瀬奈が感じていると勘違いして集中的に指で弄り、舐めてくる。

 そんな亮太に、瀬奈は「辞めて」なんて言えなかった。

 彼が満足するまで我慢して、気持ち良いふりをした。


 それを気付かせない器用さを、今の瀬奈は身につけている。

 ほっとすると共に悲しかった。

 まるで、家でも仕事しているみたいだった。 


 セックスが終わると、瀬奈は胸から乳首が、ポツンと落ちてないか確認し溜め息をついた。

 自分の身体から、逃げ出したかった。

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