第13話 我慢も仕事。
初日を終えた時に、瀬奈は下周りの攻めをNGにしたいと矢崎に頼んだ。
しかし数回の出勤を重ねると、店長から「生理の時以外は、下周りの攻めをOKにするべき」だと強く勧められた。
「お客さんは気持ちよくなりたくて来てるけど、ミルクちゃんにも一緒に気持ちよくなって欲しいって思ってるんだよ。その方がお客さんも興奮するし、絶対に本指名も取りやすくなるから。楽したいんじゃなくて稼ぎに来たんでしょ?」
返す言葉に詰まった瀬奈は、店長の力押しに負けてしまった。
我慢する事も仕事だ。
瀬奈は、自分に言い聞かせた。
辛くてもそれくらい我慢しなければ、1位を取ってカレンに勝てる訳がない。
何かを得る為には、何かしら失わなければならない。
稼がないと、結婚が叶わない現実を噛みしめた。
三十分で客は入れ替わる。
七時間以上勤務しないとご飯休憩がもらえなかったので、瀬奈は最低でも七時間は勤務するようにしていた。
新人期間でフリーの客をつけてもらいやすかったから、一日に十人程の相手をする事が多かった。
これまで亮太一筋、亮太の持つ一本だけを愛してきたのに、いきなり十倍の相手をするようになった。
瀬奈はそれをこなした自分に驚いた。
人間やろうと思えば何でも出来る、と笑いたい気持ちもあった。
同時に知りたくなかった事まで知ってしまった、取り返しのつかなさも身に染みた。
瀬奈はモテなかったので、亮太以外にコミュニケーションが取れる男は、同じ会社の男しか周りにいなかった。
ここに来なければ、こんなにたくさんの男とは話しもしなかった。
工事現場の監督、不動産、外回りの営業マン、教師、タクシー運転手、様々な職業の男がいた。
安い店のせいか、大企業の社長だとか、政治家という社会的地位の高い人とは、なかなか出会わなかった。
自分の生活レベルと、おそらく近いと思われる男が次々やってきた。
その中には彼女がいる者、既婚者、子持ちの父親までいたので、瀬奈を驚かせたが、そのうちそれがあたりまえになった。
だからといって、亮太への怒りが治まる事はなかった。
他人は他人だ。
地球上でただ一人、亮太だけは風俗に行ってはダメな男だった。
普段何気なく周りにいる男達が、ひっそりこんな店で抜いている。
瀬奈は男という生き物がどうしようもなく動物的に思えて、情けなかった。
もちろん、風俗店に出入りする事は、性欲を真っ当に自己処理しているから、決して悪い事ではない。
男は皆一人一本ずつチンコを生やし、それに振り回されて生きている。
ここにいると、その事実を剥き出しで突きつけられる感じがした。
それは同時に自分も、一生まんこに振り回されて生きるという事でもあった。
女だけが理性的に生きられるわけがない。
理性が保てるのは、人格の問題であって男女の差ではないと瀬奈は考えた。
亮太に何度まんこが疼いたか、子供が欲しいと激しく願った時だってそうだ。
瀬奈は、はっきりとその感触を自覚していたから、自分だけを棚に上げる事は出来ず、悶々とした。
本番、素股が禁止されたプレイの中で、一番ハードに瀬奈が感じたのは69だ。
女の子が男の顔の上に跨りながらフェラチオし、男は女の子にクンニする。要するに舐め合いっこだ。
「69してもいい?」と聞かれると、喜んで「いいよ!」とは答えられなかった。
亮太とのセックスでもした事がないのに、他人にするのは心が引きちぎられるようだった。
亮太に申し訳なく、土下座して謝りたいくらいだった。
だけど亮太もここでなら、そんなプレイをするのかもしれない。
想像すらしたくなかった。
瀬奈は、この体勢の何が良いのか理解出来なかった。
姿勢をとるだけでも疲れた。
まんこが好きで、顔の近くにある事にドキドキして、そのままフィニッシュしてしまう客はよかった。
しかし中には、ピンサロの環境に不慣れで、女の子の身体を使って監視のボーイから顔を隠したい、という恥ずかしがり屋がいた。
それには瀬奈も完全に呆れてしまった。
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