外れスキル『スライム降らし』で始める追放スローライフ 俺のことが好きすぎるメイドとともに、いちゃラブ無人島生活

佐藤謙羊

第1話

 この世界の人間は、小等部に上がる際に『発現の儀式』によって、ひとつの技能スキルを与えられる。

 それは生まれながらに持った才能のようなもので、剣術や魔術、果ては狩猟や裁縫にまで、多岐に渡る。


 剣術のスキルを与えられた者は、冒険者や衛兵となり、夢抱く者は剣豪を目指す。

 裁縫のスキルを与えられた者は、服作りの職人となり、夢抱く者は王族お抱えの宮廷裁縫師を目指す。


 ようはその者の将来、そして一生をも決定付けるものでもあるのだ。


 そして中には、『空から何かを降らせる』スキルを与えられる者がいる。

 降らせるものができるのは『雨』だったり、『雷』だったりと様々。


 しかし何を降らせるにしても、とてつもなく強力で、有用であった。


 雨を恵みにする者たちにとって、雨を自在に降らせる人間は神に等しい。

 雷を降らせる人間などもはや、神と言っても過言ではないだろう。


 そんな特別なスキルを与えられた者のことを、人々は『フォールズ』と呼び、世界を導く者として崇拝していた。


 『フォールズ』……。

 それは成功と栄光を約束された、世界最強のスキル。


 ずっとそう思われていた。

 この俺が、あの●●能力を手にするまでは……。



 ◆  ◇  ◆  ◇  ◆



 俺たち兄弟は、『発現の儀式』を目前に控え、我らが一族の長、ユニバーの言葉を賜っていた。


「……我ら『ストライク一族』は、代々『フォールズ』によってこの世界を支配してきた一族じゃ。

 この世界に平和を取り戻せたのも、我ら一族の力があってこそ。

 しかし、我ら一族の活躍はこれからじゃ。

 魔王の脅威が無くなったいま、各国の群雄割拠が始まるであろう。

 いまこそ我ら一族の力で、この世界を統べるときが来たのじゃ」


 齢五百を超えたときから歳を数えるのをやめたという大老、ユニバーは俺を見据えながら続ける。

 その瞳は老いてもなお、野心にらんらんと輝いていた。


「よいか、スライクよ。

 お前は五兄弟の長男にして、占いによって、もっとも優秀な『フォールズ』を与えられるであろうと出ている。

 これすなわち、お前が世界の覇者となれという、神のおぼしめしも同然。

 まだお前は子供じゃが、まずは小等部でしっかりとリーダーシップを発揮するんじゃ。

 弟たちを手足として使い、学友を家臣とし、学校を支配するのじゃ」


 俺が黙って頷き返すと、ユニバーは『発現の儀式』を行なう祭壇を指した。


「さて、そろそろ『発現の儀式』が始まるな。

 スライクよ、最強の『フォールズ』を得て、これから学友となる者たちの度肝を抜いてやれ。

 弟たちは、兄の晴れ舞台をしっかりと目に焼きつけておくのじゃ!」


 ……と、期待いっぱいで送り出された俺。

 そのあとの儀式で俺に発現したスキルは、たしかに『フォールズ』であった。


 しかしそれは、歴史を紐解いてみても前例のない、とんでもないものを降らせるスキルであった。


 なんと、『スライム』……!?

 史上最弱とも呼ばれたモンスターを、空から降らせる能力……!?


 ちなみに、俺の弟たちに発現した『フォールズ』はというと、


 腕力が強い弟、ヴァイオは『隕石』を降らすことができる『メテオフォール』。

 性格の良い弟、ミリオンは『黄金』を降らすことができる『ゴールデンフォール』。

 頭脳明晰な弟、ジーニーは『天啓』を降らすことができる『ウィズダムフォール』。


 そして俺たち兄弟の末っ子にして、紅一点であるミラには……。

 『奇跡』を降らすことができる、『ミラクルフォール』。


 『発現の儀式』が終わったあと、ユニバーは俺たち兄弟にねぎらいの言葉をくれた。

 手にしていた杖で、俺だけを小突いて横に押しのけてから。


「みな素晴らしい『フォールズ』を得たな。それでこそ、我が一族の人間じゃ。

 これからお前たち四兄弟●●●で力を合わせ、まずは小等部を支配するのじゃ。

 中等部、そして高等部まで支配したあと、お前たち四人●●に小国をひとつくれてやろう。

 その小国をもっとも発展させた者こそが、このワシの跡継ぎとなるのじゃ」


 ユニバーは弟たちを見回しながら、渇死した樹皮のような顔を歪めて笑う。


「さあて、堅苦しい話はここまでにして……。

 今日は、世界征服の前祝いといこうではないか」


 彼女はそのまま弟たちの肩を抱き、儀式の会場をあとにする。

 俺にはもう、一瞥すらくれなかった。



 ◆  ◇  ◆  ◇  ◆



 一族の期待の星だった俺は、たった一日にしてその座から陥落。

 屋敷も追い出され、使用人の住む小屋で暮らすこととなった。


 ストライク一族では、発現の儀式で『フォールズ』以外のスキルを得たら廃嫡となる。

 俺は辛うじて『フォールズ』だったので縁切りは免れたが、一族の恥さらしとして扱われた。


 しかし俺は、少しでも一族の役に立とうとがんばった。


 スライムを降らせる能力で、弟やクラスメイトたちの成長を助ける。

 時には兄として弟たちを励まし、たしなめ、将来の指導者として正しい道に進めるように導いてやった。


 自分なりに、みんなのために貢献しているつもりだった。

 しかしそれは、高等部を卒業する時になって、終わりを告げる。


 高等部卒業を記念して、学年全員で卒業旅行に行くことになった。

 ストライク一族が所有する豪華客船を使って、世界一周旅行をすることになったんだ。


 俺も船の雑用係として、その旅行に同行したのだが……。

 気が付くとなぜか、見知らぬ浜辺に打ち捨てられていた。


「せ……船室で、寝てたはずなのに……?

 こ……ここは、どこだ……?」


 割れるように痛い頭を押え、起き上がる。


 服は寝たときの作業着のままだ。

 あたりを見回すと、どうやら島にいるようだった。


 ……いったい何がどうなっているんだろう?


 しかしその答えはすぐに出た。

 沖には俺が乗っていた豪華客船が停泊し、クラスメイトたちがデッキに出ていたんだ。


 彼らはみな、俺を見て笑っていた。


「ぎゃはははは! 見ろよ、スライクの顔! まだなにが起きたのか、わかってないって顔だぜ!」


「おーい、スライク、その島はなぁ、『生前地獄リビング・ヘル』って呼ばれてる無人島だってよ!」


「昔は罪人をそこに送り込んで処刑してたらしいぜ! 送られた人間は、みなひどい死に方をするそうだ!」


 俺はまだ事態が飲み込めずにいた。

 すると客船の屋上に、四つの人影が現れる。


 王のように豪奢に着飾った、俺の弟たちだった。

 彼らは『マイク』と呼ばれる、魔法を使った拡声装置で俺に呼びかけてくる。


『最悪の島に追放された気分はどうだ、兄貴ぃ!?』


『だってしょうがないよねー。お兄ちゃんってばさぁ、学校にいる間ずっとウザかったもん!

 あれしろ、これはするな! ってさぁ!

 だからさー、僕たちで追放しよってことになったんだよねー! キャハッ!』


『そこで私の『天啓』を使って、兄者に最高のご恩返しをしようということになったのですよ。

 その島に送られて生きて帰ってきた人間は、未だかつてひとりもいないそうですよ』


『私たちはこれから、ユニバー様からいただいた小国に向かうの。スライクはそのまま死ねば?』


 俺は頭の中がガンガンして、グチャグチャだったが、海に向かって走った。


「ま……待てっ! これは何かの冗談だろう!? は、早く、早く助けろっ! でないと……!」


 懸命な叫びも、嘲笑によってかき消される。


『がっはっはっは! 助けないとどうするつもりだ!?』


『きっと、おこったぞーってなるんだよ、キャハッ!』


『そして、役立たずのスライムを降らせるのですね』


『スライムといっしょに、そのまま死ねば?』


『よぉーし、それじゃあ最後にみんなでプレゼントだ! 兄貴に冥土に土産をやろうぜ!』


 ヴァイオの掛け声とともに、デッキに出ていたクラスメイトたちが一斉に手をかざす。


 あれは、『フォール』の構え……!


 俺は船を目指すために海に飛び込もうとしていたが、慌てて踵を返す。


「サンダーフォールっ!」


 稲妻が、俺のすぐ横に降り注ぐ。


「ぎゃあっ!?」


 俺は砂埃とともに飛び上がる。


「ファイアフォールっ!」


 空から炎が落ちてきて、あたり一面が火の海と化す。


「あっちーっ!?」


 俺は焼けた鉄板の上を素足で走っているかのように、アチアチと跳ね回る。


 『フォールズ』のクラスメイトたちは、弟たちのウサをかわりに晴らすかのように、自分の持てる力をありったけ俺にぶつけてきた。

 俺は、ただただ逃げ惑うばかり。


 その姿がよほど滑稽に映ったのか、クラスメイトのバカ笑いが止まらない。

 なかには笑いすぎて、腹を押えて立てなくなる者、泣き出す者までいる。


 俺はいままで一緒に学んできたクラスメイト、そしていままで一緒に暮らしてきた弟たちに裏切られ、気が付くと走りながら嗚咽を漏らしていた。

 しかしその悲しみすらも、ヤツらの手によって蹂躙されてしまう。


『兄貴のおかげで、卒業旅行は最高のフィナーレになったぜぇ!

 こいつは駄賃だっ! 「メテオフォール」っ!』


 神の鉄槌のような隕石が、蒼天から降り注ぐ。

 浜辺に着弾し、島の形を変えるほどの大穴を開ける。


 ……ズドガァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーンッ!!


「うっ……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」


 爆心地の間近にいた俺は、その轟音と爆風をまともに浴び、天高く吹っ飛ばされていた。

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