第41話 ファーストコンンタクト

 俺達はメンデルの後に付き従い、王宮の中を進む。

 俺も含めてアリス以外の全員が緊張している。エクレアもこの場所には入った事がないのだ。


「ルガー殿、何故私どもに依頼を? 【クッキー・マジシャンズ】は銅級ギルドですが?」


 メンデルは白いちょび髭を軽く引っ張り、歩みを止める事無く説明した。


「シュトルーデル卿とラペルト卿のお墨付き、ラキミシャ帝国の侵略を防いだ英雄、詩の主人公、武術大会優勝者……まだ続けますかな?」

「いえ、結構です。そこまで私を評価していただけるとは光栄です」


 メンデルはニコリと笑う。


「……勝手ながら、パラッシュ殿の経歴を調べさせていただきました。【高潔なる導き手】に在籍していた時は、かなり不遇な扱いを受けていたようですね」

「ええ、まあ。当時、その自覚はあまりありませんでしたが……」


「その忍耐力こそが一番の決め手と言ってもよろしいでしょう……」


 豪華なドアの前に立ったメンデルは、白髪のオールバックを撫でつけた。


「なるほど……理解出来ました」


 これは最難関の依頼が来たかもしれない。

 メンデルはドアをノックする。――中から返事があった。



 負傷した護衛官ポメラ・ホワイトが復帰するまでの二週間、彼女の代わりにプリンセスガードを務め上げる。それが今回の依頼だった。

 ワーウルフの彼女は驚異的な再生能力を持つが、その代わり回復魔法が効かないのだ。




「男をプリンセスガードにするなんて、どういう気かしら!? 私が犯されたらどうするつもり!?」


 メンデルは頭を深く下げると、ドアの向こうへと消えて行った。

 あとはそちらに任せるという事だろう。これはまいった。


「大丈夫ですよ。うちの副ギルド長は紳士ですから」

「黙りなさい! クビよ、クビクビ!」


 セシリア王女は、しっしっと俺を追い払おうとする。

 まだ自己紹介すらしていないのにこの始末。先が思いやられる。


「ねえお姫様、アンタにその権限はないから」


 さすがエクレアだ。王族に対してこの口の利き方。命知らずにもほどがある。


「そもそも私に護衛なんて必要ないの! 何でそれが分からないのかしら!」

「二週間前の倒木は、ラキミシャ帝国が殿下を狙ったものと聞いていますが……」


「そんな訳ないでしょ! 木が腐ってただけなの! ――あんな馬鹿げた話を鵜呑みにしてしまうなんて、アナタよっぽど頭が悪いのね。きちんと学校には行ったのかしら?」


 これは強烈だ。この圧倒的口の悪さに、先任者達は一日しかもたなかったらしい。ちなみに、俺で十五人目だ。

 それまでは全員女性から選んでいたそうだが、ついに弾切れとなり、男である俺に回ってきてしまった。


「大体アナタ、本当に私を守れるの? とっても弱そうよ?」

「ホワイト殿ほど上手くやれるかは分かりませんが、それなりに腕は立つ方です。特に防御力には自信があります。お任せください」


「守りに入った男なんて何の魅力もないわ。男なら牙と爪を研ぎなさい」


 俺は笑いをこらえながら、自分と三人の紹介を簡単に済ませる。



「そう、パラッシュね……どうせ、すぐいなくなるのだろうけれど、一応覚えておいてあげるわ。感謝しなさい」

「ありがとうございます」


「それにしても、こんな冴えない女達をハーレムみたいに連れ回して、本当みっともないわよアナタ」


 頭を下げていた俺は、横目で仲間たちの様子を見る。

 ノエミはぷるぷると肩を震わせており、エクレアはイライラと足踏みしている。

 アリスがセシリア王女に手を向けたので、慌てて止める。


「ではパラッシュ、さっそく服を買いに街に出掛けるわ。ついてきなさい」

「――店の者を呼ぶことができますが?」


 というより、専属の仕立て人がいるのだから、既製品を買う必要などないはずだ。

 しかも、王族の者自らが店に出向くなど、考えれない事である。


「いい? 服が欲しい訳ではないの。買い物をしたいのよ。まあ、分からないのは当然ね。まったくモテなさそうですもの。アナタのような女心にうとい男は、ろくでもない女にしか好かれないわよ?」

「――なるほど、勉強になります」


 俺は三人を手で制しながら、にこやかにうなずく。


「その素直に学べる姿勢は評価してあげるわ。先任の女達はそれができなかったの。自分より年下に諭されるのが、気に入らなかったんでしょうね。――いいパラッシュ? 私の賢さをどんどん吸収しなさい。そうすればアナタも、多少はマトモな男になるわよ」

「メギ――」


 俺はエクレアの口を手で押さえる。


「存分に学ばせていただきます。殿下」

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