第18話 VS100
「仕方ない……! アリス、行くぞ!」
かなりの危険を伴うが、見捨ててはいけない。
罠に気をつけながらも、急ぎ足で通路を進んで行く。敵に見つかるのは覚悟の上だ。
「――死ね!」
見張りの兵士二名を素早く片付けた。
後ろを振り返る。アリスは天井にへばりつきながら、しっかりと俺の後をついてきている。
俺はさらに奥に進み、大きな広間にたどり着いた。
(二階から、かなりの数の気配がするぞ……)
木でできた通路に伏せ、待ち伏せしているに違いない。
奴等に気付かれる事無く、ヴァルフレード達の元に向かわなくては。
「――お願いだ! やめてくれええええええええ!」
「む、こっちか……!」
俺は叫び声がした方に、忍び足で向かう。
恐らくそこに、今回の黒幕もいるはずだ。
(――いた!)
ヴァルフレードが兵士三人に頭をつかまれ、口から粘菌を入れられようとしている。
「シッ――!」
俺は部屋に飛び込み、口から粘菌を吐き出そうとしていた兵士の首を刎ね飛ばす。
そして二本の刃を同時に、二人の兵士の口に突き刺した。面が空いているタイプの兜で良かった。
――ガキンッ!
俺は背後からの一撃を、振り返ずにショートソードで受ける。
「――ほう、やりますね……」
両手に特殊な形状をした短剣を持った褐色の男。
俺と同じ、アサシンスキルを持った魔術師だろう。
「ジャマダハル……ラキミシャ帝国か」
「正解です!」
カンッ! キンッ!
俺は魔術師の連撃を受け、奴の腹に蹴りを入れる。
「うっ! ――ぐあっ!」
体勢を崩した魔術師を、ショートソードで斬りつけたが浅かった。
「やれ! お前達! こいつを殺せ!」
そう言うと、魔術師は闇の中に姿を消した。
二階から兵士達が飛び降りてくる。
「ヴァルフレード! お前も戦え! ここで迎え撃つぞ!」
この部屋は入り口が一つだけ。
そこで戦えば、一度に相手にする数は三人ほどで済む。
「お前! 【アンスクレ】で俺を殴った奴だな!」
俺はヴァルフレードの言葉を無視し、手足を縛っているローブをダガーで切断した。
「入口に集まったところを、<
「俺は今、魔法が使えねえんだ! この腕輪を何とかしてくれ!」
ヴァルフレードの腕には武術大会で使われる、封魔の腕輪が嵌められている。
これは非常に頑丈にできているので、破壊する事は難しい。
「……無理だ! カギを見つけないと外せない! 兵士の槍を使え!」
俺は落ちていたショートスピアを拾って、ヴァルフレードに渡す。
「無理だ! あんな数、相手に出来る訳がねえ! 逃げようぜ!?」
「それこそ無理だ! いいから来い!」
俺は入り口の前に立ち、ショートソードを順手、ダガーを逆手に構えた。
「ヴァルフレード! 他の奴等はどうした!?」
「ゲロを飲まされて、どっかに行っちまった!」
兵士だけでなく、魔術師まで相手にしなくてはいけないという事だ。
恐らく【知恵の探究者】と【栄光への階段】のメンバーも寄生されている。これは厄介だ。
「うおおおおおお!」
兵士達が入口に殺到する。
俺は<
幸い目的地が廃坑だったためか、槍を持った兵士が少ない。
俺の武器はリーチが短いので、
「六、七――ヴァルフレード、胴体狙いでいい! お前は奴等を止める事だけを考えろ!」
「ひいいいい!」
接近戦のスキルがないヴァルフレードに、頭部を狙えと言うのは酷な話だ。
体狙いでいいから、少しでも勢いを殺してくれればと思ったのだが、へっぴり腰で突いてるので、まったく止められていない。
「九、十、十一! ヴァルフレード! 腹に力を入れろ!」
「もう駄目だああああ!」
ヴァルフレードは槍を放り投げ、部屋の奥に逃げ出した。こんなに情けない奴だったとは……。
敵兵士の槍が、俺の魔力の膜に当たる。さすがに全ての攻撃を防ぐのは無理だ。ある程度食らうのは仕方ない。
「十二、十三……切れ味が落ちてきた……!」
俺はショートソードとダガーを捨て、ロングソード二本を拾う。
その瞬間、兵士たちが左右に割れた。
「<
「<
炎の槍と冷気の光線が、俺のMPを奪う。
まだまだ余裕はあるが、これをずっと続けるのはさすがにまずい。
「<
「<
四発の雷撃を食らう。並の盾役だったら、完全に壁を破壊されているだろう。
だが俺は並ではない。
素早く弓を構え、奥にいる魔術師に矢を放った。
が、魔力の壁に弾かれる。これは厄介だ。
再び兵士達がつっこんできた。クールタイムが終わるまで、こいつらで時間を稼ぐつもりなのだろう。
「十五、十六! ――やはり、スタミナがまずいぞ」
呼吸が乱れ始めている。このペースでは三十人が限界か……? やはりブランクの影響は大きい。
「十八、十九、二十! はあはあ、しばらく剣を振ってなかったから、大分体がなまってるな……」
MPにはまだまだ余裕があるものの、スタミナが完全に尽きれば、もろに攻撃を食らってしまう。そうなれば、さすがに俺の<
「二十一――っ! 剣が折れた!」
落ちている武器を拾おうとした矢先、手をつかまれた。
「――アリス!?」
人間形態に戻ったアリスが、俺の手を握っていた。
彼女は左手を敵に向けている。
「――すまんな、お前にはやらせたくなかったんだが。いくぞ、アリス! <
――バシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュッ!
「凄い連射速度だ!」
アリスの<
昨日の練習時よりも、倍くらいの連射力がある。その間にアリスとの絆を深めたという事だ。
「……さっきのあれか」
「<
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「<
「<
手をつないだままなので、魔力の膜はアリスも覆っている。
俺達にダメージはないが、<
このまま何度も魔術師達の魔法を食らうのは危険だ。
「アリス、奥にいる魔術師達を狙え! 壁ごとぶち破るんだ! <
魔術師達に魔法の矢が放たれる。
暗闇の中に浮かぶ、白く輝く軌跡が美しい。
魔術師達の<
壁が無ければ魔術師は脆い。次々に倒れていく。
その中には、サンドロとバルトロメオの姿もあった。
「よし、やったぞ! このまま兵士達を蹴散らしながら進む!」
兵士達を殲滅するだけなら、ここで撃ち続けた方が賢明だ。
だが、魔術師達が倒された事で、ラキミシャ帝国のアサシン魔術師が逃げようとしているはず。奴だけは絶対に始末しなくてはいけない。
俺達は近づいて来た兵士を駆逐しながら、裏口の方へと向かう。
奴が逃げるとしたら、絶対にそっちだ。何故なら、村に馬がいるからだ。
「いたぞ! ここは俺に任せろ!」
行動不能にさせるのなら、弓の方が早い。
俺はアサシン魔術師の足を狙い、矢を放った。
「ぐあっ!」
奴が転ぶ。逃げる事は不可能と悟ったのか、ジャマダハルを構えた。
「<
「<
これで互いの魔力の膜は打ち消し合う。つまり、純粋な接近戦勝負だ。
「死ねえええええ!」
「なんの!」
カンカンカンッ!
俺はショートスピアの柄の中心を持ち、両剣を扱うように奴の連続切りを受ける。
「きえええええい!」
「遅い! ――っせい!」
左右から挟みこむような刺突をバックステップで避け、奴の体を槍で突き刺した。
「うがっ……」
「――死ね」
槍を引き抜き、怯んでいるアサシン魔術師の頭に振り下ろす。
奴が崩れ落ちるように前に倒れる。俺は背中から心臓を貫き、とどめをさした。
「まだ兵士達が残っている。いくぞアリス!」
指揮系統を失ったためだろう。兵士達は先程とは打って変わって、単純な攻撃をしかけてくる。
まっすぐこちらに突っ込んでくるだけなので、<
「アリス、ありがとうな。助かったよ――」
俺はアリスを抱きしめる。
そして、彼女に触れてやっと気付いた。
――アリスは全裸だった。
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