第31話
ああそれから間もなくだった。
俺は貴女のその可愛らしくも愛らしい唇より婚約そのものの存在をなかった事にして欲しいと言うとはね。
それもそれぞれお互いの両親達が打ち揃う中、降嫁した筈のキャシーは未だ妊娠をしていないと言って俺へべったりといちゃつけば、両親はそんな様子に微笑ましく……いや違う。
確かに父上は俺達の様子を微笑ましくも羨ましい視線で以って見つめてはいた。
だがその隣にいた母上は流石一国の王妃また小国とは言え王女であった故に不快な様子は
この時の俺はまだそんな母上の内部事情にまでは気づいてはいない。
もしこの時点で……いやもっと早くに気付いていれば状況は、きっと変わる事はないだろう。
それでも血を分けた親子だからこそ分かる笑顔と言う仮面の下でほんのごく僅かに見せた不快な表情と言う素顔を……。
そしてセジウィック公爵夫妻は俺とキャシーの状況など最早どうでもいいと言わんばかりに今ははっきり言ってそんな些事ではなく、自分達の慾を満たすべく大切に育てた
また俺自身母上の長年に渡り内に秘めているだろう感情よりもだ。
先ず何よりも優先すべきはエリザベス、貴女を決して逃がさず俺の腕の中へ堕とす事にしか頭にはなかったのだ。
いや、この状況でも決して貴女を逃がしはしないけれどね。
何故ならリドゲート公爵の望みを父上の命令とは言え俺はキャシーとの間に子を生そうとしている。
言い換えれば公爵と俺はウィンウィンの関係でもあるのだ。
本音を言えば余り喜ばしい事ではない。
だがこうなった以上もう使える駒は何であろうと使うしかないと思い至った訳である。
そう、公爵の子飼いの影よりエリザベス、貴女の行動はより一層正確にまた事細かく俺へと伝えてくれるのだよ。
貴女が内々に両親達へ婚約を破棄したいと願い出た事も。
そして不幸な事故とは言え無垢なる貴女汚らわしいものを宝石よりも美しいエメラルドの瞳へ映してしまった事も。
それから本当に貴女はいけない子だね。
真綿で包まれた箱庭育ちなのに現実へ立ち向かおうとする強い意志を持つ、ああそれすらも愛おしくて堪らないよ俺のリズ。
貴女のなす全ての事がこんなにも甘くて愛おしい。
だから僕は影へ命じあるモノを取り寄せたのだ。
幻夢の華と言う遥か東の、咲弥達影の者が住む国でも貴重な秘薬。
その名の通りこれを体内へ吸引若しくは飲めばその者は
幻夢の世界へ誘われれば己が自身で考える事もまた現実世界で思う様に動く事も出来なくなってしまう。
所謂生き人形。
勿論俺は愛する貴女を心より愛してはいるが生涯を生き人形のままであって欲しくはない。
お互いに想い合い大切なる関係となりたいのだ。
だから俺は迷わず吸引方法を選んだ。
愛おしい貴女を俺の腕の中で幻夢の世界へほんのひと時、そう成婚の儀が終え俺の正妃となり初めての夜を熱く愛し合えるその瞬間までエリザベス、貴女にはどうか幻夢の世界で心穏やかに過ごして欲しい。
ああ勿論現実の貴女の世話は俺がしっかりとさせて頂くよ。
初めての夜が貴女にとって至福となる夜となる様に、決して痛みや苦しみを与えたくはないからね。
愛している。
八年前初めて逢ったあの瞬間より俺の心はリズ、貴女だけのものなのだから……。
因みにリドゲート公爵は幻夢の華を無事出産を終えたキャシーへ飲ませる
公爵にすれば最初に咲弥のどの様な形であれ奪い去ったキャサリンを許せないらしい。
また妹を狂女と罵る辺り彼女に対して愛情は全くないのも事実だろう。
キャシーは一度暴れると手が付けられない。
我儘で高慢で真の愛情に飢えた愚かで可哀想な俺の妹。
だが全てはお前が招いた未来でもある。
幻夢の花は吸引ならばひと時だけ夢の世界へ捕らわれる。
しかし一度でもそれを飲み込めば肉体の死を迎えようともその心は永遠に幻夢の世界にあるらしい。
公爵……いや俺と貴女の未来を護る為にも妹には夢の世界の住人となって貰お
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