第21話
あどけなくも美しい王女キャサリンの背後には常に影の様にひっそりと付き従う咲弥がいた。
子供ながらに……いや子供だからこそ純粋過ぎる悪意を持つキャシーとその願いを現実のものとする咲弥の存在に俺はまごう事なき恐怖を抱いたのだ。
これまでの被害を受けた令嬢達を苦しませた犯人が俺の分身であった事に驚愕が隠せない。
そしてこの事実を両親へ報告する勇気が俺にはなかったのだ。
きっとこの頃は愛に飢えた双子の兄妹としてお互いに共生関係にあったのかもしれない。
この瞬間まではそれすらも自覚をしてはいなかった。
だが本来ならば、そう未来この国の王となるべき者ならばとるべき道は一つしかなかった筈なのに……。
全てを白日の下へと晒し、主犯格であるキャシーと実行犯の咲弥を王である父上へと突き出さねばいけないと言う事も十分過ぎる程に俺は理解をしている
そう、その心算だったのにいざ俺を、何の罪悪感もなく不思議そうに見上げる
ただ単純に俺が他の令嬢へ関心を向けてしまう事で自分自身を捨て置かれてしまうとでも思ったのだろう。
でも何度も言うが血を分けた兄妹だからこそっ、キャシーの不安は誰よりも俺は理解が出来たのだ。
そうして俺は次第に正常な判断を鈍らせればそのまま何もなかったかの様に日常は過ぎていく。
件の令嬢は体調が優れなかったのだろうと周囲より事ある毎に憐みの目で見られる事となったのだ。
数年後その令嬢は周囲の視線が居た堪れなくなり、また幼い頃よりの婚約者より婚約破棄をされれば良縁に恵まれる事無く自領へと戻り密やかに命を絶ったらしい。
それをつい最近知らされた俺は激しく後悔をした。
また同時に俺自身余りにも愚かだと猛省した。
そうあの時っ、あの瞬間を正常な心で以って対処さえしていればだ!!
そうすればきっと件の令嬢の末路も変わる可能性はあったのかもしれない。
また俺自身は貴女との婚約もそして婚約期間も幸せに満ちた時間であったと思う。
あの令嬢達の様に今度は大切な貴女の命を危険へと晒す真似?
いや違う。
成人を迎えた夜のキャシーは本気だった。
ああ本気で貴女の命を狙う心算だったのだろう。
そして結果俺はキャシーを乞われるままに抱いた。
その後何度も強要されるがままに抱き続けたよ。
俺の腕の中で乱れる妹に何故か欲情してしまった俺は本当に屑だとも思った。
それでもだっっ。
それでも心だけはっ、俺の心の中には何時も優しい笑みを湛えた貴女がいた。
何時か二人で幸せになりたいと、俺は心の中で情けなくも貴女のその笑みに縋り付いていた。
なのに現実は俺にとって何処までも優しくはない。
そんな俺の心を見透かしている様にキャシーの心は荒れ、何としても俺の心を手に入れようと何度となく俺の身体を欲していく。
しかし貴女が15歳となった頃だった。
22歳の大人の女性であるキャサリンはこれまでに両親が持ち掛ける縁談を
怒りで荒れ狂うキャシーには悪いが俺は心の中で仄暗い笑みを湛えてしまった。
まあ普通に妹の結婚を兄として素直に喜ぶ――――いや、そこは流石にキャシーが可哀想なのかもしれないな。
何故ならキャシーの夫となる公爵は俺達よりも17歳も年上、然も彼が早婚で早くに子供が生まれておれば親子程の年齢差と言っても差し支えはないだろう。
おまけに幾ら資産や名門公爵家と言う地位があったとしてもだ。
公爵の容姿は美しいとは程遠くまた樽の様な体型の男である意味性格も余り宜しくはない。
王女の降嫁先としては余りに酷いと言えば酷いものだった。
だがそれは何も公爵一人が悪い訳ではないのだ。
本をただせば幼い頃より両親は俺同様にキャシーにも年齢に釣り合う高位貴族の子息や周辺国の王子達との見合いの場を何度となく設けてはいたのだ。
しかしその度に難癖をつけ、相手の子息や王子達を貶し陥れてきたのは誰であろうキャシー本人だったのである。
そうして最早行き遅れと呼ばれてもよい年齢へ差し掛かった頃に気付けばだ。
目ぼしい夫候補達の隣にはそれぞれ仲良さげな伴侶若しくは婚約者がいたと言う。
また彼女の夫となる公爵は所謂ロリコン。
幾ら17歳と言う年の差はあれどもキャシーは22歳の成熟した妙齢の女性。
当然公爵の食指は動く筈もなく、とは言え公爵家の継嗣を産まなければいけないのもまた事実。
公爵の囲う少女達に子が出来る様子はないと言うかだ。
漏れ聞くところによれば公爵と言う男は少女達を可愛がるのが趣味であって肉体関係を持つ事はないらしい。
孤児や売りつけてくるだろう少女達を買い、綺麗に着飾らせ美味しいものを食べさせまたそれぞれに見合う教育を施せば、少女でなくなった娘達をそれなりの家へと縁づかせているらしい。
そして公爵自身は男性としての機能は全く役に立たないのだとも……。
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